怪・その1

「真っ白いスニーカー」



思い出すと今でも背筋が寒くなります。

今から16年ほど前、
東京のK市で
小学校の副校長になったばかりの頃のことです。

副校長は、どの職員より早く出勤して校内を点検し、
職員や児童が出勤・登校できるように
校舎の出入り口の玄関の鍵を開けていきます。

ある朝、いつものように
一番先に出勤し鍵を開けて校舎に入り、
校内を点検していた時、
誰もいるはずがない北校舎の1階の女子トイレから
呻き声がするので駆けつけました。

一番奥の個室のドアが閉まっていたので
その前まで行き
「どうかされましたか」と声をかけると
呻き声はやみ、
何もなかったかのような静けさに包まれました。

その時、空気が異様に重くなったのを覚えています。

呻き声は空耳かと思いましたが、
児童の安全を守るために校舎を点検しているのだからと
恐る恐るトイレのドアから下を覗き込みました。

全く動かない真っ白いスニーカーが見えました。

私は悲鳴をあげ、職員室に逃げ帰りました。

次に出勤してきた職員とそのトイレに行ってみると
閉まっていたドアは開いていて
人影もありませんでした。

後日、職員室の文書を整理していると、
数年前にそのトイレから一番近い
「多目的室」という部屋で
育児休業明けの若い先生が
保護者会の途中に突然に倒れて
亡くなったことが書かれている報告書を見付けました。

育児休業明けで
白いスニーカーを買って上履きにされたその先生が
何か伝えるために来てくれたのかなと思い、
多目的室に一人で点検に入る時には手を合わせ、
その先生のご冥福と
その先生も願ったであろう
子供たちの安全と幸せを祈るようにしました。

あの日、トイレのドアの前に立った時の
異様な空気感は忘れることができません。
(N)

こわいね!
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2022-08-01-MON