嘘ってなんだ!? ドリブルデザイナーの岡部将和さんに訊く、 嘘とドリブルのこと。スクロール

世界中のサッカー選手に
「ドリブル」だけを指導する専門家がいます。
その人とは、ドリブルデザイナーの岡部将和さん。
フットサルの元プロ選手で、
現在は国内外のサッカー選手に
『99%抜けるドリブル理論』を教える
ドリブル指導者として活動されています。
このドリブル理論が、またおもしろい! 
感覚でとらえがちな「ドリブル」というプレーを、
誰でもつかえる理論へ落とし込んでしまったのです。
ドリブルとはなにか? フェイントとはなにか? 
オフェンスとディフェンスの間にある、
巧みな「嘘」や「だまし合い」について、
たっぷりと教えていただきました。
「嘘」にまつわる不定期連載、担当は稲崎です。

第3回自分を鼓舞するための嘘。

──
岡部さんからみて、
世界トップクラスのドリブラーは、
他の選手となにがちがうんですか?
岡部
それこそメッシやネイマールといった
世界で活躍する選手をみていると、
「脱力する技術」をちゃんと持ってますよね。
──
脱力する技術?
岡部
ここぞというときの瞬発力は、
筋肉を脱力させた状態から、
一気にエネルギーを出すことで生まれます。
自分が持っている力を出し切るには、
意図的に力を抜いて脱力することが大切で、
それは身体だけの話じゃなくて、心もなんです。
──
心も?
岡部
身体的な脱力というのは、
上半身や下半身のつかい方の話なので、
ある程度はトレーニングによって
身につけられるものです。
でも、身体的な脱力が完璧でも、
最後はメンタルの部分というか、
「心の脱力」ができるかどうかが、
パフォーマンスに大きく影響します。

練習だとうまくいくのに、
試合だとうまくいかなかったり、
大事なところで緊張して力んでしまう。
その原因は「心の脱力」が
うまくできてないからなんです。
──
心の脱力というのは、
どうすればできるようになるんですか。
岡部
心を脱力させるには、
まずは「自信」が必要になります。
──
自信。
岡部
例えば、絶対に勝てるという自信があれば、
緊張なんてしないわけです。
これはスポーツだけの話じゃなくて、
会社で大事なプレゼンがあるときも、
自信がないときって、
緊張したり、声が上ずったりしますよね。
──
たしかにそうかも‥‥。
岡部
ぼくが『99%抜けるドリブル理論』を
教えている理由はそこにあって、
サッカーをプレーするときに
「勝利への絶対的な自信」を、
みんなに持ってほしいからなんです。

「絶対に勝てる」というプレーがあれば、
試合中もそれが心のよりどころになります。
──
あぁ、なるほど。
岡部
心の脱力には
「実績」か「勝利への絶対的な自信」か、
そのどちらかが必要だと思っています。
実績というのは、
時間をかけて積み重ねるしかないので、
誰でも簡単に得られるものではありません。

でも、勝利への自信であれば、
「99%抜ける」という理論があれば、
誰でも持つことができます。
そういうものがあるだけで、
人は強くなれる気がする。
──
試合でドリブルを成功させれば、
それが本当の自信にもなるわけだし。
岡部
そういう経験を積み重ねることで、
ドリブルもそうだし、
他のプレーにも自信が出てきます。
──
サッカー経験者ならわかると思いますが、
ドリブルで勝負するのって、
けっこう勇気のいるプレーですよね。
でも、こういう理論があるなら
「ドリブルでしかけてみよう」と、
もっとチャレンジしたくなりそうですね。
岡部
そう思ってもらえるとうれしいです。
いまの気持ちの変化って、
自信を持つことで「心の脱力」がうまれて、
チャレンジしたくなったわけですよね。
やっぱり「自信」というものは、
自分を鼓舞するために必要なんだと思います。
──
自信が「勇気の源」になるというか。
岡部
いいかえれば、
それって自分への「嘘」ともいえます。
まだ確信のないものを信じるために、
自分に対してつく嘘。
自分を鼓舞するためのハッタリというか。
──
あぁ‥‥。
岡部
ぼくはドリブルでしかけるときは、
ハッタリの要素は多少いると思っていて、
それが「殺気」になるからなんです。
──
殺気?
岡部
メッシとネイマールのちがいって、
殺気の出し方なんです。
ネイマールは自分で殺気を出すタイプ。
相手に向かって「来るなら殺るぞ!」と威嚇して、
相手をひるませるタイプです。
──
あえて牙を見せるわけですね。
岡部
でも、メッシの場合は逆なんです。
内気な性格のメッシは、
あまり感情を表に出さないタイプです。
いつも平常心だし、大げさなことはしない。
そもそもなにもしなくても、
圧倒的な技術と実績があるので、
相手が勝手に殺気を感じてひるんでしまう。
そしてメッシがすごいのは、
そのひるんだ瞬間を確実に見逃さずに、
1プレーで試合を決めてしまうところです。
──
まるで剣豪の話を聞いているようです。
岡部
こういう心理的なプレッシャーって、
見てるだけだとわかりにくいんですが、
実際にプレーしてみるとすごくよくわかります。

ドリブラーにもいろんなタイプがいますが、
やっぱりトップクラスの選手になると、
絶対に相手に主導権をわたしません。
──
主導権をわたさない‥‥なるほど。
岡部
そこは、自分のドリブルでも、
すごく意識するところです。
ぼくは「相手に見破られたら通用しない」
というドリブルをしません。
見破られても、通用するもの。
相手に読まれても、止められないもの。
相手の動きに関係なく、
自分のタイミングで勝負して成功させる。
それがぼくの理想とするドリブルなんです。
──
岡部さんのドリブル理論を、
もし小学生くらいから学べるようになったら、
日本のサッカー界は
もっとすごいことになりそうですね。
岡部
ぼくは、自分のドリブル理論を広めることで、
日本のサッカー界に
貢献したいという思いはあります。
ただ、ぼくの本当の目的は、
「99%抜けるドリブル」を通して、
チャレンジの大切さを伝えることなんです。

チャレンジ精神というのは、
サッカーだけじゃなくて、
人生をおもしろくするために、
みんなに必要なものだと思っています。
自分の力を信じ、勇気を出して、自分を表現する。
ぼくはドリブルというものから、
チャレンジする素晴らしさを、
もっとみんなに伝えていきたいんです。