怪・その20

「呼吸が止まっても」



呼吸が止まっても
心肺が停止しても
大脳が生きているので、
数分は耳が聞こえている、と言われていますが、
ほんとにそうかもと思えた話です。

わたしの母親は、52歳の若さで、
難病に指定されている病気により
数年間闘病生活を送ってました。

そして亡くなったとき、
私は思わず

「お母さん! また会おうね!」

と叫んでました。

親孝行もろくにしていない、
当時、離婚問題も抱えて、
心配ばかりさせてるような娘になんか
もう会いたくないかな、って思いながら。

亡くなったその日の晩、
悲しみでいっぱいだった私ですが、
叔母たちが母親の若いころの話を
面白おかしく教えてくれて
思わず大笑いしたとき。

亡くなってる母親の顔を見ると、
笑い皺ができるくらい笑顔になっていて
びっくりしました。

それをみたら、
母親がいまは楽になったのかなと思い、
嬉しくてまた泣き笑いしました。

そんなとき突然、
わたしの父親が
「うるさい!」と
母親とわたしたちのいる部屋に
怒鳴り込んできたのです。

父親はこんなふうに
自分の意に沿わない時は
怒鳴ったり叩いたり蹴ったりする人なのです。

母親もわたしも姉も、
この父親のことで
本当に辛い思いをしてきました。

「こんなときまでこの醜態」と、
わたしは父親に対して
怒りを通り越して呆れた思いで、
ふと母親の顔をみると、

母親の顔も同じように
呆れたって表情に変わっていました。

わたしはなんとも言えない気持ちで
いっぱいになりました。
その後、母親の顔からは
表情がなくなりました。

いま思えば、
私たち姉妹のことを心配しながら、
自分の姉妹の昔話も聞きつつ、
去り際を待ってたのかなぁと
考えたりしています。

でも、父親の変わらない態度を見て
「さ、もう行こう」って
思ったんだろうなって。

その後、母はどこかには
いってしまったのですが、
わたしが本当に辛いときは
必ず夢に現れてくれます。

母が夢に現れたときは
「あー、私、無理してたんだな」
って思って
自分をスローダウンさせるときです。

さて、その父親が亡くなるときですが。

わたしはちゃんと
「ありがとう」と言って
さようならすることができました。

そんな娘に育ててくれた母親には
ほんとに感謝してます。

そして、余談なのですが。
あんなに憎らしい父親ですが、
亡くなったときは
半眼半口の美青年になっていました。

母親はきっと
その見た目に惚れたっていうのもあるなって
ちょっと笑ってしまいました。

(r)

こわいね!
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2021-08-15-SUN