フミ子さんの ゆず胡椒。   ─── 福岡の母に「どうつくるか」を学ぶ物語 ほぼ日読者の原田さんという男性(東京在住)から こんなメールが届きました。 「福岡にいる73歳の母に、  ゆず胡椒のつくりかたを学ぼうと思います」 ゆず胡椒。 湯豆腐とか、焼いた豚バラ肉に、ちょんとのせて。 ああ‥‥おいしいですよねぇ。 原田さんのお母さんの名前は、フミ子さん。 フミ子さんがつくるゆず胡椒は、 風味・辛味ともに絶品なのだとか。 ‥‥そのつくりかた、ぜひレポートしてください! え? レポーターは原田さんの奥様が? もちろんオーケーです。 ちいさなお子様もごいっしょですね。 ご家族そろって、よろしくお願いいたします。
第3回 ゆずとのご挨拶
 

目を覚ますと、すでにフミ子さんは台所に。
お味噌汁のいい香りがただよってます。
ふあぁ。なんて良い朝でしょう。

こちらの家に遊びに来ると、大体いつもこんな感じな私。

寝ぼけた顔で
「おふぁようございます。今日の朝ごはんはなんですか?」だなんて、
昔のお嫁さんならありえないんだろうなぁ‥‥。

ぼんやり頭でぼんやり反省しつつも、
居心地のよさと美味しい香りに包まれて、
実家以上に甘えちゃってるヨメなのでした。

「カオリさんはよく寝れましたかね。
 長旅で大変だったろうに、
 昨日も遅くまで付き合わしてから」
といつも優しいフミ子さん。

今日の朝ごはんは、庭の朝摘みトマト、出汁巻き玉子、
手作りところてん、具沢山味噌汁とごはんです。
う〜ん、美味しそう‥‥。

と、そこへゆず胡椒が登場。

このラインナップの中で何に使うのかと思いきや、
ツウは、程よきところでお味噌汁にイン!

いりこ出汁と米味噌をつかった甘めの味噌汁は
そのままでも十分に美味しいんですが、
ゆず胡椒がちょこっと入るとこれまた合うんです。

さっきまでの心がぬくもるようなお味噌汁が
「おふくろの味」なら、
新鮮な柚子の香りと唐辛子の程よいパンチが加わることで、
一気に「料亭の味」に大変身。
ゆず胡椒ってすごい。
料理初心者の強い味方を発見しちゃったもようです。
ふふふ。

美味しいごはんで力をつけて、
さぁ柚子の藤嶋さんのお宅へ出発です。

車を走らせること20分。
周りが山と田んぼだけになってきました。
田んぼに映る青空もきもちいい。

目指していた住所の辺りへつくと、
暑い中、藤嶋さんが外へでて待っていてくれました。


▲真ん中が、藤嶋さん。

「ちょっと分かりにくい場所ですけんね。
 大丈夫でしたか」
と、藤嶋さん。

今回の旅は、この藤嶋さんに会うのが目的なんです。
藤嶋さんに会って、
木になっている柚子を予約しないと!
で? その、柚子はどこに‥‥?

藤嶋さんのお宅では、奥様とふたりで
いろんな農作物をつくっておられるんだとか。
トマトやキュウリ、茄子、にんにく、桃、お米も。

柚子もそうした農作物のひとつなのですが‥‥
ここではなく、山の中の畑にあるとか。

もちろん見せていただくことに。
さあ、山へ!

山までの道のりは狭くてガタガタなので、
藤嶋さんの軽ワゴンに乗り換えて進みます。
ガタガタ道の揺れに興奮して
「潮騒のメモリー」を熱唱し始めるひとも出現。

そういう時、あまりフミ子さんは反応しません。
車窓から見える山の緑に釘付け。

「ほら、あまちゃんの歌を歌ってるんですよ」
と声をかけるとようやく‥‥

フミ子 「ああぁ。あまちゃんのね。
     ヒヨちゃん上手ねえぇ」

とほめてくれました。

車内が混沌としてきたころ、山の中の畑に到着!

そこは畑というイメージとは全然ちがって、
山を切り開いて平らにした場所という感じで、
その中にポツポツと木が生えておりました。

藤嶋 「ここにね、柚子やカボスなんかを植えてます。
    ほら、これ、見えます?」

お! いた!
かわいい赤ちゃん柚子がいました。

まだピンポン球よりちょっと小さいくらいの柚子。
こんにちは! 大きくなったら迎えに来るからね!
と、心で盛り上がっていたのに‥‥

藤嶋 「今年は柚子のつきがちょっと良くないんですよね。
    あんまり穫れんかもしれません」


えー! どうしよう!?
20kg欲しいのですが、足りないんでしょうか。

藤嶋 「あ、20kg。それは大丈夫でしょうね」

ほーっとひと安心。
ドキドキしたぁ。

藤嶋 「まあ、いろいろ手がかかりますけんね。
    こういう山ん中は鹿やらも食べにきますけん。
    ほら、この木、下の方が葉っぱないでしょ」

藤嶋 「これ、鹿が食べよるとですよ」

はぁー、鹿がくるんですかー。
うろうろ歩いていたら、足下にふと鶏ふん袋が。

藤嶋 「これが柚子の肥料です。
    柚子にはもう、これだけ。
    虫もつきませんけん農薬もいらんです。
    無農薬にこだわっとるとか
    そういうことじゃないんですけどね、
    柚子は強いんですわ」

そうなんですね。
だから安心して皮を使えるってわけだ。
いろいろ勉強になります。

藤嶋 「いやぁそれにしても暑いですなぁ。
    (この日の気温は35度くらいでした)
    そろそろ降りましょうか」

山からの帰り道、
ウワサの鹿に遭遇!!

まだ体に斑点があるからバンビでしょうか。
遠くからじっと澄んだ瞳でこちらを見つめて、
すぅっと山へ消えていきました。

山に鹿はいるといっても、
姿を見かけるのは珍しいんだとか。
こりゃまたラッキー!
ゆず胡椒の神様に
応援してもらっているような気にさえなります。
(えぇ。基本、バカがつく前向き人間なんです)

最後に、藤嶋さんとトモさんで、男の握手を。

トモ 「秋にまた来ます。
    美味しいゆず胡椒をつくりに」

ぎゅぎゅっ。

藤嶋さん、本当にありがとうございました!!!

そして楽しかった柚子さがしの旅もおしまい。
東京に帰ってまた普段の生活が始まります。

ゆず胡椒づくりは2ヶ月後の9月。
あのチビ柚子たちが、豊かな山のなかで
どれだけ大きくなってるのか、楽しみです。

フミ子さん、次に来る時はいよいよ、
ゆず胡椒づくりをよろしくお願いします!

(つづきまーす)

2013-12-03-TUE
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