第2回 見られることで、鍛えられた。
── これまでに「200枚以上」のりすの絵を
描かれてきたということですが
はじめは、
「1枚」からはじまったわけですよね。
藤岡 はい。
── そこから「もう1枚、もう1枚」と
リクエストに応えていったということですが
「はじめの1枚」のときって
「仕事」という感じではないですよね、まだ。

お料理を運ぶ仕事だったわけですし。
藤岡 そうですね‥‥たぶん。
── でも、いまは完全に「仕事」ですよね?
藤岡 きっと、そうなんだと思います。
わたし、りすしか描いていませんから‥‥。
── 藤岡さんのなかでは
いつから「仕事」になったと思いますか?
藤岡 いつから、と言うと
それは「だんだんに」だと思うんですけど、
やっぱり、
みんなが「見てくれる」じゃないですか。

クッキーのパッケージになったら。
── ええ。
藤岡 それが、本当に、うれしかったんです。

仕事かどうかについては曖昧だったんですが、
「うわあ、すごい! うれしい!」って。
── はー‥‥なるほど。
藤岡 だから、自分としては楽しく描いてるだけなので
これまで、あんまり
「仕事よ!」って気もしていなくて、じつは。
── でも、はたから見たら
「描いた絵をみんなに見てもらえるのが、
 すごくうれしい」
というのって
やはり、プロの絵描きのよろこびだと思います。
藤岡 はい、そうなんだと思います。

でも、自分で「画家!」と思ったことが
あんまりないので‥‥
「プロの画家です」って言っていいのかな(笑)。
── いやいや、プロの画家です(笑)。

でも、藤岡さんという画家が他とちがうのは
作品が「クッキーの箱」となって
町の中をぐるぐるまわる、という点ですよね。
藤岡 はい、クッキーの箱なので
買ってくださった人だけじゃなくって
ご家族も見てくださるでしょうし、
誰かにプレゼントしていただけるなら、
またそこで、
わたしの絵のことを知らなかった人の目にも
とめてもらえると思うんです。

そのことを想像すると、すごくうれしいです。
── 1点ものの芸術作品として描いているのに
流通の形態は「商品」なんですよね。
藤岡 わたし、クッキーのパッケージになった時点で
いったん満足しちゃうんです。

だから、いろんな人が個展をやらないのって
言ってくださるんですけど、
ぜんぜん、そういう欲求がわかないんです。
── つまり「もう見てもらってる」から。
藤岡 それで、充分なんです。
── でも「見られることで鍛えられる」という面も
かならず、ありますよね。
藤岡 はい、それは、そうだと思います。

だから、こわくなったりすることもあります。
基本的に「ボツがない」ので。
── 先ほど「描いた絵はすべて商品になる」って
おっしゃってましたもんね。
藤岡 はい、西光亭の奥さまに絵を渡すと
かならず、パッケージにしてくださるんです。

だから、絶対に手を抜けないんです。
── 藤岡さんの「職業意識」って
そのへんにあるんじゃないかなと思いました。

強烈にあるわけじゃないけど
でも、静かに、しっかりあるというか。
藤岡 むしろ「あ、これはダメよ」って言われたら
すごく気が楽なんですけどね(笑)。
── なるほど(笑)。
藤岡 しかも、そこまで真剣に描いた作品なのに、
けっこう執着がないんです。
── ご自分の絵に?
藤岡 ちょっと、自分から離れている感じがする。

絵から一歩ひいた感覚というか‥‥
そのへん、やっぱり
ふつうの画家とはちがうかもしれないです。
── でも、あらためてですけれど
「クッキーの箱」だったっていうことが
すっごくいいなと思いました。
藤岡 はい、相性が良かったんだと思います。

あの、ほろほろっとしたクッキーに
このタッチの絵なので、
全体として
どこか、あたたかな雰囲気が出ていて‥‥。
── ちなみに、あれだけたくさんあるなかで
「ものすごく売れる」パッケージがひとつ、
あるそうですね。
藤岡 どんぐりの絵です。
── なんでも、そのパッケージだけで
売上個数の3分の1ほどを占めているとか。
藤岡 そうみたいです。
── やっぱり、「とくにできのいいもの」って
たくさんのなかでも
目につくってことなんでしょうかね。
藤岡 うーん、どうなんでしょう。

わたし自身は「売れる、売れない」ってこと
あまりよくわからないので‥‥。
── その絵を描いたときのこと、覚えてますか?
藤岡 覚えてます、覚えてます。

ものすごーく、集中して描いていたんです。
もう、目と絵が
くっついちゃうんじゃないかってくらいに。
── そんなに。
藤岡 で、しつこいぐらいに、重ね塗りしてます。
── へぇー‥‥。
藤岡 背景の色が気に入らなくって、
たしか、3回くらい塗り直してるはずです。
── その迫力というか‥‥情念みたいなものが
宿っているんでしょうか。
藤岡 情念は、けっこう込めるかもしれません(笑)。
── 描きあがったときは、うまくいったなあと?
藤岡 はい、たしか一晩で描き上げたんですけど
「できたー!」って感じでした。

いま、情念って言葉が出ましたけど、
やっぱり「絵に対する思い」が強いときのほうが
うまく描けるような気がします。
── 思い‥‥というと?
藤岡 たとえば、お母さんりすと子りすが出てくる
絵を描こうって思ったら‥‥。
── ええ。
藤岡 「ありがとう、ありがとう」って思いながら
ずうっとそう思いながら、描くんです。
── ほー‥‥。
藤岡 そうやって絵を描いていると、
雰囲気のいい、母子りすの絵になってくれます。

だって、
お母さんりすは、子りすに「ありがとう」って
思っていると思うし、
子りすも、お母さんりすに「ありがとう」って
思っているはずだから‥‥。
── 気持ちを想像しながら描くんですね。
藤岡 はい、りすの気持ちになってみるんです!
── ‥‥なるほど。
藤岡 ‥‥いま、自分で言ってて
ちょっと恥ずかしかったんですけど‥‥(笑)。
── いや、でもそうなんでしょうね。
藤岡 はい。

ずっとりすの絵を描いてきて、
やっぱり、そういうことだなって思ってます。
<つづきます>
2013-07-24-WED

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