怪・その14

「先に言った方へ」

以前働いていた職場で、
ムードメーカーのおじさん上司が話してくれた
体験です。

上司はおしゃべり好きな面白いおじさんで、
若手スタッフが怪談話で盛り上がっている所に、
「俺のは怖いぞ」と加わってきたのです。

彼の話はこうでした。

その昔、友人と
山菜をとるため山に登った上司は、
夢中になって
日が暮れかけたことに気付かなかったそうです。

「だれか、ついてきてないか?」

友人の言葉で、
あたりが暗くなってきていることにも気が付き、
薄気味悪さを感じて
帰ろうということに。

ところが、彼らの後ろを

やはり一定の距離を取って

ついてくる何かがあったのだそう。

「それ」のただならぬ空気に
彼と友人は口をつぐみ、
振り返らずにひたすら早足で
山を下りて入たそうなのですが、

あと少しでふもとに着く、と言う時に、

ガサガサガサガサッ。

後ろの気配が一気に距離を縮めてくる気配がして、

思わず二人同時に振り返ったのだとか。

「それで、どうしたんですか?」

「うん、二人でね、顔を見合わせて、
 叫びながらひたすら走ったよ」

「何がいたんですか?」

「それが‥‥言えないんだよ」

「え〜! なあんだ」

「気になるなあ」

興味津々の若手スタッフに、
いつもおしゃべりな上司は、
困ったように笑いながら言いました。


「先にしゃべった方の所に
 来る気がしてるんだ」

(ノブ)

こわいね!
2017-08-29-TUE