GO!なひと/vol.01 鈴木杏さん GO!なひと/vol.01 鈴木杏さん
「GO!なひと」は、さまざまな地域に
通い続けている人や、
移住した先で活動している人を訪ね、
その土地とのかかわりや、日々の生活について
インタビューするシリーズです。

第1回に登場いただくのは、2024年に
東京都から長野県に移り住んだ鈴木杏さん。

近年は、俳優としての活動だけでなく、
アーティストとして表現領域を広げたり、
オンラインコミュニティを運営されたりなど、
活動の幅をどんどん広げています。
「予感だけを頼りに決めた」という
移住先での暮らしのこと、考え方の変化、
これからめざしたいことをうかがいました。

聞き手はほぼ日のやすなです。
ほぼ日GO!とは、
ほぼ日が、日本全国の地域の方々と
幅広くて自由なコンテンツを作り、
更新していく場所です。



文・藤田亜紗美
第3回 自然のリズムが教えてくれる
写真
──
これまでのお話をうかがっていて、
自分自身ができる、
できないことの判断も含めて、
物事に取り組むときの過程を
俯瞰されているように感じました。
杏
そうですね。できないことができるようになるのに
時間がかかるのは当たり前だ、ということに
移住してから気がついたんです。
たとえば、移住して2、3年経ってやっと、
「あ、チェーンソーってこうやって使うんだ!」
という感じなんです。
雪かきで、雪をどっちに飛ばすのか、
薪割りで、薪をどっちに投げるのか、
ということも、実際にやりながらわかっていく感じで。
人が変わったり、何かをできるように
なったりするのって、1年、2年はかかるし、
すぐにできるようにならないよね、
ということに気づきました。
前はすぐできなきゃいけないと思っていたから、
「いや、それは無理かも!」ということを
生活の中で知ることができたのは
大きいかもしれません。
写真
──
もともとは、器用というか、
いろんなことがすぐできるように
なるほうだったんですか?
杏
うーん、どうでしょう。
やっぱり、仕事では、1か月である程度の
完成度をめざして稽古しなきゃいけないし、
何かに追われているみたいな生活だから、
「やらなきゃいけない」というところで
生きてきた気がするんですよね。
──
ゴールをめざす習性が自然とできているという。
杏
生活って、少しずつできることが
増えていくと、ゴールが変わっていくんです。
たとえば、それこそ畑をやりたいと思って
移住したけど、移住したエリアは
野生動物が多すぎて、畑ができないことがわかって、
「どうなるんだろう」と思っていたら、
別の友人夫婦が家の敷地内で畑をやるということで、
「一緒にどうですか?」と声をかけていただいて、
今、ちょっと一緒にやらせてもらっているんです。
最初の理想とは少し違っていても、
それは1年目でいきなりできないよね、
というのもあるし、そういうことが
自然のリズムがある場所にいるとわかってきます。
そういうことを知ること自体が
都市部の生活の中にはないな、と思って。
──
本当にそうですね。
写真
杏
それこそクマも、クマ鈴をつけて歩いているけど、
「クマが出てきちゃうって、
どういうことなんだっけ?」
と考えるようになって、視点が全然変わりますよね。
森を見る視点も、前はただの山
としか見ていなかったけど、
「針葉樹が多いな」というふうに変わってきました。
──
目にする自然が、ご自身の毎日の暮らしに
直結しているような感覚があるんですよね。
そういった中で、俳優の活動も続けられていて、
オンラインコミュニティも運営されていて、
執筆活動やアートの表現もされていて、
そのあたりのバランスは、どう保っているんですか?
杏
自分では何も決めていないんですけど、
気がついたら半々くらいまで
アートの分野が押し上げてきていて、
いい感じのバランスになってきています。
前はもちろん俳優メインで、
「アートは趣味の延長」という感じだったんですが、
今は展示が増えて、その域を超えてきています。
最初に「ほぼ日手帳」に絵を描きはじめてから
今年でちょうど10年なんですけど。
写真
──
わぁ、10年ですか。
杏
そう。続けているとこういうふうに
変わってくるんだな、と気づけます。
──
子どものころは、絵が好きという感覚が
なかった、というエピソードを以前に拝見して、
ちょっとびっくりしました。
杏
たとえば小学校だと、
スケッチ大会なんかがあって、
きれいに描くことや上手に描くことが
良しとされるフェーズがあるじゃないですか。
人と比べられたり、自分で比べちゃったり。
そのときに私はきれいに描くことが
得意じゃなかったから、苦手意識もあったし、
「絵、上手くないしな」って思っていたんです。
──
そうだったんですね。
杏
でも、中学生になったときに、
急にプリントの裏に、
今描いているような線画を描きはじめたんです。
だから手を動かすことは
昔から好きだったとは思うんですよ。
日常的になったのは、
2016年の元旦に、ほぼ日手帳を
使いはじめてからですね。
そこから絵を描くことが日常的になっていって、
なんか、あれよあれよという間に
その世界が広がっていって。
写真
──
絵を描くことだったり、
コミュニティを運営したりすることって、
すごく自主的なモチベーションがあってこそ
行えることだと思うんですね。
そこが俳優の仕事とは違う部分だと思うんですけど、
そのモチベーションは
どういうところから湧いているんですか?
杏
ほっといても描いちゃうんです。
習慣にもなっているし、ストレス発散というか、
散歩してないと体が気持ち悪いのと同じで、
手を動かしてないと気持ち悪い、という感じです。
今、ZINEを作るにあたって、
文章をいろいろ書いているんですけど、
あらためて、自分が絵を描くことって
どういうことなんだっけ、と考えたときに、
これは、オンラインコミュニティを
はじめたきっかけにもつながるんですけど、
最初に個展をしたときに、
「絵を描いてみたくなった」と
言ってくださった方がすごく多かったんですよ。
──
うれしい反応があったんですね。
杏
それは、「自分でも描いていいんだな」って
思ってもらえたんだと思うんです。
芸術表現って、すごく練習して、
学校に通って、技術もあるような人が
アーティストとして発表して‥‥
という世界だと私も思っていたけど、
私のように、子どもみたいに絵を描いた人が
展示をやってても、
「あ、いいんじゃん」というふうに
感じてもらえたと思うんです。
写真
──
なるほど。
杏
そのときに、私は何かを教えることはできないけど、
そういう芸術表現に対しての
ハードルを下げることはできるかもしれないから、
みんなで楽しく表現活動をして、
応援し合えるコミュニティという形だったら
できるかもしれない、って思ったんです。
それで、運営会社の方と打ち合わせを重ねて、
みんなが楽しめる、安心安全な場所、
というのを軸に今のコミュニティを作っているんです。
──
そういうふうにはじまったんですね。
杏
はい。これもまた文章を書いていて
思ったことですが、
私は多分、絵を描いているというよりは、
絵と戯れているだけなんじゃないか、
と思ったんですよね。
泥んこ遊びの泥が画材に変わっただけで、
何かを描くというよりは、
クレヨンとか絵の具で遊んでるだけ。
そういう気楽さが伝わっているのかもと、
この間ふと気づいて。
何か社会に訴えたいものがあるとか、
鬱屈しているものがあるとか、
そういうことじゃないから。
ただ動いちゃうし、画材と遊びたくなっちゃって、
それが重なっていって、絵になって、
「家に溜まってきたし、展示しようか!」
みたいな感じになっているんです。
写真
(つづきます)
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