「ほぼ日」中年陸上部 マイナスからのランニング。
22 おそくなりましたが、ロッテルダムのことを。
(前回まで)
長野マラソンに応募しそびれ、
家族のあたたかい理解を得て
ロッテルダム・マラソンに旅立った西本。
‥‥って、それまだ寒かったころの話じゃない?
なぜ西本はしばらく沈黙していたのか?
ロッテルダムマラソンはどんな大会だったのか?
と、そんな大げさなことではないですけど、
結果報告をどうぞー。
西本 お久しぶりです!
走るのに絶好の季節がいまですねー。
お二人とも走ってますか?
シェフ ぼくは食べて痩せるほうで手一杯。
でもジムを週2回にしたのと、
トレーナーについてもらって、
ヨガ系のストレッチを始めたよ。
あと「トレッドミルで逆走トレーニング」
っていうのをやってみたよ。
西本 それ話が長そうなので、
流していいですか?
シェフ (気にせず)ハーネスをつけて
ちょっと恥ずかしい格好で吊り下げられてね、
傾斜がついてぐいんぐいん進む
トレッドミル(ランニングマシン)に
後ろ向きにとびのって、後ろに走るんだよ。
怖くて面白いよ!
西本 どうも武井さんはエンターテインメントを
スポーツにもとめすぎるきらいがありますね。
べっかむ3はどうです?
べっかむ3 うーん、こどもとかけっこかなあ。
すっかりあたたかくなったから
やらなきゃいけないなあって思いつつ。
西本 あたたかくなったって、
もうすぐ夏ですよ‥‥。
べっかむ3 (あえて話題をかえて)
そんなことよりさ、にしもっちゃん、
ロッテルダム・マラソン走ったんでしょ。
その報告をきちんとしなくちゃ!
西本 そうでした、そうでした。
わかってはいたんですが、
ロッテルダム・マラソンが
あまりにも素晴らしすぎましてね。
シェフ (ひそひそ)
そのわりに渡欧直前はブルーだったよね。
べっかむ3 (ひそひそ)
旅、たのしみだねって言ったら
「オレはみなさんが思うような
 旅の楽しみはどうでもいいんス!
 もうスリに遭うくらいが
 話題が出来てちょうどいいんです」
とか、わけのわからないモードに
入っちゃってたよね。
シェフ 戻ってきてしばらくも
やけにキゲンが悪かったよね。
「あー、うー」しか言わないしね。
大平正芳か。
西本 大平元首相のモノマネって誰もわかりませんよ!
そうじゃないんです。
ペラペラ喋るのももったいなくて、
余韻を1ヶ月ほど噛み締めておりました。
シェフ ふーん。なんかそういうところが妙な男気だよね。
「聞いて、聞いて」じゃないんだね。
ともあれ完走したんだよね?
西本 3時間16分40秒で無事完走しました。
べっかむ3 3時間16分40秒‥‥?
シェフ 3時間16分40秒‥‥!
べっかむ3 今回は3時間15分を切ることを
目指していたんだよね?
記録更新はならず!! 惜しい!
西本 ええ。そこは無念です。
前にも言いましたが、
平坦なコースのロッテルダムマラソンは
世界でも有名な高速コース。
最低でも3時間15分以内、
3時間ひと桁を狙って練習してましたからね。
特に3月に入ってからはかなり追い込みましたし、
2月に買ったデニムが
4月にはゆるゆるになっていたくらい、
体重もこの10年で一番軽くなっていたんですけどね。
シェフ そうそう、身体もペランペランになってたもんね。
うすっ! って思ってた。
記録が出なかったのは、そのせい?
トラブルでもあったの?
西本 帰国して判明したんですが、
どうやら「ランナー貧血」
ってやつになっていたんです。
べっかむ3 ランナー貧血? それは初めて聞く言葉だ。
西本 レース直前、ぼくがかなり追い込んだ
練習をしてたのは知ってるでしょう?
シェフ うん。70歳のミック・ジャガーが
毎日13km走っているのに対抗して、
それまで10kmくらいだった朝ランを
15kmに伸ばしたんだよね。
ミックもにしもっちゃんもよく走るなあと思ってたよ。
ジャガー西本って呼びたいくらいだったよ。
西本 それじゃ女子プロレスみたいです。
ともあれ追い込んだだけあって身体もキレてきて
さあ、いよいよ仕上げだ!
となるレース2週間前に入ったところで、
突然、身体が動かなくなったんです。
体重は軽いはずなのに、
身体は重くてスピードが出なくて
ジョギングのスピードが精一杯。
最初は「疲れがたまっているのかな?」
と、思って、距離はそのままにして
スピードを落としてみたんですが
なかなか調子があがらなかった。
シェフ あ、渡欧直前のゴキゲン斜めは、そのせい!
帰国直後の無口も、そのせい!
西本 帰国して血液検査をしてわかったんですが
赤血球がかなり少なくなっていたんですね。
シェフ どうして毎日運動しているのに
貧血になっちゃうわけ?
もっと健康になりそうなもんなのに。
西本 ランニングって着地するたびに
足裏で赤血球が潰れているっていうことは
ご存知でしたか?
べっかむ3 ええ。そうなの?!
シェフ わあぁ。怖い。
だから走るのは危ないんだよ。
くわばら、くわばら。
西本 武井さんは、どんだけ赤血球が潰れても
それを補うくらい、
ガンガン食べているので問題ないです。
シェフ うん。レバー好きだし、
こないだも、ひじきを山盛り作ったよ。
西本 酸素を運ぶ役目である
赤血球が少なくなるということは、
有酸素運動には致命的なことなんですよ。
べっかむ3 なるほど、スピードが上がらなかったのは
貧血でうまく酸素が身体に
行き渡らなかったからなのか。
でもさ、5kmとか10kmならまだしも、
そんな身体でよくフルマラソンを走れたね。
西本 実は25km過ぎたあたりで、
身体が動かなくなって
リタイヤしようかなと思ったんです。
シェフ うわ、それは悔しい!
西本 ロッテルダム・マラソンじゃなければ
完走できなかったでしょう。
   
にしもっちゃんを奮い立たせたロッテルダム
西本 昨年、申し込んだときは
一人でオランダに行って、
一人で走る予定だったんですが、
「西本、ロッテルダム走るってよ」
という話がランナー友達の間で広まって。
べっかむ3 「桐島、部活やめるってよ」みたいだ。
シェフ おれ、食べすぎだってよ。
西本 (無視して)シネスイッチ銀座
吉澤さんから連絡がきたんです。
シェフ ああ、懐かしい、
シネスイッチの吉澤さん。
かなり昔の「ほぼ日事件簿」に載ってる
あの腸内洗浄の人だ!
べっかむ3 わざわざリンクを張ることもないと思う。
西本 そう。あのひとです!
あの当時はお互い不健康を
絵に書いたような生活をしてんですが、
いまでは吉澤さんも
フルマラソンを3時間5分で
完走するランナーなんですよ。
その吉澤さんから
「今度、ロッテルダムマラソンを題材にした
 『人生はマラソンだ』という作品を
 シネスイッチ銀座でやるから
 試写会に来ない?」と。
「ロッテルダムを走る予習にもなるし、
 なによりも、西本さんなら、ランナーとして
 この映画に共感するはず」と。
べっかむ3 でもさ、にしもっちゃんのツボは
独自路線だからねえ。
西本 確かに、試写会場でも多くの人が
エンディングやゴールシーンで
涙を流していたんですが、
ぼくが泣いたシーンは
サッカーファンには有名な
「You’ll never walk alone」という
サポーターズソングを
リータワーズさんというオランダ人歌手が
ロッテルダム・マラソンのスタート前に歌うシーン。
感動ポイントがおもいっきりズレてました。
べっかむ3 ほら、やっぱり。
西本 サッカー好きな人だと
たまらないシーンなんですけどね。
この映像を見てくださいよ。
セルティックとリバプールのサポーターと
一緒に歌っているのがリータワーズさんです。
シェフ すごく盛り上がるのはわかったけど、
ノリづらい曲だね‥‥。
西本 ロッテルダム・マラソンのスタートは
リータワーズさんと一緒に
ランナーが大合唱してから
スタートするのが「お約束」なんです。
今年のスタートはこんな感じで。
べっかむ3 本物が歌うんだ。それはすごいね!
シェフ オランダの松崎しげるみたいな?
べっかむ3 オランダのグッチ裕三みたいな?
西本 せめてオランダの布施明と言ってください‥‥。
西本 映画の話に戻しますけど、
この『人生はマラソンだ』という映画は
ロッテルダムの自動車工場が舞台。
昼から酒を飲みながら仕事を全くせずに
カードゲームに興じるおじさんたちが、
借金まみれの自動車工場を担保に
「フルマラソンを全員完走できから、
 借金をチャラにしてもらう」
という賭けにでるんです。
賭けに勝たないと生活もままならないというわけで
全く走らなかった中年男性たちが
一念発起してロッテルダムマラソンを
走るというストーリー。
本番のレース中に撮影したというだけあって
スタートもコースもすべて本物の
ロッテルダムマラソンなんですよ。
べっかむ3 まさに中年陸上部的映画じゃない?
シェフ 設定だけきくと
おもしろそうじゃん!
西本 うん。実際、おもしろいんです。
試写会場には「ほぼ日ランナー手帳」
一緒に作った『NumberDo』の涌井さんもいてね。
シェフ おおっ! 涌井さん。
京大陸上部出身、まさに文武両道を
絵に書いたような男。
西本 その涌井さんから
「西本さん、ロッテルダム・マラソン走るんですよね。
 『人生はマラソンだ』を紙面でも紹介しようと思って
 NumberDoでもロッテルダムを取材することになりました。
 ぼくも走りますし、作家の角田光代さんも走ります。
 記事にランナー目線をいれたいので
 取材にも同行しませんか?」
というお誘いがありましてね。

(文武両道を絵に書いたような男こと、涌井さん)
シェフ 直木賞作家の角田光代さんと一緒だったの?!
西本 ええ。他には箱根駅伝ファンには
たまらない徳本一善選手とかも。
吉澤さんも映画の宣伝も兼ねて走ることになり、
現地で合流したら、すごい大所帯に(笑)。
武井さんから
「すっごく不味いよ」と言われていたオランダのご飯も、
ぼくにはあっていたようで問題なかったですし。
シェフ あれ食べた? 生ニシンの酢漬け。
あれ、どこがうまいんだ?
西本 基本的にはキッチン付きのアパートで自炊してたので
ニシンをマーケットで買ってきて、
わさび醤油で食べました。
うまかったですよ(笑)。
シェフ そうか。わさびつければいいんだ。
西本 レース前日はみんなでご飯を作って
カーボローディングもしましたしね。
外食するより、市場やスーパーに買い出しに行って
食事を作ったほうが、安上がりだし、楽しかったです。
シェフ ぼくのすすめる「自炊旅」!
そうなんだよ、食材は悪くないから、
じぶんでつくればいいんだよ。
べっかむ3 なんか充実した旅だなあ。いいなあ。
西本 ええ。おそらくぼくほど
充実した初ロッテルダムマラソンを迎えた人は
そうそういないと思います(笑)!
NumberDoの取材に同行して
いろんな視点でロッテルダム・マラソンの
お話を聞けましたし。
まずコース攻略については
「おRunだぁず」という
在蘭邦人のランニングチームのかたに
しっかりうかがいました。
ロッテルダム・マラソンはこんな大会です!

ロッテルダムは応援がアツいんや!

「ロッテ(地元の人はこういう)はコースが単調やし、
 普通の住宅地なんかも走るし、
 見どころなんて特にないんです。
 でも、それを補う応援がすごいんですわ。
 NYCマラソンくらいアツい。
 仲間内でもいうてるけど、
 ロッテはヨーロッパで一番応援がアツいレースや!」

(このエラスムス橋が街のシンボルらしい。
 レース中は行って、帰って、2回も渡るが傾斜がきつい‥‥。)



31〜34kmだけが応援が少ないで!

「30〜39kmはKrolingse plasという湖を
 一周するんやね。
 ここ、ジョギングするには最高なんやけど、
 郊外の森やから、ギャラリーも少なめなんやな。
 31〜34kmは森を走るから、
 そこだけ声援が途絶える。
 ここが踏ん張りどころや!
 ぼくは32kmで応援してるからな!」

(早朝のKrolingse plas 前を走るのはNumberDo涌井さん  )


音楽がすごいんや!

「コース上にとにかくたくさんの楽団や
 バンドがいて、ずっと演奏してくれてるんですわ。
 コースは単調なんやけど、これがありがたいんです。
 だから、ヘッドフォンをつけて走るなんてことは
 せんほうがいいよ」


補給が少ないねんな。

「日本のマラソン大会みたいに補給食は出ん。
 水とスポドリくらいやな。
 補給食は自分でもつことや。
 給水コップには走りながらでも水が飲みやすいように
 スポンジが中に入ってる。
 スポンジは汗ふきにも使えるから、
 捨てずに使うとええでー」


スタートとゴールが一緒なんや!

「海外のメジャーレースは郊外をスタートして
 街中でゴールするんやけど、
 ロッテはスタートもゴールも
 街の中心の市役所なんや。
 すぐに家やホテルに帰れるし
 すぐに打ち上げにもいけるのが
 ごっつええとこや!」

(前夜のスタートゲート。後ろに見えるのが市役所)

シェフ 至れりつくせりの情報だけど、
なんで大阪弁なの?
西本 お話をうかがった人がそういう人だったんです(笑)。
この方、ヨーロッパでマラソンを走るために、
土日がしっかり休める仕事に転職したらしいんですよ。
べっかむ3 この人そのものがアツいね(笑)。
西本 そのほかにも
ロッテルダム・マラソンの総責任者である、
事務局長のマリオさんや
『人生はマラソンだ』の脚本を書き、
主演もされているマルティンさんにも
お話をうかがいました。

(事務局長のマリオさん)

(『人生はマラソンだ』の脚本&主演のマルティンさん)
シェフ そこまでくると
遊びの域を超えてるじゃん。
西本 ま、涌井さんにくっついて
話を聞いてただけなんですけどね。
ふたりの話によると
ロッテルダム・マラソンには
第二次世界大戦で街のすべてが破壊されたこと、
強烈なアムステルダムへの対抗心、
が背景にあるようなんですね。
シェフ ああ、そうだよねえ。
オランダの首都アムステルダムと違って
第二の都市ロッテルダムは
古い町並みがなくて
近代的な建物ばかりなんだよね。
建築に興味がある人には
たまらない街でもあるけど。

(駅の形も独特で…。)
西本 第二次世界大戦で街がすべて破壊された
ロッテルダムの人たちには
「ゼロからつくり上げる」という精神が
生まれたんだそうです。
だから、このロッテルダムマラソンも
市民にとっては、
単なるマラソンを超えた存在なんだと。
走る人だけでなく、走らない人も、応援することで
このイベントを作ることに参加しているんだと。
それがアツイ応援につながっているんですね。
首都アムステルダムにも
アムステルダムマラソンがあるらしいんですが、
ロッテルダムのように街が一体となったような
盛り上がりには欠けるらしいんです。
映画でも描かれているんですが、
ロッテルダムの人はアムステルダムが嫌いらしいですよ。
べっかむ3 そうか、首都でもあり、文化の中心である
アムステルダムのことをロッテルダムの人は
「けっ!」っていう目で見てるんだね。
大阪の人からみた東京みたいな感じ?
西本 ああ、その感じかも。
だから、「人生がマラソンだ」が公開されたときは
「よくぞわが町、ロッテルダムをテーマにしてくれた!」
と、ロッテルダムでは
子供からお年寄りまで大反響だったんだそうですよ。
シェフ でもさ、にしもっちゃんも、
いろんなレースに出たり、見たりしてきたわけじゃない。
ロッテルダムは、それでも特別なの?
西本 道幅の狭いコースにびっちり人がいて
選手に手が届きそうなくらいの距離で
「GO! GO! GO! GO!」と声援がとぶんです。
まるでツール・ド・フランスのようでしたよ。
長い冬が終わり、
春の訪れをつげるイベントだからか、
この日は街が爆発しているんですよ。
ロッテルダムテクノの発祥地だけあって
勝手に大爆音でDJをしているブースが
コースの至るところにあるし。
ロッテルダム・マラソンは平坦なコースのため、
記録がでやすいレースと言われてますが
本当の要因はこの応援じゃないかと思うんです。
(つづきます)
2014-06-08-SUN
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