有野課長の挑戦部屋に、糸井重里がやってきた。 ―30年目の『MOTHER』のおはなし― 有野課長(よゐこ・有野晋哉さん)×糸井重里

お笑いコンビ・よゐこの有野晋哉さんが
名作ゲームに挑戦するバラエティ番組、
『ゲームセンターCX』(CSフジテレビONE)。
「株式会社ゲームセンターCX興業」の「有野課長」として
16年間、レトロゲームに挑戦しつづけています。
番組からの依頼で生まれた「ほぼ日手帳」が
世に出るタイミングで選ばれたゲームが、
糸井重里の手がけた『MOTHER2』。
試行錯誤しながらゲームを進める
有野課長の挑戦部屋を、糸井重里が訪ねました。
初代『MOTHER』の誕生から30年、
いまなお愛されるゲームの思い出を語ります。

CSフジテレビONE『ゲームセンターCX』の
収録内容を、ほぼ日編集バージョンでお届けします。

6『MOTHER3』は出ない座談会

有野課長『MOTHER3』のときは、
どんなチームだったんですか?

糸井「3」は「2」のチームの
増築版で企画をはじめました。
チームの人数も増えましたし、
最初は3Dで開発をはじめたんです。

有野課長あれっ、3D?
『MOTHER3』もドット絵でしたよね。
最初は3Dで出そうとしていたんですか?

糸井結局出たのは、ドット絵だったんですけど、
最初はNINTENDO64で出そうとしていたんで、
立体化していたんです。
でも、途中の段階で完全に頓挫しちゃった。
「NINTENDO64最後のゲームは、MOTHERかな」
と言われながら作っていたんですが、
次のマシンが出ちゃうような時期になっても
ずーっと行き詰まったままで。
これはもう「『MOTHER3』は出ない」という
宣言をしなきゃならなくなったので、
岩田さんと宮本さんとぼくが集まって、
「3は出ない座談会」をしました。

有野課長あははは、出ない座談会なんかやったんや。
みんなで「出ない」って話したんですか。

糸井「すみません」と「なぜ出ないか」を。

有野課長その座談会のなかで、
「やっぱり出そか」になるんですか?

糸井いや、そこではまだ。
落ち着いたらまたできる方法も
あるかもしれないぐらいでした。
で、そのままにしていたんですけど、
京都でまた違う用事があって
宮本さんと岩田さんといっしょに
ごはんを食べに行くクルマに乗った途端、
「『MOTHER』なんですけどね、
糸井さん、ゲームボーイでやるのは嫌ですか?」
と言うわけですよ。
「えっ、イヤじゃないけど‥‥」。

有野課長NINTENDO64とゲームボーイじゃ、
容量が全然違うでしょう?

糸井全然違います。
「糸井さんがよければ、
ドット絵でならできると思うんですけどね」って。
「3」が頓挫する前に、
おもしろい世界観はできていたから、
やってみたいなっていうのはあったんです。
「じゃあ、ちょっと考えなきゃね」って言って、
また「チームと会ってもらえませんか」になって。

有野課長もう1回。

糸井うん。
それからまたチームを作るんです。
3Dで作っていたのを全部やめているから、
「絵はこういうのですかね」
「その絵じゃないな」というやりとりを
結構シビアにくり返しました。
そこで絵と景色が決まったところで、
ようやくスタートできたんです。

有野課長じゃあ、NINTENDO64で
作りかけてたのは全部ゼロにして。

糸井ゼロです。
いざ作れるとなると本気になって
ストーリーも全部作らなきゃいけません。
おもしろいイベントも、
いくつも入れていきたいんで。

有野課長それ、糸井さん全部1人でやるんですか?

糸井だいたいはぼくが考えて、チームに説明するんです。
話している間に思い浮かぶこともあるし、
もっと悪いことを思いついたら、
全滅から逃れるためのアイテムを
手に入れる方法が必要になったり。
シナリオはひとりで考えるときもあるし、
ゲームデザインを手伝ってくれる人と、
合宿みたいに籠もってアイディアを出すときもあるし。

有野課長セリフは?

糸井セリフは、ある程度組み立てができてから。
『MOTHER3』ではぼくが口立てで、
「そんなこと言われても困るよ」って言ったら、
「そんなこといわれてもこまるよ」と
テキストをどんどん打っていってもらうんです。
それを言われたカエルはなんて答えるか、
「『もったいつけてケロ』って入れてくれる?」
みたいなやりとりをしていました。

有野課長「ケロはカタカナだね」みたいな(笑)。
それが合宿ですか。

糸井ずーっとやってるんです。
ぼくの話を聞いて、笑ったり、
いいねって言ってくれたりする人がいて、
セリフをタイピングしながら、
分岐をちゃんと整えられるように
「さっきと矛盾しちゃうんですけど、どうしましょうか」
みたいなことを言ってくれる人もいて。
いっしょに笑ってくれる人がいるのは、
やっぱり素晴らしいことでした。

有野課長ちゃんと気づいてくれる人もおるんや。
煮詰まるんじゃなくて、
たのしく作っている感じですか。

糸井もちろん煮詰まることもあるんですけど、
それも含めてよかったなあ。
「ちょっとおにぎり買いに行こうか」みたいな。
あっ、そうだ。これ見せなきゃ。

有野課長なんですか?

有野課長うわっ、カッコいい(笑)。

糸井着てきたの、今日。

有野課長あははは、ありがとうございます。
糸井さん、『MOTHER』シリーズって
「3」まで出しているじゃないですか。
一番愛着があるのはどれですか。

糸井愛着はね、どれもありますよ。
どれも全然違うんだけど、
一番広まったのは「2」ですね。
売れた本数もそうだし、
みんなが「MOTHERやりましたよ」って
言ってくれるのは「2」なんですよ。

有野課長「1」じゃないんですか?

糸井「1」じゃないんですよ。
「1」は、「2」をやった人がやるんです。

有野課長戻るってことですね。

糸井いわば「1」っていうのは、
「MOTHERビギニング」なんですよ。
「1」「2」「3」では
対象年齢もひとつずつ上がっています。
「1」なら幼くてもできるし、
「2」はちょっとものを
知ってからのほうがおもしろい。
「3」はもうちょっと
大人になってからのほうがいいです。

有野課長「3」の内容は大人ですよね。

糸井ぼくも年を取ったから、
じぶんの年齢に合わせてますね。
「3」はすっかりおじいさんになってから
作っているわけだから、
ひねくれ方がやっぱりおかしいよね(笑)。

有野課長あははは。
へえー、そうでしたか。

糸井うん。

有野課長NINTENDO64で作ろうとしたときに
できた案ってあるじゃないですか。
それはもう、どこにも出ないんですか?

糸井うん。
特に、絵が描きたくてスタッフになった人が、
「俺だったらこういうの入れるな」
みたいに作ってくれたものなんかは、
絵としては素晴らしいんですよね。

有野課長へえー。

糸井『MOTHER3』には道具の中にホッチキスがあって、
崖を登るときにホッチキスを
カーンカーンって打ち込みながら登っていくんです。
そのシーンを3Dで作ると、
オリンピックの種目にしたいような
迫力があるんですよ。

有野課長崖をホッチキスで(笑)。

糸井ドット絵にすると、
パンパンパンパンってかわいくなっちゃう。
「あれ、つぶしちゃってゴメンね」
みたいな気持ちはありますね。