第4回 悔しさを超えた満足感。


糸井 でも、ひとくちに野球といっても、
ほんとうにいろんなものの積み重ねで
できているんだなと思いますね。
そうですね。
やっぱり、人間がやってることですから。
糸井 人間がやってることですからね。
たとえば第2戦のあの内野安打にしても、
藤田選手が一塁にヘッドスライディングしてる。
そこからはじまってますからね。
ええ、そうですね。
糸井 あの必死さがやっぱり、
審判の両手を開かせてしまった。
だから、メンタルというよりは、
なんというか、「魂の話」ですよね。
あのワンプレーで、
これだけ長く話ができるというのも(笑)。
糸井 そうですねぇ(笑)。
やっぱり、いろんなことが積み重なってる。
糸井 さらに言えば、去年の日本シリーズの
あの独特の雰囲気は、やっぱり、
東日本大震災と無関係じゃないと思います。
うん。
糸井 少なくともぼくはそう思って見てました。
東北の震災がなかったら、
あの雰囲気、あの流れにはならなかったと思う。
それは、いいとか悪いとかじゃなく。
うーん、そうですね。
糸井 そういう、特別な流れがありましたね。
だから、2013年に起こった、
ひとつの大きな流れの象徴として
1冊、本が書けるような、
そんな日本シリーズだった思います。
そうですねぇ‥‥。
あの、ぼくは日本シリーズというものを
何度も戦っていて、
勝った負けたっていうのは、
そのたびにあるわけですけど、
今回、惜しくも敗れた日本シリーズに関しては、
不思議と、悔しさというものとはまた違う、
満足感というものがあるんですね。
糸井 ああ、はい。
悔しさももちろんあるんですけど、
満足感というか、相手に対して
心より拍手が送れたんですね。
糸井 わかります。
これはですね、不思議でしたねぇ。
糸井 うん。
表彰式のときも、心から拍手できました。
糸井 観ていたぼくもそうでしたよ。
それはおそらく、原さんだけじゃなく、
ファンも、選手の人たちも
そうだったんじゃないでしょうか。
なんだろう、悔しいですけど、
悔しいということばを超えたなにか、
まさしく、藤田さんの
「勝つより大事なことがある」じゃないですけど。
そうですねぇ。
まぁ、やっぱり、震災復興のシンボルということも
そういった流れのなかには、あったと思います。
糸井 あったと思いますね。
そういうことも含めて、
いちばん根底のところにあるのは、
仙台の楽天ファンの方々です。
昨年の日本シリーズというのは、
仙台からはじまりました。
そのとき、球場を埋めたファンのみなさんが
非常にフェアだったんです。
糸井 ああー。
まぁ、数の面からいえば、
客席の8割が楽天ファンです。
ジャイアンツのファンは2割くらいだったでしょう。
しかし、我々を汚く野次ったり、
妙にくさしたりするようなことは、
まったくなかったです。
非常にフェアなファンだった。
そのことも手伝ってると思います。
そういった状況のなかで、まぁ、死力を尽くし、
3勝4敗で、シリーズは終わった。
日本シリーズ連覇はならなかったという、
この現実はありましたけれども、
しかし、なんとも、感動的な雰囲気を感じ、
ぼくは拍手を送りましたね。
糸井 ぼくは、最後の第7戦を、気仙沼で、
市役所のみなさんといっしょに観てたんです。
ほー。
糸井 これは、なかなか微妙な観戦でしたよ。
当然、ぼくはジャイアンツファンという立場で、
みんなもそれは知ってますからね。
「糸井さんジャイアンツファンだから」って、
まぁ、お客さんであるぼくに対して、
多少は気をつかってるんだけど、
楽天に勝ってほしいに決まってるんですよね。
そういう状況でいっしょに観ることになって、
お互いに、ちょっと遠慮しながら、
お互いのチームを心から応援してるわけですよ。
おー(笑)。
糸井 でも、なんていうんだろう、
やさしいんですよ、やっぱり。
東北の人たちって、もともとは
ジャイアンツファンだった人が多いんですよ。
ああ、そうですね。
糸井 でも、自分たちに希望を見せてくれるっていうのは、
やっぱり、楽天が勝つことなんで、
「弱かった俺たちが、勝った」という文脈においても、
心から応援しているんですよ。
その意味ではジャイアンツも
卑怯なことしてもらったら困るし、
手を抜いてもらっちゃ困るし、
なにより、強くなかったら困る。
で、そのうえで、勝ちたい。
うん。
糸井 ぼくらは、そういう楽天ファン、
東北の人たちの気持ちも知ってるけど、
でも、やっぱりジャイアンツに勝ってほしい。
そういう状況で観てましたからね、
なんて言うんだろう、
どこと戦うときよりも、仲よくケンカしてましたね。
(笑)
糸井 それはきっと球場で観ている人も
そうだったんじゃないでしょうかね。
そうですね。
だから、いろんな見方があったんですよね。
感じ方っていうかね。
糸井 そうですねぇ。
だから、例年にない注目の度合いでしたよね。
糸井 ほんとです。
3勝3敗になったときにはね、
ほんと、「いざ、決戦!」だった。
糸井 そうでしたねぇ。
そういう意味では、はじめてジャイアンツが、
全国の敵役になったんですよ。
ああーーー。
糸井 たんにアンチが多いっていうことじゃなく、
生粋のジャイアンツファン以外は、
ぜんぶが楽天を応援する
っていう流れになったんですよね。
そういうことですねぇ。
それでしみじみ思ったことですが、
ぼく、不思議とですね、
「なぜ日本シリーズ負けたんだ!」って、
一回も野次られませんでした。
糸井 あーー、そうですか(笑)。
つまり、ジャイアンツファンの人も‥‥。
悔しいというところを超えたんでしょう。
「なんで負けたんだ、ジャイアンツ」って、
もちろん思ってる人はいるでしょうけど、
いつもの日本シリーズなら、もっともっと。
糸井 言われますよね、言われます、言われます。
昨年の日本シリーズに関しては、
ひと言も、ひとりにも、言われたことないです。
糸井 はぁー‥‥。
これは不思議なことで。
いや、その悔しさというのは、
もちろんあったんですけどね、
負けたあと、なんか、
妙な心理状態になった記憶がありますね。
そして、誰にも文句は言われなかった。
まぁ、慰めのことばというか、
ぼくに対する感想で一番多かったのは、
「今年はそういう流れだから、しょうがないよね」。
糸井 わかります(笑)。
なんなんだろう、その流れというのは(笑)。
まあ、そういうような、
抽象的なことばだったんだけど、
「しょうがないよね」って
伝えてくれる人が多かったです。
糸井 いろんなことが積み重なってますからね。
震災ももちろんそうだし、
思えば、球界の再編で、
仙台に球団ができたこともそうですよ。
そういうことがすべて影響している。
そして、その前の年に、ジャイアンツが、
5冠に輝くほど強かったっていうのも
やっぱり影響してますよ。
前の年、やっとのことで初優勝した、
みたいなチームじゃ、敵役として不十分ですから。
ははははは。
糸井 だから、あの日本シリーズというのは、
これまでにも歴史に残るような
すばらしいシリーズがありますけど、
ひとつ、刻まれるべき、
語り継がれるべきシリーズだったと思います。

2014-04-02-WED
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