李監督×糸井重里対談
最終回【いいものは勝ちます。かならず。】
糸井 パンフレット買おうと思わせる映画は
やっぱりすごいですよね。
なかなか買わないでしょう?
でも、これはパンフレットも
よくできてたんですよ。
買いたくなるように。
いろんなことがいいほうに転んでますよね。
『フラガール』って、
わかりやすくて、でも低くないんですよ。
重要なのは僕はそこだと思うんですよね。
低くてわかりやすいと
何の意味もないんだけど(笑)、
わかりやすくて低くないっていうのが
やっぱり一番気持ちいいですよ。
 
黒澤映画とかそうですね。
糸井 そうですよ。『七人の侍』って
わかりやすくて低くないです(笑)。
ええ。今村(昌平)さんのも、
テイストは全然違いますけど、
わかりやすい。
糸井 うん。十分笑って帰ってこられるみたいな。
ええ。で、なんか重たいじゃないですか。
わかりやすくて重たいっていうのが一番‥‥
糸井 うん、いいんだと思うんですよね。
そこがね、どうもわかりづらくて
重たいほうが
評価されやすいんですよね(笑)。
糸井 結局それは
評論家のメシの種になるってことですよね。
政治についても何でも
論争するのが商売の人は、
論争すればするほどいいわけだから、
「これ簡単でしょう」と言われたら
困るでしょうと(笑)。
いやー、そうか、当事者ってやっぱり
そのくらい本当に実寸に見てるんですね。
すーごく思いましたね。
そうですね、もう‥‥
アラがいっぱい見えるんですよね、
やっぱり。編集してる最中から、
「あ、もうここ、どうなるんだろう」とか、
「なんでこう撮っちゃったんだろう。
 また使わないと話がつながらないし」
とか、「でも、ここはいいなあ」とか、
ありますよ。
糸井 なるほどな。それはでも、
とてもよくわかりますね。
自分のそばにあるものは
絶えず見てますからね。
そうですよね。
自分の子は不細工に見えるっていう
感じですよね。
糸井 逆の人も多いと思うけど、
現場が盛り上がって酔っちゃって
つまんないものが出てくっていうことも
ありますよね。
それを映画学校の実習で体験したんです。
みんなで楽しくやって、出来上がったのが
「何、これ?!」みたいな。
「楽しい必要ないんだ、撮影現場なんて」
って、そのときわかったんです。
糸井 テレビは多いですよね、
「よかったね」って言い合ってるシーンが
見えるみたいなね。
そういうものは大体苦しいですよね。
苦しいですね。
「よかったですよ」なんて
一言も言わないですからね。
糸井 ところでタイトルですが、難しいですね。
『フラガール』というタイトルは
じつはいいとは思わなかったんです、僕。
 
いや、僕も思ってなかったです(笑)。
糸井 フジテレビの
『ウォーターボーイズ』であるとか、
あれの二匹目のどじょうシリーズに
見えちゃったんです。
山崎 (シネカノン宣伝担当)
狙ってつけたんですよ、でも。
糸井 えっ?
山崎 宣伝する予算が本当になかったので、
『ウォーターボーイズ』とか
『スイングガールズ』は
みんなが知っている。
『フラガール』がそれの二番煎じかと
思われたとしても、
認知度がゼロじゃないというところで、
似たものだと思った人は見てくれる。
でも、トゥルーストーリーだし、
踊りもみんなちゃんとやってるんだから、
まずゼロじゃないところから上に積み上げて
いくほうが得じゃないですかっていうので、
このタイトルにしたんですよ。
だけど、フラダンスを踊ってる人に
嫌われたらどうしようと
思っていたときに、
フラダンスをやっている小野先生から、
フラガールというのはフラを踊る人という
意味なんだと。で、
「そういうタイトルをつけてくれて、
 私は本当に嬉しいわ」と言われたときに、
OK! と思ったんですよ。
 
糸井 ほう。『フラガール』ってポンと出して、
それ以上のことも言わないじゃないですか。
「フラガールの何とか」とかね(笑)。
山崎 はい。その何とかっていうのも
いっぱい考えたんです。
「何とかとフラガール」とか
「何とかのフラガール」とか
「フラガールと何とか」とか。
糸井 「透明人間とフラガール」とか。
山崎 「炭坑に咲く花」とか、すっごいいろいろ。
糸井 ああ‥‥そう、サブタイトルとかね。
山崎 そうなんですよ。サブとかってもう
どんどんどんどん説明臭くなってくると、
どんどんどんどん臭く見えていくんです。
糸井 わかる。それはだから、
宣伝に頼っちゃダメだって宣伝を
次々に考えるべきなんですよ。
山崎 ああ、なるほど。
糸井 本当ですよ、それは。
いいのは勝ちますよ。いいものは勝ちます。
何かどの子もいいところがあるっていうのは
確かなんで、それにくっついてくれる
お客さんがいるって信じることですね。
そうするとき、サイズの大きすぎる
言い方をしないようにすれば、
ちゃんとその人たちが並んで
待っててくれるんです。
 
山崎 なるほど、
いいお話をありがとうございます(笑)。
そうですよね。
糸井 ウソじゃないかって言われると、
お客はそこから先、
つないでくれなくなっちゃうんで。
ウソじゃないかって言われなければ、
そのジャンルを好きな人はいますから。
山崎 そうですよね。
糸井 その意味ではこの『フラガール』は
そのあたりも含めて、
もういろんなラッキーがあったし、
判断もよかったですね。
なんか打ち上げみたいだけど(笑)。
(笑)
 
糸井 いや、本当にありがとうございました。
終わってからしゃべらせるのも
面倒臭かったでしょうけど。
とんでもない。
糸井 すいません、ありがとうございました。
次を、じゃ、楽しみにしています。
  (李監督のお話もこれでお終いです。
 明日はみなさんから頂いたメールを
 ご紹介します。)
2007-05-31-THU