万葉集講座 99人の卒業制作「恋の歌」 万葉集講座 99人の卒業制作「恋の歌」
「あなたのことが好き」という気持ちは、
1300年前の万葉の時代も今も変わらない。
歌人・俵万智さんの言葉です。



昨年11月にはじまって、
10回の講義を重ねてきた、
ほぼ日の学校
「だれでもが歌にときめく 万葉集講座」は、
5月22日に最終回を迎えました。

万葉学者、歌人、詩人、英文学者、俳優、
発酵学者、ノンフィクション作家といった
多彩な講師の導きをうけて、
99人の受講生のみなさんは、
歌を詠む「声」を得たように思えます。

そこで、卒業制作として、
昔も今も変わらない「恋の歌」を
みんなで詠むことにしました。



過ぎた日の恋もあります。

現在進行形の恋もあります。

淡い思いも、艶めいた歌も。



はっとするほど我が身と重なる歌が
みつかるかもしれません。

歌を詠みたくなる方もいらっしゃるでしょう。

ときめいてください。大人の恋の歌に。

豆苗を切った根元が伸びてきて 指をからめた夜のことなど

春雨

帰るねと ドアノブ触れた 君の手を ただ止めたくて 言葉を探す

関根フミ

湿り気を含んだ風に蘇る君の気配を反芻する宵

Anjo

かんたんに答のわかる世の中で あなたのことだけわからない

hima

指の背で眉のラインを撫でてみる 起きても起きなくてもいい朝

nameeri

肩ふれる 深夜タクシー 見交わして 優しさ溢れ 沈黙なりけり

se.me(清明)

声も手も 指も吐息も 薄れゆく ダブルフェイス時計の刻む距離

唇が ほしい、尾も毛も 耳もほしい ほんとは君に 撫でてほしい

Y.K.

春昼に 小言浴びせる この上司(ひと)の 夫が褒めた 肌に手をやる

きむらみわ

向日葵の葉のくらやみで手を握り あおぞらゆらり、さらって空に

ゆきだるま

「いつも想う」形見ひとこと 置くよりも 身かき抱いて 我が首絞めて

君形チトモ

告げるべき 心が言葉に ならぬまま 君を初めて 抱きしめた春

まあ

明かり消してあなたがすべりこんでくる 手探りで触れるほおの冷たさ

ほうじ茶
 

ふうわりとあなたの両のてのひらの 蛍がひとつサイン送りをり

藤原加朱代

窓の外 いつもの声が響いてる 犬の散歩か今日は私も

(や)

眼と眼 合い 響く かみなり 星花火 今 めぐり逢い 虹色の旅

風はらみ新緑の木々さざめきぬ 君に告げたき言の葉のあり

小島恵

私の手のばせばそこにあなたの手触れてかわそう ときめく心

黒須千鶴子

あのときの後ろ姿を想いつつ 変わってないねと 微笑み返す

KH

逢わなくて幾度の桜か三寒四温 行きつ戻りつ前進みつつ

秀丸

春の陽に 若葉マークの二人連れ 微笑み添えて 見送る私

あいこ

雨降りが あんなに嫌いだったのに うれしいこの頃 君を感じて

みちこ

夏休み 君の夢見た夜の数 5割を超えたら恋だと思う

ことこ

マニュアルに 無いその笑顔 続けてよ 好きなコーヒー の味など振る

こういち

泣きだした私を思わず抱き寄せて優しいあなた途方にくれる

セピアへと うつりにけりな いたづらに 視線はずれた その先の君

mu

もう何年箪笥の中にいるのやら初めて会った日のワンピース

ワタナベ

教室の 窓から見える 富士山(ふじやま)は あなたを想い 編むセーターの色

ふたこ

送られてくる「好き」よりもかみしめる 顔見たいだけ、の短い時間

M

きみどりと風の香りに背を押され 君のラインにメッセージ送る

ここねここ

夜9時半 待つ人のある 交差点 息をはずませ 駆け寄りてゆく

ちらりの妻

新たな日 胸に抱きて 確かめる ときめく魔法で 君は残るや

K.A.

もしかして 恋のスイッチ入ったかしら お気に入りの本 貸したくなってる

千鳥ちゃん

満月に 浮かれて思わず スキップし 恋は突然 始まるものね

fujiちゃん

雪の日にそっと触れた指さきを今日はつないで歩く春風

背中越し 見た夢話す 声楽し 消えても上がる とりどり花火

CT

日常が キラキラしたり ざわついたり 心くるくる 忙し恋

kanak

遠い日の花火のような恋をして空がほんとに青いと思う日

宙太郎

ひとり旅 満開の桜 花見酒 なのに思うは君との再訪

Akemi

この想い うたにしたくて できなくて よんでみようか 『サラダ記念日』

川上えり

いつもより 微笑みながら 紅を引く あなたの笑顔 思い浮かべて

Y.YURI

満月に あなたとの恋 祈ってる いつも一緒で ありますように

にこにこ

バスケ部おりそっと黒帯締め投げられ落とされドラえもーん

坂巻祥行

ジャスミンの 香りが好きと 言う君が 弓張り月に あわく輝く

けい

「暑いねえ」言い合いながら離さない繋ぐ手で知る夏の訪れ

M

みだれて髪 はらり首筋 雪解けの 汗に近づけ 香る白梅

藤 万奈

パクチーの 懐かしきかな 昭和のカレ 誰に語らず 空を見上げる

ゆき
 

いづこかに 置き忘れし 恋うこころ 思い出したい ここだ愛しき

なつつばき

運命と 思いし出会い やぶれても 心通いし 思い出残る

Hinako

土の記憶 炎の中で甦り 走る緋襷 血の色に似て

ふたば

茉莉花(ジャスミン)の 香り満ちたる風の夜 ふれる手と手に 電気が走る

Y.I

いつの日か深き音色で奏でたし バッハ・シャコンヌ その一部でも

バイオリン・ラブ

あの頃を大事にせずにごめん俺 同窓会で酔って告白

のーどみたかひろ

花の下 去りにし君の 面影を 心に秘めて 歩む我が道

tatsu

恋に恋ひ 恋にこがれて 恋さがし 芽生えた恋に 気づかぬままに

初恋を 思い出しつつ 恋の歌 記憶の彼は 横浜流星

くちびるを重ねて囁くアイシテル 嘘じゃないけどホントでもない

ささの

亡き父の零戦への恋くだけ消え 栗林中将去りしその年

N.O.

じゃあまたね いつものように 響けども 君の名のなき 同窓名簿

町田 昇

もういいの どっちでもいいのと すねてみる あなたのこころの 居場所さがして

紀子

切なさを 気づかないふり だましても 声聞くだけで 涙あふるる

さかいえみみ

iPhoneに ありしきみ住む くにのとき つかわぬ日々が つもりつもりて

しお

恋う心 そんな気持ちはどこへやら 逆恨みして隣をにらむ

のぶ

コンビニで 歌が聞こえて 立ち止まる 失くした恋が 泣き出した夜

445

「かつて好き」かつてと好きの間には行きつ戻りつ流れた時間

いわまえり

重ぬれば 巧みとなるが 常なるを なぜ苦しみぬ いつの折にも

不苔
 

来年は 三人でみる 桜だね 妻の手を取る 多摩川の土手

Kai

週末の朝はパンとコーヒーと君と青空があれば幸せ

A.Y

幸せは 自分より あなたの皿に取り分ける 最後のエビ

宮本

ねこやきゅう ビールとんかつ ぬいぐるみ あなたの好きが 好きになる

ながみん

こっちかなこっちがいいかな飲み比べ 君の好みの地酒探して

千典

さきに寝たあなたの隣すべりこむ 脚からませ温もり奪う

アイロンのとおったあとの 白いシャツ 二十年たった 今も変わらず

H.Y

歌を練る吾をからかうその笑みに いらだちつつもかなわないなあ

AO

あなたとの思い出の本開くたび 二人の時間がまた蘇る

N.M

大声で がははと笑う きみの声 姿さがして ふりかえるけど

Y

あなたの幸せの一部になりたい 幸せの役に立てませんか

奥田麻衣

夢の中 手をつないでる かの君は 若い日のまま 黒髪なびく

K.りょう

見ていたい 静かに動く君の肩 同じ空気にいるだけでいい

さくらもち

春めぐり 喪の日に流せしCDの 調べのうちに 君の音を さがす

sy

君逝きてもう生きてなんていけないと思ってたけど今日も笑った

小雀
<「卒業制作・恋の歌」を読んで>
令和の“万葉歌人”たちよ!



「万葉集講座」の今回の角(つの)書きは、
「だれでもが歌にときめく」でした。

正直に言って、
こうなるといいがなぁ、という
夢想の域を出ませんでした。

それが、現実になりました。

「ごくごくのむ古典」という
学校のキャッチコピーも、そうですね。

これも、もちろん現実に。

ここに令和元年五月二十三日、
恋の歌八十一首が集まりました。

令和の“万葉歌人”たちに、
いやしけ吉事(よごと)!



ほぼ日の学校長
河野通和
2019-05-23-THU