藤岡ちささんプロフィール 東京・代々木上原に
西光亭という、スイーツのお店があります。
ここのクッキーのパッケージには
カラフルなりすの絵が描かれていることで
有名なんですが‥‥。
りすの絵を描いている藤岡ちささんは、
もう10年以上、
「りすばっかり」描いてきたんだそうです。
それも「クッキーの箱」だけに、
なんと「200枚(!)」以上の、りすの絵を。
藤岡さんご自身は
たいへんほんわかした人なんですが
ずらり並んだ「コワかわいい」りすの絵には
迫力やすごみを感じます。
ふつうの「画家」とはちょっとちがった
「りすの絵描きさん」のお話、
「ほぼ日」奥野が、うかがってきました。
もくじ
第1回 祈りながら描いてる。2013-07-23-TUE 第2回 見られることで、鍛えられた。2013-07-24-WED 第3回 りすのプロレス?2013-07-25-THU

第1回 祈りながら描いてる。
── 以前から西光亭のクッキーの箱のことは
知ってたんですけど
「ずっと続いているお菓子屋さんの
 昔ながらのパッケージ」
なんだろうと、勝手に思っていたんです。
藤岡 そうですか。
── だから、あのコワかわいいりすさんの絵も
もう何十年も
おなじスタイルでやってきたものであると
思い込んでいたんですが‥‥。
藤岡 みなさん、そうおっしゃいます。
── あ、やっぱり。
藤岡 おばあちゃんみたいな画家が描いていると
思ってる人もいたりとか(笑)。
── たしかに、藤岡さんが
僕と年齢が同じくらいだというのを知って
少々、ビックリしました。

厳密に言ったら「いっこ下」でしたし。
藤岡 はい(笑)。

そして「ちょっと昭和っぽいな」というのは、
自分でも感じてます(笑)。
── でも、歴史としては「まだ10年ちょっと」なのに
「昔ながらのパッケージ」だと
感じてたのって、
中身のクッキーのおいしさも含めた
全体的なクオリティの高さゆえ、ですよね。
藤岡 そうだとしたら、うれしいです。
── おもしろいなと思ったのは
藤岡さんって、もともと「絵担当」として
西光亭に入ったわけじゃなく、
はじめは
ふつうの「アルバイト」だったということです。
藤岡 そうなんです。

大学で広島から出てきてすぐのころに
このへんを歩いてたら、広告を見つけたんです。
── バイト募集の。
藤岡 はい。
── 絵を描くバイト‥‥では、もちろんなく。
藤岡 当時、西光亭はレストランだったので
わたしはホールのお仕事でした。
── つまり、お料理を運んだりする人として
アルバイトしていたわけですね。
藤岡 はい。「週2」で。
── でも、それがどうして、
クッキーのパッケージの絵を描くことに?
藤岡 わたし、美大に通っていたんですけど、
卒業するときに1枚、
葉書サイズの絵をプレゼントしたんです。

りすの絵を、西光亭の奥さまに。
── ええ、ええ。
藤岡 それから何年かしたあと、
西光亭でクッキーの詰め合わせをつくるとき
奥さまが
プレゼントした絵を覚えてくださっていて
「パッケージに描いてみない?」って。
── それが、はじまり?
藤岡 そうなんです。

その間もバイトは続けていたんですが、
絵の仕事になったのは、だから、それから。
── これまで、どれくらいの絵を?
藤岡 正確にはわからないんですけど
たぶん「200枚以上」は描いたと思います。
── ぜんぶ「りす」なんですよ‥‥ね?
藤岡 はい、りすです。

でも、いちばんはじめは
「りすでもパンダでも、何でもいいから」
って言われたんです。

だから、ひとまず「りす」を描きました。
── はい。
藤岡 で、2枚目をお願いされたとき、
「じゃあ次は、どうしましょう」と聞いたら、
「何でもいいわよ、りすで」と。
── つまり「りすで」と(笑)。
藤岡 そうなんです(笑)。
── で、そうこうするうちに、200枚以上。
藤岡 はい、描いたんです‥‥。
りすばっかり、あんなに(笑)。
── しかも、お描きになった絵は
すべてパッケージ化されてるんですよね。
藤岡 そうなんです。描いたものは、ぜんぶ。

クッキーの種類が増えていくたびごとに
絵も、どんどん増えていきました。
── お店に、ずらーっと並んでいましたけど
すごい財産ですよね。

あれでも「一部」なんだと思いますが。
▲西光亭の店内にはりすの絵の箱がこんなにもズラリ。
藤岡 たしかに、同じサイズの絵を
こんなにもたくさん書き続ける画家には
あんまり会ったことないですね。
── なるほど、そうか。
藤岡 奥さまから
「夏の絵がないんだけど」と言われては描き、
お客さまから
「バレリーナのりすはないの?」と
ご注文をいただいては描き‥‥。
── あ、そういうリクエストにも、応えて。
藤岡 はい。

「えーっ、りすがバレエ!?」とか思いながら
慌ててバレリーナの写真集を見たりして。
── おもしろいです(笑)。
藤岡 「まさかりすがー!」とか思いながら(笑)、
いろんなりすを描いてきました。

野球とか、フラダンスとか、力士とか‥‥。
── わ、おすもうさんまで描きましたか!

つまり、どっちかというと
来る球を
ひとつひとつ打ち返してきた感じですか?
藤岡 あ、まさに。
── それだけ同じモチーフばっかり描いてると
「いつか描けなくなるんじゃないか」
って、怖くなったりしないんでしょうか?
藤岡 んー、そうですね‥‥平気だと思います。
まだ、飽きてないので。
── りすに飽きてない。なるほど。

たしかに、描いていて楽しいんだったら
まだまだいけそうですね。
藤岡 もちろん、日によっては
なかなか描けなかったりするようなときも
あるんですけど。
── はんたいに「ぱっと描けちゃうとき」って
どういうときなんでしょうか?
藤岡 りす以外の脇役キャラクターとか背景とか
「他のぜんぶのイメージ」が
急に、集まってくるようなときですね。

たまーになんですけど、
そういう瞬間が降りてきたら「よし!」と。
── あたまのなかにイメージが構築されていて、
あとは描くだけ、みたいな状態?
藤岡 そうです。
── それがつまり「ひらめき」なんでしょうね。
藤岡 いいイメージがくっきりと浮かんだら
「お願いします。
 最後まで、ずうっとこのイメージで
 お願いします」って。
── はー‥‥。
藤岡 「最後まで描かせてください」って、
そう祈りながら、描いているんです。
<つづきます>
2013-07-23-TUE

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これまで、西光亭のクッキーの箱の上に
たくさんのりすの絵を描いて来た、藤岡さん。
200枚を超える作品のなかから
「はる・なつ・あき・ふゆ」の季節を感じる
絵をえらびだして、一冊の本にしました。
それぞれの絵には
藤岡さん書き下ろしの言葉が添えられてます。
藤岡さんの絵って、
あくまでりすが主人公なんですけど
こうしてよく見ると、ヘビやカメやカッパ(!)など
パンチの効いた(?)脇役もいいですね。
そして、ふだんは「クッキーの箱」に描かれている
藤岡さんの作品が
まとめていっぺんに見られるということで
クッキーは付いていませんけど、
ちょっとおトクな一冊だと思いました。
(ほぼ日・奥野)



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