最終回 壮大な「イントロ」の終わり
ハイビジョン映像を、時間の遅れなしに、
つまり「リアルタイム」で1メガ以下に圧縮して
品質を落とさずに、あらゆる機器に伝送する。

そんな技術は「XVD」以外にはないんです。
糸井 その「1メガ以下」だとか「リアルタイム」とか、
そういう「たどり着くべき理想」は
はじめから
あたまのなかに、イメージしきれているんですか?
うーん、それも、最終的には
考古学に使えるかどうかで判断していることが
多いかもしれませんね。
糸井 じゃあ「リアルタイムじゃなきゃダメ」なのにも
考古学的な理由が?
いや、そこは、考古学的というより
「ことばが何秒か遅れで耳に届く」なんて、
じれったくて、ダメでしょう。
糸井 やはり、徹底的に「ユーザー目線」なんですね。
テレビ電話の会議だって
「いいか、これから大事なことしゃべるぞ。
 みんな、聞こえるかー!」‥‥なんて
いちいち言ってたら話にならない。
糸井 たしかに(笑)。

ちなみに、この「XVD」の会社って
どこにあるんですか? シリコンバレー?
まず、この「XVD」の技術を開発したのが、
ロシアの科学者なんです。
糸井 へぇ‥‥そうなんですか。
こういうテクノロジーを実現できそうな人を
世界中、探しまわったんですけど、
アメリカにも、イギリスにも、インドにも、
イスラエルにも‥‥どこにもいなかった。
糸井 うん、うん。
で、ロシアで見つけたんですよ。
糸井 見つけた‥‥というのは、
原さんご自身が見つけたという意味ですか。
そうですよ。
糸井 ほんっとに‥‥すごいよなぁ。
でもね、見つけたのはいいんですけれど、
ロシアって政情が不安定。

仮に、事業が成功したとしても
「接収」されちゃったら
もとも子もないじゃないですか。

というわけで、
チーム丸ごと、アメリカに移住させたんです。
糸井 ‥‥(笑)。
シリコンバレーに連れて行って。
そこで、技術を完成させた。
糸井 ロシアの人だって、
ひとりだったわけじゃないでしょう?
20人くらいは、いたと思いますね。
糸井 はあ‥‥(笑)。

それじゃ、ようするに、
アメリカの会社ということなんですね?
いや、ところがね、ごぞんじのように
アメリカって
アラブで徹底的に嫌われてるでしょう。
糸井 ええ、はい。
わたしが「遠隔教育、遠隔医療」をやりたいのは
そのアラブをふくめた途上国なんですよ。
糸井 ああ、バングラデシュという国も
イスラム教徒が多いんですものね。
そうなると、アメリカの会社だというだけで
要らぬ誤解を受けてしまう。
糸井 うん‥‥そうか。
それで、アイルランドに持っていったんです。
糸井 え?
会社は、アイルランドに。
糸井 中立的だから?
そう、アイルランドなら、やりやすい。
糸井 もうね、
いちいち驚いてたらキリがないけど‥‥。

それって、本気でやろうとしてる人にしか
思いつかないことですよね。
そうでしょうかね。
糸井 世のなかにとって、
「こういう新技術が必要なはずだ」と
思いつくのは、
原さんご自身なわけですよね?
ええ、わたしです。
糸井 そういうことを思いつくのは、いつ?
そんなことばかり考えてるんですよ。
ひとりで、いつも。
糸井 思いついたら、メモ書きしたりして?
メモというには‥‥ま、広告の裏紙とかに(笑)。

これなんか、ほら、
先日、泊まったホテルの朝食券ですけど、
使わなかったんで、何かメモってある。
糸井 ほんとだ(笑)。
こんな裏紙ばっかりですよ、わたしの場合。
図面なんかも、描きますしね。
糸井 で、思いついて、広告の裏に書き留めたら
こんどは
その技術の実現に必要な人なりモノなりを
探し出しす、と。
ええ、必要な人やモノを探し出して、
技術として完成したら「他流試合」を申し込む。
糸井 それはつまり‥‥プレゼンテーション?
つまりね、専門家に見てもらうんです。

「XVD」の場合は、
まずはテレビ放送に使われるだろうから、
世界最高水準の技術を持っているNHKに
持ち込んだんですよ。

そしたら、
「日本放送協会放送技術展」の最優秀賞をくださって、
すぐに、番組でも使ってくれるようになった。
糸井 この技術を目の当たりにしたら、
不思議はないですよね。
今では、その他の日本の民放だけでなく、
NBC、CBS、ABCの
いわゆるアメリカの「3大ネットワーク」も
使ってくれてるんです。
糸井 そして、放送業界の次が
途上国の「遠隔教育・遠隔医療」というわけですか。

‥‥なるほど。

いや、予想を遥かに超えて、おもしろかった。
お忙しいところ、今日はほんとに‥‥。
そうそう、わたしね、
たまたま今月はずっと日本にいるんですよ。
糸井 あ、そうですか。
もしよろしければ、また会いたいです。
ええ、ぜひ、会いましょう。
糸井 じゃあ、今日、聞かせてもらったお話は、
じつに壮大なイントロダクション、
大いなる「前書き」ということで(笑)。
ええ、まだまだ、
いろいろ、ありますからね(笑)。
糸井 それじゃ、次回も、楽しみにしてます。
ええ、また、近いうちに。
<続きます!>

2008-08-04-MON


(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN