2018年1月、
ほぼ日の学校が始動しました。

これからいったい、
どういう学校に育っていくのか。

そのプロセスの出来事や、
学校にこめる思いなどを、
学校長・河野通和が
綴っていきます。

ほぼ日の学校長

河野通和(こうの・みちかず)

1953年、岡山市生まれ。編集者。

東京大学文学部ロシア語ロシア文学科卒業。

1978年〜2008年、中央公論社および中央公論新社にて
雑誌『婦人公論』『中央公論』編集長など歴任。

2009年、日本ビジネスプレス特別編集顧問に就任。

2010年〜2017年、新潮社にて『考える人』編集長を務める。

2017年4月に株式会社ほぼ日入社。

ほぼ日の学校長だよりNo.62

「はじめたからできた!」

<私は、いま、歌舞伎がつまらないと思っている人がうらやましい。つまらないと思っていた時代に戻りたいとすら思う。というのも、よくわからないと思いながら見続けるなかで、じわじわと面白さに気がつくプロセスも、歌舞伎を観る醍醐味の一つだからだ。>(成毛眞『ビジネスマンへの歌舞伎案内』NHK出版新書)

 元マイクロソフト日本法人社長の成毛眞(なるけまこと)さんが、いつから、どのように歌舞伎の虜(とりこ)になったのか? みずからの体験をふまえつつ、歌舞伎のおもしろさ、意外に知らない歌舞伎の常識、より深く味わうための心得などをたっぷり伝授してくれました。

naruke

 昨晩(12月19日)行われた年内最後の授業――「Hayano歌舞伎ゼミ」第7回の講義です。

 歌舞伎ゼミも、残すところあと2回。年明けに桂吉坊師匠にふたたびお越しいただき、8月の熱演をいま一度、新たな演目でご披露ねがう予定です。そして2月の最終講義は、初回と同じく矢内賢二さん(ICU上級准教授)をお迎えして、ゼミ主宰者の早野龍五さんと2人で締めくくっていただきます。

kichibo

yanai

 今年1月16日に始まった「ほぼ日の学校」も、1年の予定をつつがなく終えることができました。シェイクスピア講座を全14回、Hayano歌舞伎ゼミを7回、始まったばかりの万葉集講座が2回、くわえて10月29日に開催した「たらればさん、SNSと枕草子を語る」という単独イベント、また6月の「生活のたのしみ展」や11月の「株主ミーティング」などでも「学校」の関連企画を実施しました。

ongaku

ueno

 たくさんの皆さまの協力を得て、なんとか無事に終えることができました。本当にありがとうございます。

 古典をたのしく学ぼう、というイメージを抱いて開講したのはもちろんですが、どういう受講生が参加してくれるのか、講師の方々がおもしろがって遊んでくれるのか、始めてみないことには予想のつかないことばかりでした。

 シェイクスピアからスタートしよう、と決めたものの、どういう組み立てにしようかと、ゲーム・プランを考えている時に、シアター・カンパニー・カクシンハンの木村龍之介さんと出会います。昨年7月1日のことでした。「いつもマントにシェークスピア」という小さなイベントでしたが、シェイクスピアとの出会いを語る若き演出家の真っ直ぐなことばが響きました。

kimura

 その日は挨拶程度で別れますが、彼を“切り込み隊長”にしたらおもしろいのではないか――そういう誘惑に駆られました。それから何度かお会いするうちに、最初の“直感”は外れていないぞ、という思いが深まります。8月19日に吉祥寺シアターで上演されたカクシンハンの「タイタス・アンドロニカス」(シェイクスピア)を糸井さんと一緒に観に行きました。野球でいえば先発・中継ぎ・抑えの3役で、木村さんに講座全体の支柱になってもらえないか、というイメージが膨らんでいきました。

 願ってもないことに、シェイクスピア研究者の河合祥一郎さん、翻訳家の松岡和子さんらが、こころよく後ろ盾として加勢してくださり、さらにベテラン俳優・演出家の串田和美さん、日本文学の古典や演劇に通じた作家の橋本治さん、“NINAGAWA(蜷川幸雄)シェイクスピア”をフォローしてきた新聞記者の山口宏子さん、専門は異分野ながらシェイクスピアと深く関わってきた村口和孝さん(ベンチャー・キャピタリスト)、向井万起男さん(病理医)、おもしろがり精神ゆたかな岡ノ谷一夫さん(生物心理学者)、作家の古川日出男さんらが、こぞって参画してくれました。

kushida

hashimoto

 世の中に古典を学ぶことの大切さ、意義を説く人はたくさんいます。古典をテーマにした名著もあります。カルチャーセンターの古典講座、テレビ、ラジオの古典教室も健在です。それでもなおかつ、古典をたのしく学ぶ「場」を、あえて一緒に創り出しましょうと力を貸してくださる方々と最初に出会えたことは幸運でした。

 たのしいから古典を学ぶ、学ぶことで古典の世界がよりたのしく身近になる――そんな夢を共有できればと願いました。

 仕上げは、受講生の皆さんです。受け身で坐っているよりも、この場をもっとたのしくしようと思う人たちが、積極的に教室の空気を作ってくれました。松岡和子さんが、ここは受講生のものすごい「圧」を感じるの、と語ってくれました。講師を波に乗せて運んでゆくような、お祭りムードが充満していたと思います。

matsuoka

 ここまで書いてきて思い出したことがあります。開講の翌日に、糸井さんが「今日のダーリン」に感想を書いてくれたのです。こわごわと(ほんとうです!)、いま読み返しました。忘れかけていたあの日の実感がよみがえってきました。乱暴ですが、そのまま引用させてもらいます。

<『ほぼ日の学校』は木村龍之介さんの授業で幕を開けた。
 教えるとか、学ぶとかについて、ここも学校なのだから
 ないわけはないのだけれど、そういうことじゃなかった。
 やっぱり、理想はこういう感じなんだろうなぁと
 思っていたような「コップの水をごくごく飲む」
 ‥‥ほんとにそんな時間が生まれた。
 99人分の席があって、そこに座っている人たちは、
 まぎれもなく木村龍之介さんと同じように、
 この時間の主役たちだった。
 そして、サイドのいくつかの席には、
 この先「シェイクスピア」について授業をしてくれる
 講師の方々が、聴講生として並んでいる。
 松岡和子さん、河合祥一郎さん、山口宏子さん、
 古川日出男さん、早野龍五さんもいる。
 村口和孝さんは前半だけでもと後部に立っていた。
 向井万起男さん、串田和美さん、岡ノ谷一夫さんは、
 どうしても行けないのが残念でしかたない、
 という連絡をくださった。
 ふつう、講師がじぶんの番でもないのに、
 客席の側にいるなんてこと、あるものじゃない。
 それぞれの方が、他の講師の話を聴きたいのだという。
 こんなメンバーに凝視されながら、
 第1回の講座を引き受けてくれた木村龍之介さんは、
 「ほんとにえらい」と、みんなが言っていた。
 終わってみれば、その「ほんとにえらい」若者の講座で、
 「ほぼ日の学校」のビジョンに手足が生えだしていた。
 終わってからも、集まっていた講師たちは、
 そのまま、ここに起こった出来事や、これからのこと、
 そして、シェイクスピアのことなどを話し続けた。
 こんな時間、空間が生まれたのは、
 「99人の客席の人たち」のおかげがとても大きい。
 そのことに、だれも異論はなかった。
 年齢も環境も経験もばらばらの人たちが、
 若い講師の合図で、シェイクスピアの世界に潜っていく。
 そんなふうにも見えたし、たくさんのことばを、
 ほんとうにごくごく飲んでいるようにも思えた。
 校長の河野通和さんの、ほっとした表情も含めて、
 いろいろ忘れられない夜になった。>

 いま読み直して感無量です。まだ1年たっていないというのがウソのようです。ずっと昔の出来事のようにさえ思えます。

 この夜から昨晩にいたるまで、1回1回が全力投球でした。余裕? まったくなかったと思います。糸井さんがいみじくも言った「考えているばかりでなく、はじめたからできたんだよねー」というのが真実で、なんとかここまでたどり着きました。

 来年も、この「初心忘るべからず」でチャレンジしていきたいと思います。引き続き、皆さんよろしくお願いいたします。

gakkou

 そして、最後にひと言。ついに「シェイクスピア講座2018」全14回がオンライン・クラスに揃いました。年末年始に是非ご覧いただきたいと思います。来年は、歌舞伎ゼミ、万葉集講座、その他新しいコンテンツがどんどん加わってまいります。

 この1年、有形無形の、あたたかい励ましをありがとうございました。

 皆さま、どうぞ良いお年をお迎えください!

2018年12月20日

ほぼ日の学校長

*12月27日はお休みいたします。