GO!なひと/vol.01 鈴木杏さん GO!なひと/vol.01 鈴木杏さん
「GO!なひと」は、さまざまな地域に
通い続けている人や、
移住した先で活動している人を訪ね、
その土地とのかかわりや、日々の生活について
インタビューするシリーズです。

第1回に登場いただくのは、2024年に
東京都から長野県に移り住んだ鈴木杏さん。

近年は、俳優としての活動だけでなく、
アーティストとして表現領域を広げたり、
オンラインコミュニティを運営されたりなど、
活動の幅をどんどん広げています。
「予感だけを頼りに決めた」という
移住先での暮らしのこと、考え方の変化、
これからめざしたいことをうかがいました。

聞き手はほぼ日のやすなです。
ほぼ日GO!とは、
ほぼ日が、日本全国の地域の方々と
幅広くて自由なコンテンツを作り、
更新していく場所です。



文・藤田亜紗美
第4回 安心して表現できる場所
写真
──
杏さんは、ご自身がオンラインコミュニティの
主催者という形をとられていると思うんですけど、
みんなを引っ張っていくリーダーという
存在とも、ちょっと違うわけですよね。
杏
そう、ちょっと違いますね。
一応、毎月みんなでオンラインイベントをやるので、
はじめての人も、今まで表現をやっている人も、
何か一緒に新しい表現ができる
お題はないかなって探しています。
最近おもしろかったのは、
「ちょっとハードルが高いかもしれないけど、
みんなでそれぞれ絵本を作ってみよう」
と言ったんですね。
そうしたら、たとえば文章を書くのが
得意なメンバーさんが文章を書いて、
それに別のメンバーさんが絵をつけて、
そうやって絵本が生まれていて、
それがめっちゃ良かったんです。
──
ああ、いいですね。
杏
このあいだも、リアルイベントで、
マスキングテープでアートをするという
ワークショップをやったんですね。
そうしたら私もマスキングテープアートって
はじめてだから、すっごく夢中になっちゃって。
どこにどういう表現方法があるのか、
おもしろいと思えるものがあるのか、
まだまだ探しています。
あとは、一人だとハードルが高いけど、
みんなと一緒だったらグループ展もできるよね、とか。
今作っているZINEもメンバーさんの作品を
載せているんです。
そんなふうに、何をやったら
みんなに楽しんでもらえるかを考えてますけど、
「私がリーダーだから、みんなついてきてね」
ということには全然向いてないタイプなので。
写真
──
場所を提供したり、アイデアを出したりするけども、
杏さん自身もそこで得るものがあって、
仲間として一歩ずつ一緒に進めている。
杏
そうそう。そんな感じです。
写真
──
地域に移住したいと思う方が
少しずつ増えていると思うんですけど、
ご近所のお付き合いについて、
仲間がいるという安心感がある一方で、
ちょっと煩わしいことがあるかもしれない
と不安になる方もいると思うんです。
杏さんも今、人との関わりを深められるような
印象があるんですけど、
そういうことって東京の生活では
少なかったのかなと想像していまして。
それについての考え方の変化とか、
大事にしていることってありますか?
杏
そうですね。
それも「時間がかかるものだな」って思いました。
意外と近所の人と会わないんです。
1週間会わないこともあって。
──
今の生活でも。
杏
はい、今の生活でも。
最初は、人間関係は
どうなるんだろうって思っていたけど、
実際は「全然会わなくない?」って。
でもまあ、野菜をもらったり、お土産を渡したりとか、
少しずつやりとりしていくと
お互いにわかっていくこともたくさんありますね。
エリアにもよるかもしれないけど、
そんなに大変じゃなかったかも、って思ってます。
最初はやっぱりお互いに
ちょっと牽制し合っているんですよね。
でもだんだん時間が経つと、お互いに慣れて
大丈夫になっていく、ということを体感しています。
写真
──
「何事にも時間がかかるもの」という感覚が、
状況を冷静に見られることにも
つながっているんでしょうか。
杏
そうそう。
──
さきほどのお話の中で、
オンラインコミュニティをはじめるとき、
こういう形だったらできるかも、
ということを話してくださいましたけど、
コミュニティをやりたいという思いは
もともとお持ちだったんですか?
杏
いや、全然考えてなくて。
最初は移住して、発信場所をどうしようかなって
思っていたんです。移住した生活のこととかも
少しずつ上げていきたいけど、
でもSNSで不特定多数の人に向けて発信するのも
ちょっと違う気がすると思ったんですよ。
何か発信するたびに注意を受けることもあるし。
──
ああ。
杏
たとえば、これは想像ですけど、
たまたま手袋をつけずに
チェーンソーを持っていると、
「手袋してませんよ」と
お叱りを受けそうだな、とか。
みんな厳しいし、やさしいから、
言ってくれるのだと思うのですが。
それで、どういう発信の仕方がいいのかなと
思っていたときに、
今のオンラインコミュニティを
運営してくれているプロデューサーさんから
「アートを軸に」ということで
声をかけてもらったんです。
そういう守られた環境だったら、
もうちょっと素直に発信ができるかもって、
まず思ったんですよね。
私も安心安全な場所で発信をしたいし、みんなにも、
「ここの場所だったら、ちょっと落書きしたものを
上げてもいいかな」
と思ってもらえたらなって。
──
たしかに、安心して発信できる場所があると、
違いますよね。
写真
杏
いきなり、どこの誰に届くか
わからない大海原に、
できたてほやほやの才能を放り投げるのって
怖いじゃないですか。だけど、ここの場所だったら、
才能をゆっくり育てていけるし、
みんなで応援し合えるんじゃないかなと思って、
発酵するときの「ぷくぷく」という音と
「福福」をかけて、
「シェアアトリエ ぷくぷく」
という名前をつけたんです。
みんな、ちょっとしたきっかけで
才能がパーンとほとばしったりとか、
少しずつ変化していったりとか、
だんだん仲良くなっていったりとか‥‥
平和って自分たちで作れるんだなって
思ってますよ。
写真
──
きっと、その場があるからこそ、
杏さんも表現活動をさらに広げていける
という面もあるんですよね。
杏
そうですね、
私もぷくぷく内でブロクを書き始めたり、
そういうところから、
信濃毎日新聞で書評を書く依頼をいただくなどの
新たなつながりも生まれています。
──
ああ、いいですね。
杏
このコミュニティをやっていなかったら、
ZINEを作ろうということも思いつかなかった。
それも、ある日、
「どうやったらみんなの作品の良さが
伝えられるんだろう」と考えたんです。
SNSだけじゃ限界があるような気がして、
「ここに、みんなで楽しめる場所があるよ」
ということも同時に伝えたいと思っていた中で、
「あ、ZINEを作ろう」と思って。
それで、がんばっているところです。
こんなにいろいろと決めなきゃいけないことが
あるんだなぁと思いながら、
いろんな方のお力をお借りしています。
写真
(つづきます)
2026-10-18-SUN