HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

フタバスズキリュウ研究の第一人者、恐竜博士のたまきちゃん。

ほぼ日サイエンスフェロー早野龍五の“オタク”な研究者探訪シリーズ VOL.2 ほぼ日サイエンスフェロー早野龍五の“オタク”な研究者探訪シリーズ VOL.2

ある分野を深く、深く研究する人がいます。
その人たちは「研究者」と呼ばれ、
おどろくべき知識量と、なみはずれた集中力と、
こどものような好奇心をもって、
現実と想像の世界を自由に行き来します。
流行にまどわされず、批判をおそれず、
毎日たくさんのことを考えつづける研究者たち。
ほぼ日サイエンスフェローの早野龍五は、
そんな研究者たちのことを敬意をこめて
「オタクですよ(笑)」といいます。
世界中のユニークな研究者と早野の対談から、
そのマニアックで突きぬけた世界を、
たっぷり、じっくりご紹介していきます。

佐藤たまき先生ってどんな人?

第1回 首長竜は恐竜じゃない。

早野

古生物学者の佐藤たまき先生です。
本日はよろしくお願いします。

乗組員A

よろしくお願いします。

乗組員B

よろしくお願いします!

佐藤

佐藤です。よろしくお願いします。
わざわざ研究室まで来てくださり、
ありがとうございます。

早野

いきなりですが、
対談をはじめる前に、
ちょっと見てほしいものがありまして。

佐藤

見てほしいもの?

早野

これ、ほぼ日の地球儀なんですが、
スマホをかざすといろんな情報が
画面に出てくるんです。

佐藤

ああ、恐竜が出てくる(笑)。
へぇー、おもしろい。

早野

でも、ここには先生が研究された
「フタバスズキリュウ」という生物が
入っていないんです。

佐藤

フタバスズキリュウは首長竜ですからね。

乗組員A

んん?

乗組員B

‥‥え?

早野

そう、首長竜なんですよね。
恐竜図鑑を見てみると、
首長竜は「恐竜以外の生物」として
紹介されています。
つまり、首長竜は恐竜じゃない?

佐藤

ちがいます。
首長竜は恐竜ではありません。

乗組員A

そうなんだ。

乗組員B

そういえば、
聞いたことがあります。

早野

ちなみに恐竜の定義というのは?

佐藤

恐竜というのは、
基本的に陸上で主に2足歩行する
「爬虫類の中の1グループ」です。
4足歩行の恐竜もたくさんいますが、
もともとは2足歩行と考えられています。

で、首長竜も爬虫類ではありますが、
恐竜とは別のグループに「分類」されます。

早野

いまちょうど「分類」という
言葉も出ましたが、
たしか、先生のご専門は
過去の生物の「分類」でしたよね。

佐藤

はい。主に中生代という、
2億5000万年前から6600万年前までの
地球上にいた生物の「分類」です。

乗組員A

分類?

乗組員B

分類が専門なんですか?

佐藤

私の専門分野は、
古生物学のなかの「分類学」というもので、
過去の生物の化石を調べて、
それがどういう種かを特定したり、
分類していく学問になります。

乗組員A・B

へぇーー。

早野

ぼくは先生の書かれた
フタバスズキリュウに関する論文を
読んだことがあるんです。
先生はその論文の功績が認められ、
優秀な女性科学者に贈られる「猿橋賞」を
2016年に受賞されています。

はじめに補足しておきますが、
先生はフタバスズキリュウの
研究者として有名な方ですが、
化石の発見者ではありません。

佐藤

はい。私がしたことは、
フタバスズキリュウの化石を調べ、
新種と特定したことです。

早野

先生が論文を書いたおかげで、
フタバスズキリュウは
新種ということがわかった。

佐藤

はい。

早野

いまの話って、
じつは一般の方が
あまり知らないことだと思うんです。
今日はそのへんのお話を、
おうかがいしたいなと思っています。

佐藤

なるほど、わかりました。
ちなみに、
今日いらっしゃるみなさんは、
フタバスズキリュウについて
どのくらいご存知ですか?

早野

(乗組員に向かって)
おふたりはどうですか?

乗組員A

フタバスズキリュウといえば、
やっぱり「ドラえもん」ですね。
映画『のび太と恐竜』の中に、
ピー助という恐竜が出てくるんです。

佐藤

ああ、はい。そうですね。
ピー助のモデルは、
フタバスズキリュウと言われています。
そちらの方はいかがですか?

乗組員B

日本で発見されたことは、
なんとなく知っていましたが、
あとは「首が長くて海にいる」という
ことくらいしか‥‥。

佐藤

なるほど、わかりました。
まず、フタバスズキリュウの化石は、
1968年に日本で発見されました。

早野

ということは、
まだ先生がお生まれになる前?

佐藤

生まれる前です。
福島県いわき市で、
当時高校生だった鈴木直さんが発見しました。
そのあと「国立科学博物館」の発掘チームが
本格的に掘ってみたところ、
とんでもない大型の化石が出てきたんです。

早野

当時は大きなニュースになりましたね。

国立科学博物館で展示されている
フタバスズキリュウの全身骨格(撮影:ほぼ日)

佐藤

テレビや新聞で大きく取り上げられ、
全身が発掘されたあとは、
日本全国を移動展示したり、
先ほどおっしゃったピー助の影響もあって、
フタバスズキリュウという名前自体は、
日本中に知られていきました。

乗組員A

名前だけなら、
みんなけっこう知ってますもんね。

佐藤

ただ、化石の研究というのは
「掘って終わり」じゃないんです。
それがなんの生物の化石か特定しないと、
科学的な研究にはつかえません。
フタバスズキリュウの化石は、
その研究がずっとされてなかったんです。

早野

なぜされてなかったんですか?

佐藤

当時は、日本から
こんなに大きな化石が見つかるなんて、
誰も想像してなかったんです。
それで、化石を発掘したのはいいけど、
それを本格的に研究する
研究者がいなかったし、
ちゃんと研究できる環境が
まだ日本で整ってなかったんです。

早野

ああ、そうか。出ると思ってないから。

佐藤

いまなら世界中の文献や論文は、
ネットですぐに検索できますが、
化石が発掘された1960年代~70年代は、
外国で研究するのも、文献を取りよせるのも、
ものすごく大変な時代でした。
そういう時代背景もあって、
フタバスズキリュウの研究は、
思うように進んでいませんでした。

早野

化石を発見したものの、
それが生物学的になんであるかは、
まったく謎のままだった。

佐藤

はい。

早野

そして、化石発掘から38年後の2006年、
その謎をようやく解き明かしたのが、
先生の書いた論文というわけですね。

佐藤

そうですね。

乗組員A・B

おおーー!

(つづきます)

佐藤たまき先生の著書『フタバスズキリュウ もうひとつの物語』、好評発売中です。 佐藤たまき先生の著書『フタバスズキリュウ もうひとつの物語』、好評発売中です。
幼稚園に通うころから
「将来は恐竜博士になる」と宣言していた
佐藤たまき先生。
著書『フタバスズキリュウ もうひとつの物語』には、
恐竜で遊んでいた子供時代のエピソードから、
フタバスズキリュウの
名付け親になるまでの奮闘の日々が、
素直なことばで綴られています。

決して平坦ではない
フタバスズキリュウの記載論文への道。
それでも佐藤先生は、
自分の「好き」を見失うことなく、
まわりへの感謝を忘れることなく、
たくさんの困難を乗り越えていきます。
恐竜好きの人はもちろんですが、
なにかの夢に向かって努力し続ける人にも、
ぜひおすすめしたい一冊です。

さらに、もうひとつ。
本対談で使用した恐竜のイラストは、
この本のカバー装画と挿絵を担当された
動物画家のかわさきしゅんいち先生から、
特別にお借りしたものです。
緻密な描写でありながら、
ちょっと愛嬌のあるかわさき先生のイラストにも、
ぜひ注目してみてくださいね。

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フタバスズキリュウ
もうひとつの物語

著者 佐藤たまき
絵  かわさきしゅんいち
出版 ブックマン社
定価 1700 円(税別)