HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

物理学者・小林誠先生に聞いた素粒子とノーベル賞と宇宙の謎。

ほぼ日サイエンスフェロー早野龍五の“オタク”な研究者探訪シリーズ VOL.1 ほぼ日サイエンスフェロー早野龍五の“オタク”な研究者探訪シリーズ VOL.1

ある分野を深く、深く研究する人がいます。
その人たちは世間一般に「研究者」と呼ばれ、
おどろくべき知識量と、なみはずれた集中力と、
子どものような好奇心をもちながら、
現実と想像の世界を自由に行き来します。
流行にまどわされず、批判をおそれず、
毎日たくさんのことを考えつづける研究者たち。
ほぼ日サイエンスフェローの早野龍五は、
そんな研究者たちを敬意を込めて
「オタクですよ(笑)」といいます。
世界中のユニークな研究者と早野の対談を通じ、
そのマニアックで突きぬけた世界を、
たっぷり、じっくりとご紹介していきます。

小林誠先生ってどんな人?

第1回 ノーベル賞を受賞した人

早野

それではご紹介いたします。
2008年に「ノーベル物理学賞」を受賞された
小林誠先生です。

小林

どうもどうも、小林です。

乗組員A

よろしくお願いします。

乗組員B

よろしくお願いします!

早野

すこし企画のお話をしますと、
私、ほぼ日の理系担当、
サイエンスフェローの早野が、
いろんな研究者たちと対談をする
連載をはじめました。

小林

はい。

早野

その記念すべき第1回目ということで、
誰がふさわしいかを考えたところ、
小林先生のお名前が
まっさきに思い浮かびまして、
それでご連絡させていただきました。

乗組員A

今日の対談、
ぼくたちも同席させていただきます。

乗組員B

「物理にくわしくない人」として、
がんばります。
よろしくお願いします!

早野

私とゲストの二人だけだと、
ただただ科学や研究の話ばかり
してしまいそうなので(笑)。

小林

あぁ、なるほど。
わかりました、どうぞよろしく。

早野

さっそくですが、
小林先生がノーベル賞を
受賞された理由を調べたところ、
「CP対称性の破れの起源の提唱」
という言葉が見つかりました。
先生がなさったことは、これで正しい?

小林

まぁ、そういうことなんでしょうね。

乗組員A

CPの‥‥?

乗組員B

すみません(笑)。

早野

まぁ、普通はわからないと思います。
というのも、
いまの中学生の教科書に、
先生の研究分野はまったく出てこない。

小林

出ないですね。

早野

じゃあ、どこから出るかというと、
高校3年で物理を選択すると、
ようやく、その入口のところが出てきます。

小林

クォーク、というのがね。

早野

クォークというのが出る。
今日、文系代表として同席される
ほぼ日乗組員のおふたりは、
クォークのことをご存知ですか?

乗組員A

クォーク‥‥たしか‥‥その‥‥。

乗組員B

すごく小さい‥‥あ、わかりません!

早野

正直でよろしい。

小林

(笑)。

早野

物理の履修率って、
いまそんなに高くないので、
高校を卒業しても、
先生がなさったことを学ぶチャンスって、
じつはほとんどないんです。

小林

うん、ないね。

早野

今日は先生のうしろに
白板もご用意しております。
なので、先生が何をなさったのか、
ここにいるほぼ日乗組員と、
ほぼ日読者のために、
すこしレクチャーしていただきたく‥‥、
というお願いでございます(笑)。

小林

まいったなぁ(笑)

早野

もちろんすべてを理解するのは
無理な話ですので、
先生がやられたことの
世界観だけでも伝えられたらなと。

小林

世界観。そうですね‥‥。

早野

先生がなさったことは、
われわれの宇宙観や自然観に、
ものすごく変化をもたらしました。

先生の研究によって、
どんな変化がもたらされたのか、
そのさわりだけでも、
みんなに知ってもらえたら、
と思っております。

小林

そうはいっても、
どこをどう説明すれば‥‥。

えっと、身のまわりには、
物がいっぱいありますよね、物質が。
ちょっと白板、使いますね。

乗組員A

ああ、ほんとにはじまった。

乗組員B

がんばりましょう。

小林

身のまわりには物がたくさんあります。
それらが何からできているか、
ずっとミクロの世界までたどっていくと
「原子」というものが現れます。
みなさん、原子はわかりますか?

乗組員A

はい、原子はわかります。

乗組員B

わかります!

小林

その原子というものは、
「原子核」のまわりを
「電子」がまわってつくられます。

乗組員A

はい。

小林

その原子核をさらに細かくすると
「陽子」や「中性子」があり、
それらをもっと細かくすると
「クォーク」にたどりつきます。

乗組員A

出た、クォーク。

乗組員B

出ましたね。

小林

いわゆる、これが「物質の成り立ち」です。

乗組員A

ここまではわかる‥‥。

乗組員B

はい。

小林

このように、
物をつくっている電子や中性子などの
「小さな粒」のことを、
物理の世界では「粒子」といいます。

今日は「粒子」という言葉が、
たくさん出ると思うので、
ちゃんと覚えておいてくださいね。

乗組員A

粒子‥‥。

乗組員B

すごく小さな粒‥‥はい。

小林

この宇宙には「粒子」の他に、
「反粒子」というものもあります。

ただし、反粒子は現実には存在しません。

乗組員A

‥‥どういうこと?

乗組員B

あ、もうわからない(笑)。

小林

ここはとても大事なところなので、
ゆっくり説明していきますね。

(がんばれ、文系のふたり! つづきます)