HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

フタバスズキリュウ研究の第一人者、恐竜博士のたまきちゃん。

ほぼ日サイエンスフェロー早野龍五の“オタク”な研究者探訪シリーズ VOL.2 ほぼ日サイエンスフェロー早野龍五の“オタク”な研究者探訪シリーズ VOL.2

ある分野を深く、深く研究する人がいます。
その人たちは「研究者」と呼ばれ、
おどろくべき知識量と、なみはずれた集中力と、
こどものような好奇心をもって、
現実と想像の世界を自由に行き来します。
流行にまどわされず、批判をおそれず、
毎日たくさんのことを考えつづける研究者たち。
ほぼ日サイエンスフェローの早野龍五は、
そんな研究者たちのことを敬意をこめて
「オタクですよ(笑)」といいます。
世界中のユニークな研究者と早野の対談から、
そのマニアックで突きぬけた世界を、
たっぷり、じっくりご紹介していきます。

佐藤たまき先生ってどんな人?

第2回 フタバスズキリュウの
首は曲がらない。

早野

図鑑なんかを見ると、
生きた状態の恐竜の絵がありますよね。
ああいう本来の姿というのは、
化石を見てわかるものなんですか。

佐藤

ある程度は推測できます。
恐竜に関していえば、
ワニとトリに近いことから
「両方に共通するものは、
恐竜にもあるだろう」と推測できます。

ただ、首長竜にはワニとトリに
相当するような動物がいないので、
どうしても想像の部分が
多くなってしまいます。

© 2018 かわさきしゅんいち

早野

首長竜は卵生? それとも胎生?

佐藤

胎生です。

早野

それはそういう化石があるんですか。

佐藤

首長竜全体で1例だけ、
胎生の証拠を示す化石があります。

早野

ということは、
フタバスズキリュウも
卵じゃなかっただろうと。

佐藤

卵じゃないでしょうね。
爬虫類といえば卵のイメージですが、
海に住む「海棲爬虫類」は、
わりと胎生のものが多いんです。

乗組員A

でも、ドラえもんに出てくるピー助って、
のび太が卵の化石を
「タイムふろしき」で元に戻すところから
はじまるんですけど‥‥。

佐藤

そもそもピー助を
本当のフタバスズキリュウとするなら、
じつは恐竜じゃないし、卵でもない。

乗組員A

じゃあ、タイトルの『のび太の恐竜』は‥‥。

佐藤

正しくは『のび太の首長竜』ですね。

乗組員A

『のび太の首長竜』!

乗組員B

ゴロが悪いですね‥‥。

佐藤

あと、首長竜は陸に上がれません。
全長7~8メートルあるので、
あの姿では自分の体重を
支えることができないんです。
カメですらあれだけ陸で大変ですから、
首長竜の大きさでは
ちょっと無理でしょうね。

乗組員A

ピー助、陸に上がってたなぁ‥‥。

乗組員B

先生、ぼくも質問があります!

佐藤

どうぞ。

乗組員B

首長竜の「首が長い」というのは、
科学的になにか理由があるんでしょうか。
あらてめてみると異様に長いですよね。

佐藤

なぜ首があれだけ長いかは、
じつはよくわかっていません。
しかも、あの長い首、
上には曲げられないんです。

乗組員B

え、曲げられない?

佐藤

白鳥みたいに曲がらないんです。
いわゆるネッシーポーズ。
首長竜はあれができません。

早野

ということは、
このピー助のようなポーズは?

佐藤

不可能です。背中側に反らないんです。

乗組員B

へぇ、そうなんだー。

佐藤

頭に近い部分は、
それなりに細かく動きますが、
首と体の付け根部分は、
もうどうしようもない。

乗組員B

どうしようもない(笑)。

早野

先生の論文をみると、
「首長竜はサメに食べられていた」
ということも書いてありましたね。

乗組員A

えぇ、サメに?!

佐藤

そうです。
サメは首長竜なんかより、
ずっと古くからいる生物なので。

早野

サメに食べられていたことは、
なぜわかるんですか。

佐藤

フタバスズキリュウの場合、
骨にサメの歯が
何か所も刺さっていたんです。

早野

ということは、
福島で見つかったフタバスズキリュウは、
サメに食い殺されちゃった子?

佐藤

食い殺されたかどうかはわかりません。
死んでから食べられたことも考えられます。
客観的な事実としては、
フタバスズキリュウの上腕骨に、
サメの歯が刺さっていました。
フタバスズキリュウの化石といっしょに、
まわりからは
サメの歯が80個以上発見されています。

乗組員A

わっ、そんなに?

佐藤

もともとサメは歯が抜けやすいんです。
われわれヒトの歯とちがい、
サメの歯は歯槽に埋まっていません。
ちょっとすり減るとすぐに抜けて、
また次の歯が出てくるんです。

早野

逆にフタバスズキリュウは、
なにを食べていたんでしょうか。

佐藤

わりと小さめの魚だと思います。
フタバスズキリュウって、
全身の長さは7~8メートルありますが、
頭の大きさってバスケットボールくらいです。
エサを飲み込むノドも大きくない。
歯も人間の指みたいに、
わりとヒョロッとしていて、
いまでいうとイルカみたいな歯です。

なので、バリバリかみ砕くというより、
ピョコピョコ動く魚を
パクッとくわえてクイッて飲み込む。
そんなタイプなんだと思います。

早野

いまのようなことが、
化石を見ただけでもわかる?

佐藤

どういうものを捕食していたかは、
歯の形だけでもわかります。

乗組員A・B

はぁぁーー。

早野

ひとつ不思議なのは、
サメはいまも存在しているのに、
首長竜たちはすべて
絶滅してしまったんですね。

佐藤

絶滅した理由については、
じつはまだよくわかっていません。

絶滅時期については、
恐竜がいなくなったときと、
ほぼ同じ時期と考えられています。
もちろん地球に隕石が
衝突したことはまちがいないし、
その影響で環境が変化したことも、
まちがいないと思います。

早野

でも、まだわかっていない。

佐藤

説としてはいろいろありますが、
ちゃんとはわかっていません。
首長竜って終わりのほうの化石が、
あんまり良い状態で残っていないんです。
どのように絶滅していったかは、
いまもまだ謎のままですね。

(つづきます)

佐藤たまき先生の著書『フタバスズキリュウ もうひとつの物語』、好評発売中です。 佐藤たまき先生の著書『フタバスズキリュウ もうひとつの物語』、好評発売中です。
幼稚園に通うころから
「将来は恐竜博士になる」と宣言していた
佐藤たまき先生。
著書『フタバスズキリュウ もうひとつの物語』には、
恐竜で遊んでいた子供時代のエピソードから、
フタバスズキリュウの
名付け親になるまでの奮闘の日々が、
素直なことばで綴られています。

決して平坦ではない
フタバスズキリュウの記載論文への道。
それでも佐藤先生は、
自分の「好き」を見失うことなく、
まわりへの感謝を忘れることなく、
たくさんの困難を乗り越えていきます。
恐竜好きの人はもちろんですが、
なにかの夢に向かって努力し続ける人にも、
ぜひおすすめしたい一冊です。

さらに、もうひとつ。
本対談で使用した恐竜のイラストは、
この本のカバー装画と挿絵を担当された
動物画家のかわさきしゅんいち先生から、
特別にお借りしたものです。
緻密な描写でありながら、
ちょっと愛嬌のあるかわさき先生のイラストにも、
ぜひ注目してみてくださいね。

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フタバスズキリュウ
もうひとつの物語

著者 佐藤たまき
絵  かわさきしゅんいち
出版 ブックマン社
定価 1700 円(税別)