2017年6月、あまり聞き覚えのなかった
昆虫の名前が、一躍話題になりました。

「ヒアリ」という特定外来生物のアリで、
その体には毒を持ち、凶暴な性格から、
煽り立てるような報道が今も続いています。

でも、実際のところ、
ヒアリって本当に怖い虫なのでしょうか?

理解がまだ深まっていないヒアリがどんな虫で、
どういった影響を与える可能性があるのか、
26年間アリの研究をされている、
九州大学の村上貴弘准教授にお話を訊きました。

担当は、ほぼ日の平野です。

※インタビューは、7月上旬に行われました。

ーー
メールをいただいた際に、
アリを愛する村上さんにとっては、
複雑な心境だとお聞きしました。
村上
そうなんです。

私はアリを愛してやまない人間なので、
絶対悪のようなテイストで
「じゃあ、アリを全部なくせばいい」

みたいに思われるのが悲しくて。
ーー
極端な話ですよね。
村上
そうなんです。

テレビやネットで“殺人生物”みたいに
アリが紹介されて、
「ああ、これじゃ、子どもたちも含めて、
アリを嫌いになっちゃうよなぁ」って。

ヒアリは原産地ではマイナーな存在なんです。

人間と組み合わせることで、
ちょっと派手に活動しているところもあるので、
そういう背景も含めて理解してほしいなと。
ーー
そうですよね。

ヒアリの繁栄に人が関係していたことは、
思いもしませんでした。
村上
そうなんですよね。

ヒアリは人間と組み合わせることで、
環境に適応していったところがあるんです。

5千万年前からずっと我慢してきて、
人類と出会ったことで、
ここまで大繁栄につながっちゃったといいますか。

そういうことも含めて知っていただきたいですね。

自分としては、アリの世界って、
やっぱりすごく魅力的なものだから。

AntRoom島田拓氏提供

ーー
そもそも村上さんは、
なにがきっかけでアリの世界に
のめり込んでいったのですか?
村上
いちばん古いきっかけは、
『ファーブル昆虫記』ですね。

本の中にいろんな生き物を
観察するっていうのがあって。

ドロバチの巣作りやアリの巣作りですね。

それが、本当に最初の記憶です。
ーー
それは小学生の頃?
村上
小学校低学年、
2、3年ぐらいですね。

昔から、「社会性昆虫」といって、
協力行動する生き物が好きだったんです。
ーー
わあ、そんな昔から。
村上
「これは○○アリだ」というように、
分類や名前を知る方向ではなく、
「これはどういう行動をするのか」みたいな、
飼育して行動観察するのが好きだったんです。

20歳ぐらいから現在までの26年間、
アリの飼育を途切らせた時期がありません。
ーー
え、ずっとですか!?
村上
ずっと。もちろん研究室での話ですが、
どこに行ってもずっとアリを飼育してます。

女王アリの寿命からすると、
ひとつのコロニーで7年ぐらいが最長ですが、
コロニーがいっぱいあるので、
途切れたことは一回もないですね。
ーー
どのくらいの面積で飼われるんですか?
村上
ひとつの巣は、ほんとにちっちゃいです。

「こんなにコンパクトなの?」というくらい。

30コロニーぐらいありますが、
アリを飼うのに、たいして場所は取りません。
ーー
小さなスペースで7年も‥‥。
村上
生きますね。

そのアリたちを顕微鏡で毎日観察しています。

大学院生のころなんて、
1日で10時間観察とかしてましたから。

ーー
10時間も!
村上
毎日ずっと観察していくんですが、
1ヶ月も続けていると、
だんだん思考がおかしくなってきます(笑)。

どんどんアリの世界に降りていくので、
自分がアリの巣の中にいるような、
そういう錯覚に陥ってくるんです。
ーー
うわぁ、すごい。

村上さんは、アリで何をしたいんですか。
村上
まさに今、研究しているのは、
ハキリアリというアリと、
会話をしようとしてまして。
ーー
ハキリアリと会話。

アリと人が話すんですか?
村上
そう、ハキリアリは会話をするんです。

いま、アリの音声コミュニケーションを
詳しく研究していまして、
アリと会話するための辞書をつくっています。

アリリンガルというようなものを。

ーー
えぇー!
村上
最終的にはアリと会話がしたいんです。

だから、ほんとはヒアリの場合も、
先ほど言った「生物的防除」のような
遺伝子組み換え的な方法もありますが、
いまの研究を応用すれば、
「会話」で解決するというのも
夢じゃないと思うんです。
ーー
すごい未来ですね。
村上
ただ、ヒアリはそこまで頭が良くない
という論文が多いそうで。
ーー
あ、ハキリアリとはまた違うんですね。

ヒアリが原始的だからなのでしょうか。
村上
そうですね。

「3、4種類ぐらいしか音を出さない」とか
「けっこう単純な労働にしか使ってない」とか、
そういう研究結果があるみたいです。

ただ、それもよく観察していないだけかもしれないので。

だから、もしもヒアリと会話ができればですね、
もうちょっと平和的な解決方法が
見つかるかもしれないですね。
ーー
ヒアリたちだって、
別に悪さをしようとして
生きているわけじゃないですもんね。
村上
そうです。ヒアリに罪はない。

原産地では虐げられてる存在ですから。

まあ、そんな彼らを恨む存在にしないためにも、
やっぱり最初のうちに徹底的に防除すべきです。

ヒアリで何かしらの被害が起きることになれば、
それは恨まざるをえないですから。

そういう不幸な事例をつくらないためにも、
いまの段階からしっかり対応しておかないと。

ーー
日本は来るべき場所じゃないぞ、
ということですね。
村上
自然条件からいったら、
本来は絶対に入るわけがないんです。

ブラジルやアルゼンチンから、
さすがに日本までは来れないでしょう。
ーー
人が運んでしまったんですね。
村上
はい。だから、日本の定着を防ぐためにも、
なんとかして人間の側で
コントロールしたいですね。
ーー
そのためにも、正しく恐れたいと。
村上
そうです。

お互いがより不幸にならないためにも。
ーー
とても勉強になりました。

本当にありがとうございました。
村上
ありがとうございました。

(おわります)

2017-08-13-SUN