第1回 糸井重里、独白。
なぜ創刊11周年記念にお弁当を買いにいくのか?
2009-06-05
第2回 さて、当日。 2009-06-06
第3回 乗組員たちは何を買ったのか?! その1 2009-06-07
第4回 乗組員たちは何を買ったのか?! その2 2009-06-08
第5回 乗組員たちは何を買ったのか?! その3 2009-06-09
第6回 食後の感想 その1
人はなぜ「海鮮」に魅かれるのか
2009-06-10
第7回 食後の感想 その2
弁当のヌーベルバーグが起きている
2009-06-11
第8回 食後の感想 その3
糸井重里の「理想の弁当」は
2009-06-12
最終回 糸井重里、まとめ。
「ドン・キホーテは語る」
今日の更新

ほぼ日刊イトイ新聞の
創刊11周年記念企画「イべんとう」。
47名でお弁当を、買って、食べて、語り合い、
47個のお弁当の内容をつまびらかに紹介する。
前代未聞のこの企画は、
予想を超える反響をいただきながら
まさにいま、つつがなく終了しようとしています。

最終回。
ここはやはり、発案者である糸井重里に、
企画全体の「まとめ」をしてもらいましょう。
発案者の狙いは、その狙い通りの展開になったのか‥‥?



よろこんでましたよね、乗組員のみんなが。
「イべんとう」という、まあ、
ネーミングについては、さておき、
これを「やる前」「やってる最中」「やったあと」
「原稿作り」「デザイン」「更新」「反響のメールを読む」
ずーっと一貫して、よろこんでますよね? 
悲しんでる人は、いないですよね?
まずはとにかく、
そういうことがやりたかったわけで。

ぼくら、レストランにみんなで食べにいくのは
何度かやってるじゃないですか。
それはそれで、よかったのはわかるんですけど、
「あー、おいしかった」となるに決まってて、
それじゃあ、やっぱりちょっとおもしろくない。
で、弁当をみんなで買ってきて食べるっていう、
なんていうんだろう‥‥
売り手の側がのせられる情報量が
とても多いじゃないですか。
相手方のクリエイティブが。
レストランの料理は品質は保証済みだけど、
同じものを出してきてくれるわけです。
クリエイティブの総量としては、
弁当のあの並び方と比べれば、すくないですよね。
あの弁当売り場のクリエイティブ総量に対して、
いかにみんなが今の時代の「1000円」を感じながら、
それを2枚も、ね、使っていくか。
大丸の地下で、大量の弁当が、
「私に、一票を!」って訴えかけてたでしょ。
千円札が、「票」でしたよね。
それ感じたでしょ? 選挙みたいな。
ああやってみんなでやると、ますますそうなるんです。
‥‥っていうことをね、やってみたかったんです。
これがおもしろくなるのはわかってました。
そしてやっぱり、おもしろくなりました。
今回の「イべんとう」には、
「食べる前と、食べたあとには、
 簡単なレポートを書いてもらいます」
っていうルールがありましたから、
行く前にちょっと考えましたよね。
あとでどんなことを書こうか、
そのためにはどんな弁当を選ぼうか。
でも、いざ現場につくと、
みなさん動物になっちゃってましたよねー(笑)。
それをいちばん表現してしまったのがぼくなんです。
ぼく自身が。
つまり「買えるんだったら備蓄しよう」っていう(笑)。


丼、にぎりめし、おこわ、揚げ物。
いまだにぼくは江戸時代の発想ですよね。
「備蓄しなくちゃ!」

なんでしょうかねえ‥‥
「金本位制」の前の、「米本位制」ですね。
そういうぼくのなかの、
原始の血というか、歴史が、
こう、うずしおのように、
大丸の地下で、騒いじゃったんです。

ほかにも、こういう集め方の人が何名かいましたけど、
そんなねえ? 血を騒がせちゃまずいだろ、と(笑)。
でも反対に、
きれいにおさまっちゃってるのもそれはそれで、
なんにも遊んでないだろ! って思う。
ひとりで弁当を買うのと、まったく同じじゃぁ、
「イべんとう」のたのしみがないじゃないの。
だから、なんにせよ、だめなんですよ。
で、なんにせよ、いいんです。

ただ、ぼくの弁当でいうと、
こういう人間がチームの中にリーダーとしていれば、
食べそこなった人は、急にもらうことができますよね。
「あ、いいよ、これもってって」
ていう食べ物が3、4種類ありますから。
揚げ物関係で2個でしょ?
あとおこわが2種類、おにぎりもある。
5つは、「どうぞ」って言えるんですよ。

‥‥そういうふうに、しちゃうんです、ぼくは。
みんなで食えるようにとか、備蓄とか。
もう、しみついちゃってるなぁ。
だってひとりで食えるわけないんだもん、こんなに。


で、ほんとに案の定、あの日は結局、
風邪気味だった家人に、おこわ2種類を渡して、
彼女はそれとサラダで夕食をすませました。
事実上、完成したわけです。
だから、人生に狂いなし。
しかし、おもわくは、狂ってしまった(笑)。



こういうぼくとは真逆の方向で、
勇み足しちゃったのが、ハリウくんでしたよね。
「焼き鳥だけ」っていう、バラエティをつくりたい。
ゲームの隠しコマンドみたいなのをつくりたくなる。
そういうのはあります。
だめですけどね(笑)。
でもやっぱり、なんにせよ、いいんです。

という具合で、それぞれに、みんないろいろで。
仕事をしたといえば、
まあ、したと言えるのではないでしょうか。

ほんとうのことを言うとですね、
みんなに「2000円」ずつ渡しましたよね。
あの「2000円」という価値から離脱して、
弁当を選ぶことが大事だったんです。

だから「ふだん買えないお弁当を買いました」的なのは、
ほんとはだめなんですよ。
「ふだんのあなたと比べる企画」じゃないんだから。
あれはある種の「祭り」だったわけで。
「祭り」っていうのは、価値をとっぱらうことでしょ。
ふだんの社会的な価値についてはね、
ほんとはね、言わないほうがいい。
「肉が食べたかった!」とだけ言えばいいんですよ。
だって大仏様をつくるのにさ、
「ああ、この材料があったら家が建つのに」って思う?
思うかもしれないけれど、
こらえて言わないことが大事なんですよね。
それが「品」なんです。
価値から離脱できるかどうかが「品」なんですよ。

いや、でもまあ、そういうこと言ってる、
自分がこうですからねえ。


離脱どころか、備蓄してます。
きっと農民の血が騒いだんでしょう。
ぼくの先祖は、いまごろの季節は田植えをしてますから。
だからこれは「過去との対話」です。
この買い物は、先祖と一緒にやった仕事なんですね。

「ああ、おこわはうめえんだよなぁ」
「にぎりめしもうめえんだぁ」
「フライも売ってんだよなぁ」
「胃がもたれっからキャベツも買っとけ」って。

とくにこの、
コロッケ、アジフライというのは
ぼくの「人生のアイコン」ですからね。
自分のお墓をコロッケの形にしたいくらいですから。
墓標にはこんな言葉を刻みましょう。

── この男は
   コロッケのように思い
   コロッケのように考え
   コロッケのように行動し
   コロッケのように人々に愛され
   コロッケのように 死ぬ
   コロッケ ここに眠る
   (ものまねはしなかった)

最後にかならず、
(ものまねはしなかった)を入れてください。
誤解されますから。
ちがう人だと思われますから。
線香立てにはアジフライをレリーフして。
左右には、フグだね。
フグも好きだからね。
フグの花さし。
くちをぽかーんとあけてるところに、お花をね。

コロッケの墓石はともかく、
みんな覚えておいてほしいのは、
ぼくは弁当に貼ってあったシールを、
新幹線の中ではがして、
手帳に貼って京都に行ってるんです。

あれをしてなかったら、この企画はなかったんですよ。
考えてみてください。
弁当のシールをはがして、
手帳のはじっこに貼ることが、なかりせば。
創刊記念に「イべんとう」が、なかりせば。
ねえ、ちょっとさみしいじゃないですか。

「この金目鯛の弁当はなんだ!?
 掘っても掘ってもおかずがでてくるぞ!
 これはもしかしたら、
 情報だって掘れるかもしれないぞ!」



と思って、ぼくはペタッとほぼ日手帳に貼るわけですよ。
この、みんなに教えてあげたいっていう心が、ね?
そういうのが、「ほぼ日」じゃないですか。
「おれの金目がみんなの金目になればいいな、
 よろこんでほしいな」

っていうことをね、言っておきたいです。
まあ、控えめにしときますけど。
自慢話です。

ようするに、今回ぼくがやったようにして、
どんどん情報をわけていきましょうということです。
よろしくお願いします。
最後についでに言いましょう。
たぶん、乗組員のみんなは、
「こういうのをまたやろうか?」って考えるでしょう。
「イべんとう2」って、いけるじゃん、とか。
‥‥ああ、やっぱり。
図星という顔をしてますね。
ツー(2)を、やろうと考えてるんでしょう。

そういう考えに対しては、
ちゃんと言っておかないとだめですね。
身内の恥をさらすようであれですけど、
読者にも言いたいので。
まあ、きみたちそこへ座りなさい、と。



「はぁ〜〜」と、大きくため息をつくわけです。
ぼくは年に1回くらい、
楽天の野村監督、ノムさんのようになるんですね。
「ほんとにしょうがねえなぁ」と。
「だめだだめだ」とね。
でも、ぼくはノムさんじゃないですし、
この場合は、ちょっとちがう感じですね。
もっと、なんでしょうか、村長(むらおさ)でもないし‥‥
あ、いっそ将軍にしましょうか?
病床の将軍。病床がいいです。
いや、やっぱりドン・キホーテにしましょう。
病床の、将軍を夢想するドン・キホーテね。
ぼくが、そのドンキホーテだとすれば、
まあ、こう、疲れてたどり着いた旅館の部屋に、
鉄仮面とかが、あるんですよ。
いちおう、日本旅館でね(笑)。
商人宿って感じかもしれないね。
老いさらばえたドン・キホーテが、病床についてる。
電気スタンドに、コップと水差しもあって。
せまい宿です。
枕元には、鉄仮面、鎧、脚絆、みたいな。
その病床の騎士が、
「きみたちそこへ座りなさい」と。
やがて、老いさらばえたドンキホーテは、
ゆっくりと半分身を起こしてさ、
きみたちに向かって、震える声で言うんだよ。

「ツーがどれだけむつかしいか、
 わかっとらんようじゃのう‥‥」

だから(笑)、あのね、
もう1回「金目鯛がおいしかった」ってやっても、
誰も読んでくれないんです。
それぞれがちがうのを選んだって、
それは個人の正解に近づいていくだけで
新しい何かをなんにも呼べないんですよ。
シャッフルするだけでしょ?
それが、ツーの正体ですよ。
なのに、「あ、またコレはやれるな」
って思ってる人は、
「顔を洗ってわらじのひもをしめ直して旅に出ろ」
と震える声でドンキホーテに、また言われるんです。

言いたいのは、そこですね。

このイメージをちゃんと残したいので、
「老いさらばえたドン・キホーテ」は、
本職の方に頼んで絵を描いてもらわないとだめですね。
あの人にお願いしたらどうでしょう。
「はじめての落語。」で、
イラストをお願いした小松紘子さん。
和風のタッチでね。

これで「まとめ」になっていれば幸いですが、
どうなんでしょうね?
なにはともあれ、たのしかったです、
ありがとうございました。

(クリックすると拡大します)
イラスト/小松紘子さん
以上をもちまして、
「イべんとう」の「まとめ」とさせていただきます。
全9回に渡る、情報量たっぷりの
11周年記念コンテンツになりました。
最後までおつきあいいただいたみなさま、
こころよりありがとうございました!

最後に「ドン・キホーテ」から
ややまわりくどいかたちで指導を受けた
「ほぼ日」乗組員たちですが、
これからもどんどんゆかいなコンテンツをつくって、
みなさんにおすそわけできるよう、
たのしくがんばります!

「イべんとう2」は、どうやらなさそう?
でも、またこれと同じくらい、
いや、もしかしたら、
もっとにぎやかなコンテンツをお届けいたしますね!

最後にもう一度。
ラストまでお読みいただき、ありがとうございました!

2009-06-13-SAT


(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN