BOOK
男子も女子も団子も花も。
「婦人公論・井戸端会議」を
読みませう。

第1回 "ヤング・オールド"の正体

第2回 抗老期を過ぎて

第3回 老いの景色はグラデーション

第4回
ヤキモチ心は枯れず
上坂 先生は、今でも義理はよくなさってます?
浮世の義理。
水野 葬式なんかは、トシとってから
だんだん行くことが減りましたね。
上坂 やっぱり。
このトシになると葬式はキリがないし、
いくら親しくした人でも、
本人が死んじゃったら
行ってもしょうがないものね。
それと私、若い頃はうんと筆まめで、
モノをいただいたら、
その日のうちに
お礼状を出してたくらいだったのに、
この頃、手紙類を書かなくなりました。
体力的なものもあるけど、
やらなきゃいけないことの優先順位を……。
糸井 変えていったんでしょうね。
上坂 ええ。
そのくせ、私と同い年で
今も筆まめな人がいて、
私が著書を送るたび、
欠かさずにそれなりの礼状をくれたりすると、
なんか悔しいの。
ゲームで負けたみたいに。
「あっちはまだ義理を果たす
 エネルギーがあるのか」
と、そんなことで老いを比較したりしてね。
糸井 逆に、向こうのほうが老いているなと思うと、
ちょっと嬉しいんですか。
上坂 嬉しい(笑)。
ヤキモチの心は老いても残るんでしょうかね。
糸井 負けじ魂と言うか。
上坂 そうかと思えば、
長く生きたくないなんてねぇ。
糸井 矛盾に満ちてますね。
紅葉の中に
緑の葉っぱが混じっているみたいな。
上坂 さっきから
達観したみたいなこと言ってるけど、
そうは簡単にいかないのもまた、老いでねぇ。
ただ、もう一回若返りたいとは思わない。
若いというのはわずらわしいですよ。
20代はまっぴら、40代もイヤ。
水野 うん、僕も若い頃に戻りたくはないですね。
上坂 古希というのも悪くなくて、
あきらめがつくトシなんです。
「もう、ここまできたんだからいいや」と。
水野 そうなんです。
老いでいちばん重要なのは、
「あきらめる」ということでね。
大岡昇平に聞いた話では、
「あきらめる」の語源は
「明らかに見る」だと。
「よく見たらそうだ」ということね。
糸井 クールになるってことですかね。
上坂 私は昔はよく「カッ」となってたけど、
そのカッとなり方も違ってきました。
今なら、グワッとなる。
水野 グワッとなるのは、
まだ若いんじゃないですか。(笑)
糸井 もっと年上の方に言わせると、
「まだまだあなたは水気が多い」
となるのかもしれません。
上坂 まあ、このあとどんな老いがくるか、
自分でも未知の楽しみではあります。
水野 だけど、痴呆やアルツハイマーで
自分がなくなったりするのはイヤだなぁ。
糸井 それ、予防なんてできるんですか。
水野 いや、難しい。
ただ、好奇心−−
いろんなものに興味をもつことが
いいんだと言う先生はいるね。
糸井 さっき言った僕の母親も、
カルテに「好奇心が強い」と
書かれたそうです。
水野 でも、これも性格によりますね。
上坂 その好奇心も感度が鈍ってくるんですよ。
私の仕事だと、
「これはおかしい!」とピンと響いたものが
書くきっかけになったりする。
ところが、トシをとると
レーダーがピッと反応しない。
そのかわり、講演会の途中で
何を話そうとしたのか、
わけわかんなくなるときがあっても、
ごまかし方が身につくの。
一息入れて会場を笑わせたり。
ほかの能力がついてくるのね。
糸井 僕くらいの世代の者が、
老いについて考えなきゃいけないことって、
何かありますか。
上坂 ありません。
働き盛りに考えた老いなんて、
何の役にも立ちませんから。
糸井 わかりました。
上坂 「わかりました」って、
まあ可愛いわねぇ(笑)。
ヒマがあるなら、
身内のおばあちゃんの老いをじっと見るとか、
そのくらいですよ。
しょせん老いへの対処なんて、
学習したり、
プログラムしてできることじゃないですから。
水野 おっしゃることはもっともだと思うし、
75歳になれば死んでもいいというのも
一つの考え方かもしれんけど、
それ以降も生きるとなると、
健康というのが大事でしょう。
いくら平均寿命が長いといっても、
「健康寿命」が延びたのでなければ意味がない。
僕は、そこにもうちょっと
サイエンスがあっていいと思う。
成人病を先に延ばすことが、
健康であるための一つの方法で、
健診なんか、
そういうことで意味があるわけです。
上坂 ああ、なるほど。
それで若いうちからと……。
水野 よく40、50、60と
ゼロのついた年齢での節目健診が
大事と言われます。
だけど、ますます高齢化する中で
健康寿命を延ばすには、
それこそ高校くらいから
サイエンスとして
老いへの知識をもたないといかん時代が来ると、
僕は思うね。
糸井 長寿地域と言われる沖縄なんか、
お年寄りがほんとに元気なんだけど、
何かサイエンスがあるんでしょうね。
水野 沖縄で調べたデータによると、
長寿で圧倒的に多いのは姉妹の組み合わせ。
“きんさん・ぎんさん"ですよ。
食べるもの、環境にしても、
同じような生活をしてるというのも
あるだろうし、
DNAもかなり関係あるでしょう。
糸井 うん、遺伝はあるでしょうね。
水野 姉妹であって
兄弟の組み合わせじゃないのが面白い。
男と女は違う。
やっぱり女のほうが、
たくましくて長生きです。
上坂 今の話で思い出しました。
さっき、ヤキモチが消えないと言ったけど、
もう一つ、「私怨」も消えないんですね。
これも女の特徴かしら。
それが一種の支えになってる。
糸井 私怨、たくさんあります?
上坂 ありますね。
これがなくなったら
抜け殻の老いになってしまうわね。(笑)
糸井 すごいですね。元気のもと。
上坂 私はね、きょうだいが10人いて、
みな元気なんです。
糸井 やっぱりDNAだ。
上坂 だから心配なの。
私もやたら健康で、
今もうどん一杯で風邪が治るんです。
糸井 私怨エネルギー。
上坂 私怨エネルギーに支えられ、
体は丈夫ときてると、下手すりゃ90まで。
水野 それも悪くないですよ。
だいたい人間の寿命は、
脳の発達期間の5倍だというんですよ。
脳の発達が20年から25年。
仮に20年としても、5倍だと100年です。
90代まで生きるのも、
あながち意味がないとは言えない。
それに頑張って90歳まで生きて
何がええかというと、
死ぬときに苦しまないことです。
この年代で苦しみぬいて死んだという人は
非常に少ない。
ガンでも痛みはあまり起きないし。
巨木が倒れるようにスーッといく。
寿命を全うしたということやないかと思います。
上坂 でもね、変なこと言うようですが、
私、安楽死に興味がある一方で、
死ぬときは苦しみたいという気持ちもある。
糸井 それを味わいたいわけですね。
上坂 味わいたいの。
最後まで何かと闘って死にたいの。
水野 しかし、それはもう原稿には書けないよ、
死ぬときの苦しみは。
上坂 それが残念なんです。
書きたいですけどね、『私が死んだとき』。
糸井 最後の残念はそれだ。(笑)
(ここで3人一緒の写真撮影となる)
水野 まあ、生きてる間に
写真も撮ってもらいましょう。
糸井 こういう冗談が言えるんだよな、
トシとると。(笑)
上坂 しかも、できるだけきれいに撮って!
なんて。
(終わり)

2003-03-18-TUE

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