プロ野球選手の孤独。  ──原辰徳の考えるチームプレー。
第1回 大人になった野球選手たち。


糸井 「選手は孤独だ」っていうのを聞いて、
原さんがWBCについて同じようなことを
おっしゃっていたのを思い出しました。
「WBCで戦うために集められた選手は、
 最初、それぞれが孤独で、硬い」と。
その視点はすごいなぁと感じたんですが。
混成チームというのは、そうです。
ひとりひとりが、孤独な状態で集まっている。
そこがポイントなんですよ。
糸井 それはおもしろい見方だなぁ。
逆にいうと、だからこそ、可能性があるんですよね。
上にも行けるし、あるいは、下にも行ってしまう。
そこが混成チームのおもしろいところだし、
同時に、難しいところなんですよね。
糸井 その「孤独」に目が向いたのは、
自分が選手だったときの経験からですか?
ぼくは高校時代に
日本代表チームに入ったときにそれを感じました。
糸井 あ、やはりご自分の経験なんですね。
はい。
高校2年生のときにね、
全日本に選ばれて、アメリカ遠征に参加しました。
当然、ひとりです。
それまでの野球といえば、
いつもチームメイトといっしょでした。
なにか、チームメイトといると、自分も強く感じる。
糸井 お互いに、頼りにし合えるというか。
そうです。
チームの中に自分が融合して、
知らず知らずに自分自身を
大きく感じることができていたわけです。
それがひとり、ぽんっと放り出されて、
日本代表というチームに入ったときに
すっごく孤独感がありました。
糸井 孤独。
もう、孤独感。
いままでのプレーを果たして自分ができるだろうか、
という不安が出てくる。
しかし、一度チームに溶け込んで、みんなと汗を流し、
自分がもといたチームと同じような気持ちになれると、
今度は、日本代表という
非常に高いステージでやれてるという部分で、
逆にもっと自分の力が出るんですよね。
糸井 それは、味わったことがない人間には
なかなかわからないことですね。
そうかもしれませんね。
だから、WBCの日本代表チームも、
そういうふうな、ひとりひとりが
チームに融合するような環境にすることが
大事だと思うんです。
糸井 前回のWBCで監督を務められたとき、
その、孤独から出発するという考え方は、
チームづくりに大きな影響を及ぼしていたんですか。
うん、もう、そう思ってました。
糸井 それも、高校2年生のときの経験があったから。
そうですねぇ。
あと、もうひとつね、ぼくは小さいときに、
よーく転校してたんです。
糸井 ああー。
小学校4つ転校して、中学校が2つ、
だから、ぼくは小中学校のあいだに、
6校行ってるんですね。
でね、転校ほど、イヤなものはないです。
これも、孤独感なんですよ。
糸井 ああ、同じなんですね。
同じなんです。
転校したときは、イヤでしょうがない。
しかし、やっぱり、場所にうまく融合できると、
非常にたのしいわけですよね。
孤独を超えていってるわけですから。
糸井 うんうんうん。
やっぱり孤独とか、不安とか、
イヤだなと思うことって、
超えたときに大きくなれる。
糸井 そうですね。
乗り越えて、戻ってきて、っていう、
2倍の動きがありますから。
だから、まぁ、6つの学校に行ったことも、
当時はイヤでイヤでしょうがなかったですけど、
やっぱりいい経験値になってるのかな、
という感じはしますね。
糸井 そういえば、もともと原さんは、
チームに新しく入ってきた選手たちに
すごく積極的に声をかける印象がありますが、
それも、そういう気持ちみたいなものが作用して。
そう思います。
やっぱり、新しい場所に来た選手というのは、
孤独だし、不安だし、まぁ、
それに打ち勝ってもらわなければ困りますけれども、
最初のうちは、めげてしまう人もいますから。
そこには少し、背中を押してあげたり、
後ろから支えてあげる時間が必要だなと思ったら、
そうしてあげたほうがいいでしょうね。
糸井 たとえば、
トレードでよそのチームから来た人だとか、
あるいは、二軍から上に上がった人だとかにも、
それぞれの孤独があるわけですよね。
はい。
で、ぼくはね、よく、トレードで来た選手なんかに、
これだけは言おう、と思って
つかってることばがあるんですけども。
糸井 はい。
それはね、「気分よく野球やってくれ」と。
糸井 ああーーー。
気分よくジャイアンツのユニフォームを着て、
スタートして、気分よく一日を終わってくれ、と。
糸井 うーん、なるほど。
そういうことを言いますよ。
やっぱり、チームで動くスポーツですから、
早く交わって融合するっていうことが、
明らかにいいエネルギーに変わりますから。
だから、おもしろいのは、環境が変わることで
すごく活躍する選手っているでしょう?
糸井 いますねぇ、いますねぇ。
それは、新しい場所への融合が
とってもいいきっかけとなってるわけですよね。
逆に、自分で扉を閉めてしまって、
小さな世界の中で、孤独にもがいたとしても、
ベストパフォーマンスは出せませんよね。
糸井 ということは、
外に向かって開いてる選手っていうのは
本来持っている才能以上の力を
発揮する可能性がある。
絶対に。
だから、どういう理由があるにせよ、
ステージが上がる、ステージが変わるというのは、
その人にとって最大なるチャンスである
というふうに思いますね。
糸井 原さんから見て、新しいステージに対して
「開いている」ように思える選手というと、
ぱっと思い浮かぶのは誰でしょう?
そうですね、やはり、長野、坂本。
(※長野久義28歳、坂本勇人24歳。
 現在のジャイアンツを引っ張る中心選手。
 昨シーズンは両者ともに173安打を放ち、
 最多安打のタイトルをふたりで獲得)
今回、彼らはWBCの日本代表チームに選ばれて、
いままでの自分が培ったものに対して、
もう一つ顎を下げた状態で向き合っていると思います。
糸井 やるぞ、と熱くなるのではなく。
むしろ、いま、彼らは不安だと思いますよ。
それはもう手に取るようにわかります。
不安があり、まぁ、どこかにほどよい緊張感もあり。
もちろん、勇人(はやと)なんかは
打ちたいと思ってるでしょう。
しかし、打ちたいよりも、しっかり守れるかな
という思いのほうがずっと強いと思いますよ。
糸井 はーー、おもしろいですねぇ。
それは、ぼくらにはわからないわ(笑)。
なんていうのかな、やっぱりもう、
視点が変わってくるんですよ。
それが「ステージが上がる」ということなんです。
糸井 そういうことって、
直接、彼らと話したわけじゃないんですよね?
してない、してない(笑)。
糸井 でも、わかるんですね。
まぁ、訊いてもらってもいいですよ。
たぶんね、打ちたいとかね、そういうことよりも、
まず、ゲームに出たら、しっかり守りたいと。
そういう基本的なことを思ってると思いますよ。
やっぱり、わーっと盛り上がって、
理想的なことばかりを考えるんじゃなくて、
やっぱり、最初の一歩の部分は、
地に足をつけた状態で、という考え方になる。
糸井 おもしろいですねぇ。
と、思いますよ。
「いや、ぼくはホームラン打ちたいです」
ぐらいのこと言ったら、頭ひっぱたいてやる(笑)。
糸井 あとで訊いてみようかな(笑)。
はっはっは。
(続きます)

2013-04-05-FRI