怪・その12

「ホテルの部屋の入口で」

営業で一緒になった人の話である。

その人は霊感があり、幽霊を何度も目撃している。

そして

その人には

営業先の宿で

必ずやる習慣があるそうだ。

それは

自分が泊まる部屋の入り口で
柏手を打つことだ。

「何か見えないものがいると、音の反響が違う」

とのこと。

そういう曰くつきの部屋に当たったら
必ず変えてもらうそうだ。

また
そういう部屋のある宿は
暗く沈んでいるのでわかるのだそうだ。

さて
その営業さんは
ある日投宿した部屋が件の部屋で、
チェンジをお願いしたが
満室でダメだったので、しかたなく泊まったそうだ。

明らかに
備え付けの箪笥が怪しい。

古い箪笥で
木製の両開きの扉がついている。

扉の表面の木が剝がれかけており、
いかにも古い代物だったらしい。

立てつけが悪いのか、扉の間に隙間がある。

その人は箪笥を無視してベットで眠って、
翌日、早々にチェックアウトしたそうだ。


後日、お酒を飲みながら
話を聞いていた私は
「箪笥は開けてみなかったんですか」
とからかって尋ねてみたら、


「その箪笥には

 髪の長い女の人がいて

 一晩中ずっと

 隙間から覗いていた」


と営業さんは
お酒を飲みながら
しみじみと言った。


私は怖くて未だに
ホテルの部屋の入口で
柏手を打つことができずにいる。

(アリス)

こわいね!
2017-08-26-SAT