第5回 まったくの白紙です。


糸井 そろそろ予定の時間になってしまいますが、
最後にもうひとつだけ。
去年のジャイアンツはチームの方針として、
フォークボールに代表される
落ちるボールについて、
ツーストライクを取られてからも
見逃してOKだという話を聞きました。
つまり、仮にそれがストライクだとしたら、
見逃し三振でもOKだと。
はい。
糸井 ふつう、追い込まれたら
打者は見逃さずに打っていきます。
そこに、ストライクからボールになる
フォークボールが来たら、空振りしてしまう。
だからピッチャーは追い込んでから
高い確率で落ちる球を投げてくるんだけど、
打者も振らざるをえない。
というときに、
「フォークボールだとわかってるなら
 見送ってもいい。
 読みが外れて見逃し三振でもいいよ」
というのは、なかなかすごい指示ですよね。
つまり、なにかを捨てさせることで、
選手に勇気を持たせることができるわけです。
糸井 あーー。
そのリスクはベンチが負うよということです。
バッターって、すごく打つといっても
三割ですからね。
10回打席に立てば7回は失敗するわけです。
というときに、問われるのは、
やっぱり、失敗の内容だと思うんです。
糸井 なるほど、なるほど。
三割の確率で打っているなら、
ほかの打席でなにをやってもいい。
より成功の確率が高くなるというのなら、
ツーストライクと追い込まれても
見逃してOKです。
それで選手たちがラクな気持ちになるなら、
リスクはこっちがちゃんと負う。
とくに、ふつうに戦っていたのでは
なかなか打てない手強い投手が相手のときには
そういう手段もつかいますね。
糸井 いや、過去にそういう作戦が
あったかどうか詳しく知りませんが、
ぼくにとってははじめて聞く話でした。
ま、いいピッチャーが来たり、
あるいは、手強い打者が相手だったりするときは、
リスクをベンチが負うから、
思い切って勝負しようよ、ということですね。
糸井 ああー、ベンチがリスクを負うことで
ピッチャーも思いきった勝負ができるわけですね。
そうです。
たとえば、ホームランバッターを迎えたとき、
思い切ってインサイドに投げて、
狙ったとおりインサイドに行ったボールを
ホームランされても、オレは文句を言わないよ、と。
しかし、アウトコースを狙ったボールを
引っ張られてレフトにホームラン打たれた。
これは、いちばんダメです。
アウトコースに狙ったボールは、
絶対、ホームランを打たれてはいけない。
インコースを狙って投げて、
そのインコースをホームランされたんだったらOK。
こういう考え方って、勇気が出るんです。
つまり、怖がらずにインサイドつかえってことです。
糸井 そういうことは、
誰が選手に言ってあげるんですか。
まあ、だいたい、ぼくから
バッテリーコーチを通じてという感じですね。
本人に直接言うときもありますし。
糸井 気持ちよく理解されるでしょうね、それは。
そうですね。ま、いってみれば、
非常に単純な方法なんですけども、
そういうことを伝えるとですね、
選手は「おお、そうか」と。
糸井 うれしいですよね。
「よし、やろう」というふうになりますね。
糸井 そうでしょうね(笑)
これは、外に投げるよりも、
インサイド行ったほうがいいな、ってね(笑)。
糸井 そしてそういう勝負は、
お客さんも観ていてたのしいですよね。
まあ、でも、そこをわからないように
チームとしてやりたいわけですが‥‥。
糸井 そうですね、そうですね(笑)。
わかるようじゃ、作戦として(笑)
糸井 たしかにそうです。
ええと、だから、今年はそれはやりません。
一同 (笑)
ははははは。
糸井 しかし、やっぱり、
いろんなことを想像させるチームで
あってほしいですね、今年も。
ああ、はい。
糸井 それは、今日の試合のオーダーでもいいですし、
けっきょく二番を誰が打つのか、
ということでもいいですし、
レギュラーの選手がケガしたときに
誰がどうカバーするのか?
ということでもいいですし。
村田選手がフォークボールを
平然と見送って三振しても、
いまの話を聞いてると
ちょっとべつのたのしさがありますし。
そうですね。
決して奇をてらうのではなく、
こちらとしてベストの選択が、
お客さんをたのしませる野球になるとしたら
これはもう、願ったり、という感じですね。
糸井 今年もきっとまた思い切ったことを、
たくさんやってくださると思います。
期待してます。
ありがとうございます。
がんばります。
糸井 おまけの質問なんですけど、
原さんがたまにベンチで舐めてる飴はなんですか。
飴(笑)? 
あれねぇ‥‥ええと、プロポリス。
糸井 プロポリスですか。
糖分のない、プロポリスの飴ですね、
ちょっと喉とかにはいいんですね、
風邪の予防にもなりそうだし。
糸井 機会があったら、いただいていいですか。
ぜひぜひ(笑)。
あるんじゃないかな、いま。
糸井 ほんとですか。じゃあいただきます。
ありがとうございます。
ずーっと気になってたんです。
甘すぎる飴はね、糖分があると太るしね。
でもね、やっぱりね、試合に集中してると
口のなかがからっからに乾くんですよ。
糸井 ああ、そうでしょうね。
飴でもなめないと、もう、
脳がね、フリーズして、動かないときがあるの。
糸井 じゃあ、ベンチで原さんが飴をなめているときは、
こう、ちょっと切り替えているようなとき。
そうですね。
気を取り直して、というようなとき(笑)。
糸井 いや、今日はいろいろ聞けてよかったです。
ありがとうございました。
ありがとうございました!
(原辰徳監督との対談はこれでおしまいです。
 最後までお読みいただき、
 どうもありがとうございました)

2014-04-07-MON
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