その9 来週の放送日が来ちゃうよ!

糸 井 北折さんが15年も異動がないのは
「ためしてガッテン」のせいですか。
北 折 「ためしてガッテン」を続けたいと願って
いろんな作戦を使って
ぼくなりに異動させにくい状況をつくってきたんですね。
糸 井 15年は知らないわ、たしかに。
ぼくらが、見続ければ
そういうことが成り立つのかな。
でも、自分がもしかしたら、
離れる時期だ、って思うときが
来る可能性が、なくはないですよね。
北 折 そうですね。過去にはありましたけど、
もう、ここから先はないと思いますね。
もうあとは、志の輔さんが
この番組をやめたいって言うまでは。か、
あるいは、ほんとにお客さんが離れていって
これ以上離れたら、
やっていけないってところまでは、
もう、いくしかないと思ってます。
糸 井 うーん。
北 折 ネタはもう全然なくて、困ってますけど。
糸 井 ネタ15年回したら‥‥
北 折 しかもおなじ志の輔が、おなじ山瀬まみに
ガッテンまでしてもらわなきゃいけない
っていう、
ものすごい足かせがありますから。
観 客 (笑)。
北 折 司会者ころころ変えてればね、
なんとでもなったと思うんですけど。
糸 井 目先を変えようっていうのは
ないですよね。
よくネタが持ちますねって、
何度も聞かれてるでしょうけど、
それについても
きっと、お答えが用意されてるんでしょうね。
 
北 折 いや、ネタ、
もう持ってるとも少しも思ってなくて。
とにかく自転車操業でやるしかないなかで
これ、普通どう考えても、
これじゃ、1本番組できないよっていうのを
強引に企画会議に通すしかないんですね。
糸 井 うんうん。
北 折 で、通しちゃってから、
なんでこんなネタを通すかねって、
言いながら、つくる。
糸 井 ‥‥。
観 客 (笑)。
北 折 って状態です。
糸 井 そういう例について、
北折さんの『かまぼこはなぜ
11ミリで切るとうまいのか?』に
ちょこっと書いてありますよね。
これをつくりはじめたときには、
まだ、わかんなかったみたいなこと。
北 折 わかんなかったことがいっぱいですね。
糸 井 いわば自分たちの実験室で発見をしていって、
番組を成立させるわけですよね。
北 折 っていうことがすごく多いですよね。
最近は特に。
糸 井 苦肉の策ですよね。
北 折 年中苦肉だらけです。
あの、もう企画会議の段階で
これがわかっているから、
番組になるといえるような番組はもう、たぶん、
年に2、3本ぐらいしかないんじゃないですかね。
観 客 ええー。
 
糸 井 アイディアって、やっぱり
呼吸とおんなじで、丁度良く
ハァッと出すわけにいかなくて、
吐き切るみたいなことをしないとダメで。
なんだろう、出るか出ないかのちがいって、
危機感なんだと思うんですよ。
北 折 うんうん。
糸 井 動物って安定していきたいわけで、
ある種の、恒常性の中で見ていますよね。
アイディアを出すっていうのは
いまの世界を変化させるなにかですから。
危機意識があって、この場所にいられないぞ、
っていうときに、あちちって飛び出すみたいな。
北 折 そうですそうです。
糸 井 その意識がないと出ないはずなんで、
お前らそれがねぇんじゃねぇか?
っていうことを、
社員に、こう、ちょっと強く
言おうと思っていたんです。
北 折 (笑)。
糸 井 いまの話、まさしくそうで、
来週の放送日が来ちゃうよ、
ってことですよね、言わば。
北 折 そうなんですよ。
糸 井 で、来ちゃうよって
本気で思える人じゃないと
アイディアは出ないですよね。
北 折 うちはみんなそうです。
 
糸 井 あのね、名作があってね。
これはもう何回かしゃべってる話なんですけど、
秋山道男って、ものすごく頭がよくて器用で
なにしてるかわかんないタイプの
ぼくの知り合いがいるんですけど
彼と、飲み屋でぐだぐだしてるときに、
秋山さぁ、文通の最低限のマナーっていうのはなに?
って急にふるわけですよ。
そうすると
「封筒の中にお刺身など入れないこと」。
観 客 (笑)。
北 折 ははははは。
糸 井 アイディアってなんだっていったときに、
いつもそのことを思い出すんですよ。
北 折 うーん。
糸 井 設問がすでに、
呼び込める設問ではありますよね。
文通の最低限のマナーって言われたら
ある意味では何言っても
答えにはなるってところで、
問題はたしかにいいってところはあるんですよ。
でも「封筒の中にお刺身など入れないこと」
っていうのは、一所懸命、
ゆっくり考えてたんじゃ、やっぱり出ない。
なんていうんだろう。
力強い、硬いうんこみたいな。
 
北 折 ははは。
考え方のものの視点を
すっと切り替えることができる
ってことですよね。
糸 井 そう。
北 折 最低限っていう考え方は、
最低を見つければOKっていうふうに
すぐに思えれば
出るってことですよね。
糸 井 けれどその順番では速度が足りないですよね。
北 折 ああー。
それが反射的に。
糸 井 反射的に、違和感のビジュアルですよね。
つまり、封筒・文通っていう紙の乾いたものと
お刺身っていう食物・生物っていうものの
違和感を、そこにパーンとぶつけて、
マナー、違和感みたいなところが一気にはじける。
自分でもそういう、急に何か言えるときって、
さっきの、NHKで講演を頼まれて
ぼく行きますよって言っちゃった理由っていうのは、
NHKを励ましたかったから行っただけなんですよ。
で、北折さんが感心してくれたセリフって
前々から考えたことじゃないわけですから。
北 折 ああー。
糸 井 話の流れの中で、なんとか励ましたいと思って
オレもそうだよってことが言いたいときに、
出ちゃったんだと思うんですよね。
それは、美談として語るとしたら、
ぼくは、切実な叫びとして言ったんですよって
言えるし、それはほんとではある。
だけど、追いつめられて。
北 折 追いつめられて(笑)。
糸 井 出ちゃった。
その切実感みたいなもの。
やっぱり、世界に足りてないものを
出すのがアイディアですから。
ゆったりと考えて出るはずがない。
前哨戦の部分とか
まえがきはね、いくらでもゆったり
考えられるんですけど、
おまえ責任持って最後のアンカーだぞ、
って言われたときの恐ろしさは
危機感ですよね。
北 折 まさに危機感ですね。
糸 井 草食系男子の方が出るかもね、
もしかしたら。
怖いから。
北 折 うーん、怖いからって意味ですか。
糸 井 ライオンで強い人って
たぶん、アイディアなくても、
いいよ、殴っちゃうから、
って、言えばいいわけで。
北 折 あ、それで言うと、
うちの若いディレクターたちは
みんな、いい感じの怖がりが多いですね。
糸 井 ああー。
でも、いいですね、それは。
そう育ったんですか。
北 折 たぶん、もともと持ってた何かに
ガッテンに来てから得た何かっていうのが
足されたんだと思います。
たぶん、そういう体を持っていて、
うちで筋肉を鍛えはじめた、
っていうことだと思います。
 
糸 井 バランスよくっていうのは、
もちろんうれしいことなんだけど
やっぱり、どこかに弱点があると
それを、かばうための筋肉が発達しますよね。
だから、気が弱いとかっていうのは
すごくいい特質ですよね。
ときどき、矢野顕子みたいに、
練習が好きで天才みたいな人がいるから、
なんとも言えないんですけど、
すごい取り柄があるってことが、
弱点だと思うんで。
その意味では、弱点があるってことが
緊急避難のような、
生き延びる道を考えるためには
いいですよね、おそらくね。
(つづきます!)
2010-06-02-WED
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