第1回 @気仙沼 夏を超えて。

糸井 みんな「当たり」だったと思うんですよ。
西條 ええ。
糸井 西條さんたちのやったことって。 
西條 はい。
糸井 支持されたし、アイデアに満ちてたし。
でもその後、現状はどうですか。
西條 ‥‥ケタが変わりました。
糸井 桁?
西條 前回の連載の6月ごろは
物資支援の対象となる避難所は
「500箇所」くらいだったと思うんですが、
7月には「1000箇所」を超え、
最終的に「3000箇所」以上、
3万5000回、15万5000品目に及ぶ
支援となりました。

Amazon経由でも、
2万何千品目と送られています。

「家電プロジェクト」でも
赤十字や行政の支援が受けられない
個人避難宅やアパートなどの
みなし仮設を中心に
2万5000世帯以上に家電を配りました。
糸井 なるほど。
西條 岩手、宮城、福島の前線支部、
そして、
岐阜、名古屋、大阪、京都、神戸、
岡山、山口‥‥といった
後方支援支部も立ち上がりました。
糸井 全国に広がったんですね。
でもどうですか? 夏を越えてみて‥‥。
西條 明らかに「疲れ」が出ましたね。

僕をふくめ「ふんばろう」のスタッフ全員、
ずーっと走り続けてきたので。
糸井 やっぱり‥‥。
西條 ぼくらの「ふんばろう」は
言うなれば「土俵際のモデル」なんです。

持続させるということを考えたら
いつまでも
当初の体制では続けられないなと。
糸井 発明が必要になったんですね。
西條 まったく当たり前で基本的な話なんですが
「組織図」をつくりました。
糸井 おお、ついに!(笑)
西條 はい(笑)、今はこんな感じです。

糸井 ‥‥意外とすっきりしてるんですね。
西條 はい。

これは、ドラッカーが言ってることですけど
「階層」を増やせば増やすほど
「機能」は低下する‥‥ということで、
「階層」は作らず
シンプルに、を心がけました。

それまでは、何を誰に連絡したらよいか
わからないような状態でやってきたんですが、
この問題については
あの人に聞けばいいという体制が
ようやく整いまして。
糸井 それは、いつごろ?
西條 8月後半ぐらいですね。
糸井 じゃ、扇風機とか配ってる最中だ。
西條 そのくらいです、はい。 
糸井 その時期を過ぎて‥‥「9.11」あたりになると
そろそろ、
個々に「やるべきこと」が何なのか、
役割分担が明確になってきたじゃないですか。 
西條 そうですね。

もっと言うと、半年を過ぎたあたりから
復興支援を取り巻く空気が変わりました。

がらり、と。
糸井 ‥‥ほう。
西條 まず、自分たちの生活を組み立てながら
長い目でやっていく‥‥という方向に。
糸井 それは「トーン」が下がったという意味?
西條 少なくとも、息を止めて走る
「短距離走」モードから
「長距離走」の走り方に変わった感じ、です。
糸井 ご自分はどうでした?
西條 ぼくも、7月に入ったくらいの時期から、
このままいくとブッ倒れるな‥‥と思ったんで
やはり、モードを変えました。
糸井 たしかに、会社勤めをしている人で
休職をしてボランティアに行ってたりしたら、
そのうち「回らなく」なりますよね。
西條 フリーでやっていながら
とても活躍されてるかただっていますけど、
やっぱり、きついと思います。

時間を割けば割くほど、
本業のほうは、どんどん圧迫されますから。
糸井 うん。
西條 今回の震災は、とにかく「長期戦」になる。
次々と、入れ替わっていきますし‥‥。
糸井 入れ替わる?
西條 鴨長明の『方丈記』じゃないですけど、
川の「水」が
どんどん入れ替わっていくんです。

ある時期、ものすごく活躍した人が
すっといなくなったと思ったら、
次にまた新しく入ってくる人がいて‥‥。
糸井 なるほど。
西條 バトンタッチしていくんです、人が。

もちろん最初からずっと続けてくれる人も
たくさんいるから成り立っているんですが。
糸井 そういう意味でも「長期戦」ですね。
西條 はい。
糸井 ぼくらは、自分たちの「やれること」って
おそらく
「流れている血を止める」ような仕事じゃなくて、
ある程度の処置がなされてから
「リハビリ」に当たるような仕事になるなと、
わりと初期の段階で思ったんですね。
西條 ええ、ええ。
糸井 そこで、長期戦で息切れしないためにも
震災直後に「予算」を立てたんです、会社として。

これは「アイデア」だったと思うんですが、
うちの会社として
この1年でいくらいくら「東北」に使えると
CFOが出してくれたんです。

だから、その予算のワクに合わせて
ぼくらは何をしたらいいかって考えました。
西條 なるほど‥‥。
糸井 西條さんの組織も、変わって来ましたか?
西條 最近、実感しているのは
とにかく「自分はここまではやるんだ」と
心に決めているメンバーが
そこを乗り切るまで、徹底的に責任を持つ。

そういう「本気」の人たちが
そのつど集まって、
ひとつひとつ乗り越えていき
「成功」をつなげていくことが大事だ、
ということです。

成功させて、よろんでもらえて、
ボランティア自身も
「大変だったけどやってよかった」
と思うことが
次のエネルギーにつながるんです。
糸井 なるほど、なるほど。
西條 「やらなきゃよかった」と思ったら
もう次の日から
来なくなってしまいますから。

「ふんばろう」では
一切、給料はもらえないですし(笑)。
糸井 そうですよね。
西條 ぼくが、震災後半年の時期に思ったのは
「先が見えない」ということの、たいへんさ。
糸井 いつまでふんばり続ければいいのか、と。
西條 はい。ひとつひとつのプロジェクトについては
グラデーションはあれど、
「成功」と言っていいと思うんですが‥‥。
糸井 ええ。
西條 それらを実際に運営していくのって
「人間の集まり」ですから
やっぱり、そんなに容易なことではないんです。
糸井 わかります。
西條 ですから、震災から1年の「3月11日」が
1つの節目になるなぁと。
糸井 節目?
西條 もちろん、そこでやめるわけじゃないです。

3月11日に計画していることとか
いろいろあるんですけど‥‥
その日までに、「ふんばろう」の体制を
もう少し整えていきたい。

組織図的に言うと、
「ぼく」からの機能分化をもっと進めて
個々に独立性を持たせたいんです。
糸井 小回りの利くチームにしたいわけですね、
それぞれを。
西條 はい。僕らはネット上で立ち上がったので
ホームページがとても重要になるんですが、
プロジェクトが増えるたび
ウェブの制作チームは大変になるんです。

明日までに、とか無理な注文も増えますので、
どうしても
「依頼されてやる」というカタチになってしまう。
すると、ボランティアなのに
「自発的に」できなくなっちゃうんです。
糸井 なるほど。
西條 そこで、
8月ぐらいから「独立web構想」を掲げて
最近はその体制が整ってきました。

ブログのように
ホームページを作れる仕組みを使って、
スタッフにその講習会を受けてもらい、
ホームページを
各プロジェクトごとに、
自分たちで作れるようにしたんです。

そうすることによって
web構築チームに集中していた
負荷を分散させて
さらに機動的に回せるようになりました。
糸井 大きくなった組織を、身軽に。
西條 そうすると「依頼する」という形を取らず、
「自発的に行うボランティア」という営みと
矛盾しない。
糸井 なるほど‥‥。

初期の段階、つまり
西條さんが「何やっても当たり」だった時期って
「ニーズ主導」だったと思うんです。

つまり、腹が減ってるから食糧がほしい‥‥と。
西條 そうですね。
糸井 それがやがては「ウォンツ」になってくる。
つまり
支援を受ける側の主導になってくるんです。

「これがほしいんでしょ?」じゃなくて
「これが足りないんです」と。
西條 ええ、ええ。
糸井 つまり‥‥支援の「中身」が
そろそろ「物資」以外になってくるタイミングを
見極めることが重要ですよね。
西條 まさしく、そうです。

もちろん
「冬物家電」など必要な物資については
行政や赤十字の支援を
受けられない方もたくさんいますので
配布しなければなりません。

でも、なんというか‥‥
今後は、支援の「コミュニティ」を
現地に構築するための方策を
取っていきたい。
糸井 具体的には?
西條 たとえば
ミシンプロジェクト布ぞうりプロジェクト
「被災地ブランド」を立ち上げて
リピーターになってもらえる商品を開発する、とか。
糸井 ‥‥それって、俗っぽい言いかたをしちゃうと
「かっこいいもの」をつくれるかどうかですよね。

そう言うと、ずいぶん軽薄だけど。
西條 でも、本当にそうだと思います。
糸井 震災直後、西條さんが陸前高田でやっていた
重機免許のプロジェクトなんか
すっごく「かっこよかった」んですよ。

みんなが「誇り」を持つことができたから。
西條 ええ。
糸井 ああいうアイディアをまた出せるか、ですね。
西條 はい。
<つづきます>
2012-02-17-FRI
西條剛央さんの新刊、発売中!

人を助けるすんごい仕組み

震災以降、
多くの支援プロジェクトを成功させてきた
「ボランティアの素人」西條さんは
どのように
「ふんばろう」を作り、運営してきたのか?
「トラブルをふせぐ7カ条」など、
心理学の先生ならではの理論的な提案。
「こんなに厚い本、いつ書いたんですか?」
と言いたくなるほど
本業と「ふんばろう」とで多忙を極める
西條さんの「熱い」思い。
昨年5月、ほぼ日に掲載され反響を呼んだ
糸井重里との対談の「外伝」的な話も収録。
本の印税のすべてと、
ダイヤモンド社の売上の一部は
「ふんばろう」をはじめとする復興支援に
寄付されるそうです。
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3月11日、チャリティコンサートを開催。

連載第一回で、西條さんが
「3月11日に計画していることとか
 いろいろあるんですけど‥‥」
と言っていた構想が、これ。

「ふんばろう」の活動を応援してくれている
宮本亜門さんや大貫妙子さんと
チャリティーイベント&コンサートを
東京で開催するんだそうです。
「恵比寿ガーデンホールで行います。
 本当に来てよかったと
 心から思ってもらえるものになると
 確信していますので、
 ぜひご参加いただければと思います。
 チャリティーコンサートの参加費3900円は
 全額、復興支援活動に使われます。
 また、広いホールロビーでは
 各プロジェクトやチームがブースを出したり、
 エンタメ班のショーがあったり、
 写真展があったり、
 現地のお母さんたちが作ったモノを
 売っていたりしますし、
 そちらは無料ですので
 ぜひ、お立ち寄りください」(西條さん)

イベントの概要については
こちらの「ふんばろう」のページを。

チケットのお申込みは
こちらのチケットぴあのページからどうぞ。