フミ子さんの ゆず胡椒。   ─── 福岡の母に「どうつくるか」を学ぶ物語 ほぼ日読者の原田さんという男性(東京在住)から こんなメールが届きました。 「福岡にいる73歳の母に、  ゆず胡椒のつくりかたを学ぼうと思います」 ゆず胡椒。 湯豆腐とか、焼いた豚バラ肉に、ちょんとのせて。 ああ‥‥おいしいですよねぇ。 原田さんのお母さんの名前は、フミ子さん。 フミ子さんがつくるゆず胡椒は、 風味・辛味ともに絶品なのだとか。 ‥‥そのつくりかた、ぜひレポートしてください! え? レポーターは原田さんの奥様が? もちろんオーケーです。 ちいさなお子様もごいっしょですね。 ご家族そろって、よろしくお願いいたします。
第2回 ゆずを探しに宗像へ
 

美味しい「ゆず胡椒」を作るのに、
当然こだわりたいのは、ゆずと胡椒(唐辛子)と塩。
ま、それしか使いませんのでね。へへ。

普段は、庭の畑で栽培している柚子(ゆず)の木や
唐辛子を使っているフミ子さんのゆず胡椒ですが、
これを大量に作ろうってことになると
庭だけでは足りません。

庭の柚子と変わらない柚子を手に入れるべく
JAや産直のお店にあちこち電話して、探しに探して数日。
ついに見つけた柚子生産者の方は、
偶然にも数年前、
フミ子さんが東京のお店のためにたくさん作るとき
直売所を通じて大量購入させてもらった方と
同じ柚子生産者さんだったのです。

これは会いに行かんといけん!
勝手な運命を感じながら、
今年の柚子の育ち具合を見せてもらいに
7月の宗像(むなかた)へ行ってきました。

福岡空港へは
お父さんの弘敏さんがお迎えに来てくれてました。
車で小一時間、お母さんが待つ家へと向かいます。

弘敏  「ヒヨちゃん、今日は
     おばあちゃんがご馳走を作ってくれてるよぉ。
     朝から道の駅に行って、
     新しい魚をいっぱい買ってきよったからね」

トモ  「よかったね、ヒヨ」

弘敏  「いや、うちのお母さんの腕はたいしたもんよ。
     近所の集まりで
     他の人が作ったものも食べたりするけどさ、
     やっぱりお母さんのとは全然違うもんやからさ。
     なんかねぇ。お母さんは一工夫するというんかな。
     味がちょうどいいけんねぇ」

カオリ 「いやぁ、お母さんはお料理上手ですもんね」

弘敏  「ほんとにお母さんは上手にやるよ。
     あらぁお母さんは元気やけんね。
     やっぱり元気がないとできんことよ。
     まぁ、周りじゃ一番元気に思うけど、
     いつまでこんなにできるかは分からんもんねぇ」

筋肉自慢で、
いつも力こぶを見せつけていたお父さんからも、
去年少し体を崩してからは
そんな話が出るようになりました。

トモさんがゆず胡椒を習おうと思った
きっかけがふと頭をよぎり、
「やっぱり今年作らなきゃ」と決意を新たにするのでした。

そうこうするうちに家へ到着。


サマーカットにされたボーダーコリーのユキが
豪快にお出迎えしてくれます。


(ヤァヤァおかえり。よくきんさったね。がうがう)

台所をのぞくと、
フミ子さんが得意のお料理で宴の準備中。
なんと寿司を握ってます!

家の寿司が「手巻き」じゃなくて「握り」だなんて!
わわ! 軍艦まで!

鯛やサザエ、イカの握りもたくさん!
しかも間にはさんであるバラン、
これも庭の葉っぱを自分で切ってる!

カオリ 「え? この葉っぱも庭にあるんですか?
     ほんとこの畑はすごいですねぇ」

フミ子 「そうやねぇ。だいたい揃うねぇ。
     野菜やらはあんまり買わんでいいもんねぇ。
     お父さんは自分が作ったようなこと
     よぅ言うけどね、
     なんもしとらんけんね。
     お父さんが植えるもんは
     お金かかる植木ばーっかり。
     植木屋さん呼んだら何万もかかるんよ。
     食べられんし。
     私が作るもんは柚子でもトマトでも
     食べれるものばっかりよ。
     みんな 原田さんのは美味しいねぇ
     て言うてくれるんよ。
     それに比べてお父さんの植木は‥‥」

また始まった、こりゃたまらん!
とばかりにお父さんはその場から外れて
イソイソとお酒の準備をはじめます。

お父さんはお酒が好き。
さすがに最近は体を心配して、
ひとりで飲むことはないそうですが、
日本酒の味を覚えた息子が帰ってくるってことで
地元の酒造でとっておきの
大吟醸を買って来てくれていました。

それを横目でジロリと見ているフミ子さん。
そう、フミ子さんはお酒が嫌いなんです。

正確に言うと、酔っぱらいが大嫌い。
若い頃の血気盛んなお父さんは
豪快に酔っぱらうこともしばしばだったそうで、
そんなことを思い出すから
お酒を飲もうとするお父さんに
厳しい視線を浴びせているんです。

そんなこんなでご馳走をいただき、
美味しいお酒にほんのり良い気持ち。

カオリ 「そういえば、そもそもゆず胡椒を作り始めて
     何年になるんですか?」

フミ子 「そうやねぇ。5年くらいかねぇ」

カオリ 「‥‥え? でもトモさんが大学の頃にも
     作って送ってたんですよね。
     トモさん、もう40過ぎだから
     5年前ってことはないんじゃ‥‥?」

フミ子 「うーん。そやねぇ。そうかそうか。
     そういえば送りよったねぇ」

カオリ 「てことは、えーと20年以上はたってますよね」

弘敏  「いやいや、もっと作っとるやろが。
     トモらが子どもん頃から作っとったやないね」

フミ子 「そうやったかねぇ。うーん。そうねぇ、
     ああ、そうやね。作りよったねぇ。
     まあでもその頃はほんとに少量よ。
     家で食べる分を1瓶くらい。
     塩の分量も目分量で
     ドさーっといれたりしちょったけん、
     毎年、今年のは辛いねぇとか、
     今年はちょうどいいねぇとかいうてね」

カオリ 「てことは‥‥40年くらいってことですよね?」

フミ子 「そうね、40年ね。そんなになるんやねぇー」

フミ子さん。
たしかに40年は経ってると思います。
それを5年かねぇ…って、そりゃサバ読み過ぎっす。

フミ子さんにとっては、
青柚子と唐辛子がいい感じになってきた時期の
毎年の風物詩でありながら、
「気が向いたから作っていた」
って程度のものだったのでしょうか。

なんとなーく作ってるうちに
キャリア40年の大ベテランになってたフミ子さん。
でも、意外とそんなものかもしれないな。

楽しい宴もそろそろお開き。
明日は朝から藤嶋さんの畑へおじゃまします。


▲宴のあと、遊びはじめるふたり。


▲「ヒヨちゃんは、おえかきがじょうずだ!」
                   

▲さあさあ、ふたりとも、もう寝ますよー。

(柚子さがしに、つづきまーす)

2013-12-02-MON
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