<不定期連載>料理研究家・藤井恵さんと考えるおかあさん、ちゃんとごはん食べてる?
<不定期連載>料理研究家・藤井恵さんと考えるおかあさん、ちゃんとごはん食べてる?
いっしょに考える人 料理研究家 藤井恵さん

藤井恵(ふじい・めぐみ)

料理研究家。
女子栄養大学栄養学部卒業。
大学在学中よりテレビ番組の
料理アシスタントを務める。
大学卒業と同時に22歳で結婚、
25歳で長女、29歳で次女を出産。
5年間専業主婦、子育てに専念し、
30歳でテレビのフードコーディネーターとして復帰。
以来、雑誌や書籍、テレビなどの各種メディア、
講演会などで活躍。
現在、日本テレビの『キューピー3分クッキング』の
レギュラー講師を務める。

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はじめまして。藤井恵です。

わたしは幼いころから、とにかくお料理が大好きで、
ありがたいことに今では、
おいしくて、体を健やかに育んでくれるレシピを、
みなさんにお届けすることが、仕事になっています。
もちろん、我が家のキッチンでも、
「家族の元気は食卓から」が基本。

日々の暮らしの中では、
ニコニコ笑顔でいられることばかりではありませんが、
しっかり、ごはんを食べてさえいれば、
明日はきっと、なんとかなる、そんなふうに思っています。

そのためか、
「きっと、あなたのおかあさんも、
お料理することがお好きなのでしょうね」
と、いわれることも多いのですが、
ひとり暮らしをしている母は今、
日常的に料理をすること自体、
ずいぶん少なくなってきました。

70歳代中ごろまでは、年のわりに元気で、
ひとりで気楽に過ごしているようでしたし、
どんな食生活を送っているかなど、
特に細かく目配りすることもなかったのですが、
ふと気がつけば、
わたしが嫁いでから数えても26年が過ぎ、
母も今年、83歳を迎えました。
自分ひとりの食事のためだけに、
台所に立つのが億劫になったとしても、
仕方のない年なのかもしれません。

同年配の親御さんを持つひとたちと話をすると、
「本人はだいじょうぶ、っていうけれど、
なんだか実家に帰るたびに、食卓がどんどん
貧相になっていってるような気がして」とか、
「ずいぶん食が細くなったみたい」
といったことも、よく耳にするので、
これは、わたしの母に限ったことではなく、
どうしたら、より長く健康寿命を保ってもらえるか、
わたしも含めて、みんなそれぞれ、
まさに試行錯誤の真っ最中です。

これからお届けするエッセイは、あくまで
わたしの個人的な体験を綴ったものではありますけれど、
高齢になった親を持つ、ひとりの娘としての思いや
トライ&エラーの日々は、
もしかして、同じような立場にあるみなさんと
共有できることもあるのかな、とも思いますし、
また、同じような経験をされてこられた
いろいろな方からのお話を
うかがってみたいとも思っていますので、
おつき合いいだけたらうれしいです。

というわけで、まずは、わたしの母について
少しご紹介させてくださいね。

わたしは三人兄妹の末っ子として生まれ、
実家では、父が工務店を営んでいました。
時は昭和40年代、日本がちょうど
高度成長期に沸いていたころです。

父の店では、
出稼ぎの若い職人さんたちが10人くらい
通ってきていたので、
そのひとたちの朝ごはん、お昼のお弁当、夜ごはん、
そのまかないの、いっさいが、
母の一手にかかっていました。
しかも、育ち盛りの兄がふたりいるので、
職人さんたちの分と合わせれば、
おそらく1日に、
なん升ものお米を炊いていたはずです。
こうなると、料理することが得手不得手、
好きだ、嫌いだなどといってはいられなかった、
というのが、実のところだったのではないでしょうか。

我が家は夫と娘2人の4人家族ですから、
比べようもありませんが、
毎日、さぞかし大変だったろうと思います。

それでも、母が繰り返しつくってくれた、
大鍋いっぱいの『肉きんぴら』や、
コトコトと、じっくり煮上げた『あじの甘露煮』、
お弁当の定番でもあった、砂糖たっぷりの『卵焼き』、
りんご入りの『ポテトサラダ』といった得意料理は、
まさに、私にとっての大切な『おふくろの味』。

しかし、わたしが中学生のとき、
父が早くに亡くなり、
やがて兄たちや私も、
それぞれ家庭を持つ年頃になって、
次々と巣立ちました。

そして現在、我が家と実家は、
電車で小1時間ほどの距離なのですが、
こちらもせわしなく暮らしていることもあって、
いつのまにか、『おふくろの味』を口にする機会も、
だんだん減っていきました。
さらに母は3~4年前にちょっと体を悪くして、
3ヶ月ほど入院したあとからは、
台所に立つ気力そのものがなくなってしまったようでした。

でも、日々のごはんは元気の源。
とにかくしっかり食べてもらわないことには始まりません。
そこで退院後はひとまず、宅配サービスを頼って、
食事を届けてもらうようにしました。

しかし、このサービスは、わずか数ヶ月で打ち切りに。
母が飽きて、いつの間にか、
勝手にやめてしまっていたのでした。

母の言い分としては、
「だって、なにを食べても、
みんな同じ味に感じるんだもの。
でも朝は、卵かけごはんとか、お味噌汁も食べてるし、
デイサービスでも、お弁当とか
いろいろ持たせてくれるから、全然だいじょうぶ!」
だそうで、なんだかずいぶん自信満々。
かたや、全然だいじょうぶじゃない気がして、
仕方のないわたし。
なぜなら昔、娘たちがまだ幼かったころ、
「夏休みの宿題、ちゃんとやってる?」と、たずねると、
たしか、こんな調子の返事が返ってきたような….?

そして案の定、ほどなくデイサービスのお弁当にも
嫌気がさしてしまった様子の母。
確かに、誰の口にもそこそこ合うようにつくられていて、
けれど、「食材も味つけも自分の好みにドンピシャ!」、
というわけには、いかないであろうお弁当に
いい加減うんざり、という気持ちは
解らないでもありません。
だから、そこはいいとして….。でもね?

おかあさん、ホントにちゃんとごはん食べてる?

このあたり、
本人はとぼけて多くを語りませんが、
実に疑わしいところです。
また、これは娘に心配をかけたくない一心、というより、
主婦として長年にわたって、
家族の食卓を調えてきたのだから、
自分ひとりの食事くらいなんとでもできる、という自負や、
年寄り扱いされたくない、
という気持ちからではないかしら、
とも思ったりするわけです。

でも、母の心情はさておき、
食事というのは、ときどき、ドカーンとまとめて
ごちそうを食べればよいというものではなく、
毎日の積み重ねが大事です。
となれば、とにかく
わたしもできることから始めなくては‥‥。

(次回に続きます)

藤井恵さんによる
「おかあさん、ちゃんとごはん食べてる?」は
今回でひとまずおしまいです。
お読みくださったみなさん、
本当にありがとうございました。
よろしければ、ぜひ感想のメールをお送りください。
藤井さんにお届けいたします)

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