BOOK
男子も女子も団子も花も。
「婦人公論・井戸端会議」を
読みませう。

“埋蔵好奇心”を発掘せよ!
(シリーズ全4回)

第1回 海底に眠るドラマ

第2回
■“発見”に魅せられた人々
糸井 井上さんの活動の根っこにあるのは好奇心。
中谷さんも一緒でしょう。
中谷 まるっきり同じです。
僕は北海道の室蘭で育ちましたが、
北国だと冬は学校の休み時間に外に出ないんですよ。
で、ペチカの前でいろいろ語るわけです。
僕の話をみんなが楽しみにするようになりましてね。
ところがそのうちに話すことがなくなる。
それで、図書館で本を読みだすわけです。
いかに嘘の話をつくりあげようかと。(笑)
糸井 ネタを仕込む。
中谷 そのときに面白かったのが考古学の分野で、
世界的な発見をした人には心を奪われました。
トロイを発見したシュリーマンなんか、神話の中から
現実を掘り当てたとか言って、大嘘つきみたいなんだけど、
すごい感じがするじゃないですか。
それからツタンカーメンの墓を発掘した
ハワード・カーター、
アンデスの空中都市マチュピチュを見つけた
ハイラム・ビンガム−−。
彼らの発見のドラマを読むと、
これが泣けちゃう話なんです。

たとえばイギリス人のカーターは、カーナボン卿の
支援を受けてツタンカーメン王の墓を発見するんですが、
棺の上に枯れた花束が置かれていたんですね。
それは若い王妃が王に手向けた矢車草らしい。
そのときのカーターの言葉がいいんです。
「あたりに輝く黄金より、
枯れた矢車草のほうがずっと美しく見えた」。
糸井 くーっ、言うねえ。
中谷 彼は偉大な発見をしたにもかかわらず、お金は全部
すってしまうし、結婚もせず、一人寂しく死ぬんです。
その彼には好きな女性がいた。
ほかならぬカーナボン卿のお嬢さん。
でもカーターは小学校しか出ていなくて、
身分が違うというので結婚できなかったんですね。
ところが彼が死んだとき、彼女が葬式に現れて
見送ってくれたんですよ。
それから考えると、矢車草の話というのは、
自分の叶えられなかった恋に対する
イメージもあったんじゃないかと。
こうなると、話はきれいにまとまっちゃうでしょう。
糸井 ペチカ前の話ですねぇ。
中谷 あれだけ莫大な金と労力を投資して、
結局、黄金よりも人間の思い、つまり王妃が手向けた
花が好きだったなんてね。
でも、それ嘘だと思うんです(笑)。
本当は黄金も好きだった。
だけど、がぜん詩人になっちゃう。

マチュピチュを発見したビンガムもそうです。
この渓谷の上にとんでもないものがあるぞと現地の人に
聞かされて、井上さんみたいにドキドキしながら
険しい坂道を登っていく。雲の中から巨大な都市の廃墟を
発見したときのことを、ビンガムはこう書いています。
「私は夢を見ているのであろうか」。
そうなのかって、僕も行きましたよ。
……とんでもないところでしたね。
人間が行くもんじゃない。
夢なんか見ませんでした。高山病みたいになっちゃって。
でも、「夢を見ているんだろうか」って、
その1行がいいじゃないですか。
こういうことをペチカ前で話すと
人気者になるわけです。(笑)
糸井 そして、『世界・ふしぎ発見!』につながる。
中谷 想像力より高く飛べる鳥はいない……。
僕は伝道師みたいな役目で、
井上さんみたいな方がいらして、
「こういうのが見つかりました」となれば、
それを増幅するのがわれわれの仕事。
また、そういう番組に出るのが糸井さん。
糸井 「カゴに乗る人、担ぐ人、
そのまたワラジをつくる人」 。
僕はできるならカゴを担ぎたい思っているんです。
なにしろ出もしない赤城山の埋蔵金に
あれだけ騒いだ人間ですから(笑)。
10回やって、「ありませんでした」に至るまで
充分に楽しみましたよ。
僕はあれ、群馬の赤城山の話だというので
引き受けたんです。生まれが群馬県の前橋だから。
中谷 故郷に錦を飾るというやつ。
糸井 いや、あの山に黄金が隠れているという噂は
地元の人ならみんな知ってたわけです。
目の前にケバだけでも出ていれば、
やっぱり引っ張ってみたくなるじゃないですか。
ちょっと服に糸屑がついていて、「あら、糸屑が」
というのがきっかけで恋が始まるみたいなものでね。
中谷 井上さんだってそうです。海綿採りの漁師の話を聞いて、
なんではるばるトルコ沖に潜るかって。(笑)
糸井 海の中だから、危険なわけだし。
井上 そうですね。カリブ海の沈没船や海底都市だと
4、5メートル潜ればよかったけれど、
ウル・ブルンだと50メートルくらい潜りますから、
まかり間違えばどうなるかわからない。
常に死のリスクと向き合ってはいます。
中谷 僕らの場合も、スタッフは革命に出合ったり、
アフリカの村で捕らわれたりしてます。
ロケ地に着くと二日前に爆弾でやられていたとか。
人を楽しませたり、夢に賭けるということには、
それなりのリスクがともないますね。
糸井 それでも夢中になれるのは、
いい意味での「バカ」だからですよ。
今はどこを向いても、より堅実に、より効率よく
ということばかり言われてる。ところが、
みんなが聞きたがっているのは、ペチカ前の語りだとか、
バカなことをやってる人たちのお話でね。
中谷 僕もペチカ前の話がこんなに役立つとは
思いませんでした。今は電波を通じ、
1億人を前にペチカ話をしているわけです。
「ペチカ燃えろ!」ですよ。
糸井 毎回、番組で問題をつくるのは大変でしょう?
中谷 だから多少、歴史をつくりかえているかもしれない。
藤原不比等は自分で歴史をつくりかえたらしいけど、
昔の権力者はよくそんなことをやりますね。
今は僕みたいな人間が歴史をつくる。(笑)
糸井 エンターテイメントとして。
中谷 ただ、嘘っぽい話をつくることはありますけど、
嘘はいけませんから、その部分では襟を正して、
番組でも「ある部分は想像ですよ」と言うように
しています。まあ、人間がいるかぎり、
歴史のクエスチョンが尽きることはないですね。

(つづく)

第3回 人は「知」を欲する

第4回 さらなる謎を追って

1999-01-02-SAT

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