第7回 技術を使って世界を変える
糸井 このあいだ、お会いしたときに聞いた
バングラデシュでの遠隔医療・遠隔教育に、
この「XVD」を? ‥‥すごい。
カメラの前に医者を座らせた、遠隔医療。
カメラの前に先生を座らせた、遠隔教育。

わたしはそれを、バングラデシュでやりたい。
糸井 ほんとに、すばらしいことだと思います。

しかも、より多くの資金を投下できるように、
慈善事業でやらず、
きちんと利益を出す仕組みでやるんですよね。
いいでしょう?
糸井 病人が、苦労して医者のもとまで移動しなくていい。
ベッドから動かなくたって、いいわけですね。
ええ、そういうことです。
糸井 バングラデシュのような発展途上の地域でも
問題なく、実現可能なんですよね。
ええ。
糸井 ‥‥というか、バングラデシュのような
途上国の通信インフラでも対応できるんだったら、
他のどの国でも実現できるってことですね。
そう、まさに、そのとおり。

なかでもハードルの高い国でできるなら、
アメリカやヨーロッパ、
日本でやるなんて、簡単なことですから。
糸井 なるほど‥‥うん。
それ以外にもね、
いろいろ「XVD」には、いいところがあって。
糸井 なんですか?
本来、ハイビジョンというのは
データ容量が、すごく大きいじゃないですか。

だからね、この、わたしのパソコンみたいに
安もののモデルだと
ダウンロードできないんです、ふつうは。
糸井 ハイエンドなパソコンじゃないとダメ。
ところが、この「XVD」を使った場合には、
映像を見る側は、
安物のパソコンであろうが何だろうが‥‥
極端にいえば「携帯電話」だって大丈夫。
糸井 えっと、「800K」で見られるわけですもんね。
厳密に言うと、相手が携帯電話であろうが、
PDAであろうが、安もののパソコンであろうが、
あるいは逆に、
高精細なハイビジョン画面であろうが、
ひとつのコンテンツを
あらゆるスペックの機器に送ることができる。
糸井 つまり‥‥受ける側に合わせてる?
そう、相手の許容容量に合わせて
自動的にデータを調整・圧縮してくれる。

技術的にそんなことが可能なのは
いまのところ、この「XVD」だけなんです。
糸井 いや‥‥それは、すごい。
そういえば‥‥思えばこれも、
もともとは「考古学」だったんですよ。
糸井 というと?
ほら、たとえば遺跡から発掘したものを
電話かなんかで
「高さ何センチ、直径何センチ、
 こういうような文様が描いてあって‥‥」と
いちいち説明するより、
ハイビジョン映像でパッと見せちゃったほうが、
何かと話が早いでしょう。
糸井 発想が、徹底的にご自分の身体感覚ですよね。
そうそう、「自分用」というか、
さっきの話でいえば、わたしのやりたいこと。
糸井 原さんご自身の「欲求」ですね。
そう、なるべく安いほうがいいと思ったのも、
自宅で、自分が使いたいからだし。
糸井 なるほど。
さらにこれ、撮るほうもコンパクトなんですよ。
ほら、これだけの装備でOKなんです。
糸井 リュックサックをしょってます。
ハイビジョンというのは、データ容量が多いから
ふつうは中継車が要るんですけど‥‥
われわれの「XVD」は
ぜんぶ、このバックパックに入っちゃうんですよ。
糸井 えっと、機材が? このなかに?
そう、これだけ。
糸井 だったら、エベレストのてっぺんから
たったひとりでハイビジョン中継できますね。
ええ、やろうと思えば(笑)。
糸井 へぇー‥‥。
たとえば、地震なんかが起きたとき。

これまでは、中継車が入っていけないとなると、
撮影できる場所で撮った「同じ映像」ばかり、
くりかえし、流すしかなかったじゃないですか。

でも、この装備なら、どこへでも入っていける。
糸井 しかも、リアルタイムで生放送できる、と。
さらにね、これ、本当に軽いんです。

中継車一台の機能が、
たったの「5キロ」で済んじゃう。
糸井 女性カメラマンでも、背負えちゃいますね。
ちなみに、このバックパックは
わたしがスポーツ用品店で買ってきた
既製品なんですよ。

そのなかに、ポンッといれただけ(笑)。
糸井 街でふつうに売ってるリュックサックのなかに、
最新鋭のテクノロジーが(笑)。

その「こだわりのなさ」も、原さんらしい。
だってね、オリジナルを作ったりしたら、
それだけ高くなるでしょう。無意味に。
糸井 ええ、ええ、そういうことですよね。
安く手に入るものがあるなら、
わざわざ作ることはないんですよ。
糸井 草野球チームのユニフォームといっしょで、
自分たちのオリジナルって、
つい、ウットリしちゃうんですけどね(笑)。
でも、その「ウットリ」よりも
このテクノロジーを普及させるためには、
少しでも、安くしたほうがいい。
糸井 なんて言うんだろう、
そういう、まわりのみんなの身の丈と合った
原さんの金銭感覚って、
今まで、ブレたことはないんですか?
ないと思います。
糸井 たぶん、そのあたりも、
今の、原さんという人をつくりあげている
重要な要素なんでしょうね。
そうでしょうかね(笑)。
糸井 でも、この「XVD」って
放送業界のいろんな常識を変えますよね。
ええ、変えてくれるでしょう。
糸井 原さんのことばを借りて言うなら、
まさに「技術を使って世界を変える」ですね。
やはり、これからの新しい時代に必要なのは、
「新しいテクノロジー」なんです。
<続きます!>

2008-08-01-FRI


(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN