嘘ってなんだ!? ドリブルデザイナーの岡部将和さんに訊く、 嘘とドリブルのこと。スクロール

世界中のサッカー選手に
「ドリブル」だけを指導する専門家がいます。
その人とは、ドリブルデザイナーの岡部将和さん。
フットサルの元プロ選手で、
現在は国内外のサッカー選手に
『99%抜けるドリブル理論』を教える
ドリブル指導者として活動されています。
このドリブル理論が、またおもしろい! 
感覚でとらえがちな「ドリブル」というプレーを、
誰でもつかえる理論へ落とし込んでしまったのです。
ドリブルとはなにか? フェイントとはなにか? 
オフェンスとディフェンスの間にある、
巧みな「嘘」や「だまし合い」について、
たっぷりと教えていただきました。
「嘘」にまつわる不定期連載、担当は稲崎です。

第3回本物のプレーしかしない。

岡部
ぼくは「本物のプレー」しかしません。
そもそも本物のプレーをするからこそ、
フェイントになるわけで、
嘘のプレーをしても、
それはフェイントにならないんです。
──
本物のプレー? 嘘のプレー?
岡部
これは試合で経験しないと、
なかなか伝わりにくいのですが、
嘘のプレーというのは
「自分はシュートをしないと思いながら、
シュートのフェイントをする」というものです。
──
えっと、はい‥‥。
岡部
逆に本物のプレーというのは
「自分はシュートをすると思いながら、
本当にシュートする」というものです。
──
それは本当に打ったから、
本物のプレーということですか?
岡部
打つ、打たないは関係ありません。
「シュートフェイント」というのは、
結果的にフェイントになっただけで、
もしコースが空いていれば、
本当にシュートを打ってたはずなんです。
──
あぁ、たしかに‥‥。
岡部
相手だって「打ってくるぞ!」と思うから、
捨て身でシュートを止めに来るわけです。
そうなってはじめて相手の体勢が崩れます。
そういう崩れた状態にしないと、
「切り返し」だったり「股抜き」
といったフェイントは成功しないんです。
──
ということは、
最初から「股抜き」を狙うようなことはしない?
岡部
しないですね。
「フェイントで足を出させて、股抜きしよう」
というようなことはしません。

「左に行く」とみせかけるんじゃなくて、
本当に左にドリブルするんです。
相手のディフェンスに
「左に行くから本気で来ないと止められないよ」
と思わせながら左にドリブルする。
そこから「やっぱ無理!」となったら、
状況をみて「切り返し」や「股抜き」という
別のプレーに切りかえる。
自分の中ではそれはフェイントではなく、
本物のプレーの延長なんです。
──
「フェイントじゃなくて、予定変更だ」と。
岡部
そうですね(笑)。
なので、すぐに予定変更できるように、
ドリブルをしかける直前に、
すべての可能性をシミュレーションします。
「相手が足を出さなかったらそのまま抜く」
「足をまっすぐ出したら股を抜く」
「ななめにだしたら、中に切り返す」など、
状況に応じた選択肢を、
しかける瞬間に頭に入れておくんです。
──
フェイントというか、
「予定変更」すべてに相手がついてきたら、
どうするんですか?
岡部
相手がついてこられるという時点で、
そのプレーは「嘘」ということです。
だって、その攻撃が本物なら、
ディフェンスは捨て身にならないと
止められないわけですから。

主導権がオフェンスにある以上、
捨て身で飛びこんできた体勢から、
反対に切り返されたら、
さすがについてこられないはずです。
──
本物のプレーをすれば、
相手はかならずひっかかる?
岡部
ひっかかるというより、
「反応せざるをえない」ですよね。
本物のプレーをするからこそ、
結果的にそれが「嘘」になるんです。
でも、本人にとってそれは「嘘」じゃなくて、
本物のプレーの延長という、
なんだかよくわからない話です(笑)。
──
岡部さんのドリブル動画をみると、
これでもかというくらい足技をつかって、
相手を抜き去っています。
いまの話のつづきでいえば、
ああいう足技やフェイントは、
本来はなくても成立するということですか?
岡部
YouTubeの動画に関しては、
みんなを楽しませたい気持ちがあるので、
エンターテイメントの要素を入れています。
ぼくのドリブル理論では、
ああいう足技はあくまで
「飾り」という位置づけなので。
──
「飾り」ということは、なくてもいい?
岡部
いえ、そういうことでもないんです。
ぼくもそうですが、
じゃあ、なんでみんな足技をつかったり、
フェイントをかますかというと、
ドリブルに「飾り」を加えることで、
自分の考えていることを、
相手に読ませないという効果があるんです。
──
あぁ‥‥。
岡部
さっきの数字のゲームみたいに、
「ぼくからはじめるね、1」というのを、
毎回同じようにやってたら、
相手もさすがにトリックに気がつきます。
「先に1をいったら勝ちだな」って。

毎回同じようなしかけ方をしてたら、
自分の勝ちパターンが相手にバレてしまう。
それをさとられないように、
フェイントや足技を加えることで、
攻撃がシンプルにならないようにするんです。
──
へぇ、おもしろい!
岡部
自分のドリブル理論でいえば、
相手の届かない勝利の間合いに、
相手に気づかれずに忍びよることが大切です。
なので、そこにいくまでに
足技やボールタッチをいろいろつかって、
攻撃を複雑にみせているんです。
──
ドリブルをしかける前から、
いろんな心理戦があるわけですね。
岡部
ドリブルをしかけるときは、
足元の技術だけじゃなく、
心理戦はけっこう大事だったりします。

例えば、アルゼンチン代表のメッシは、
間合いのあるなしに関係なく、
ドリブルでぐんぐん相手を抜きますよね。
──
はい。もう、気持ちいいくらい。
岡部
メッシ本人に確認してないので、
あくまで仮定の話になってしまいますが、
メッシがなんであんなに抜けるかといえば、
自分の考える「99%理論」を、
感覚で理解しているからだと思っています。
──
でも、岡部さんの「99%理論」は、
「間合いがないとき」はつかえないんですよね?
岡部
はい、つかえません。
でも、相手は「99%理論」なんて知らないので、
「間合いがあるとき」に99%抜かれていたら、
「間合いがないとき」でも
抜かれそうな気がするんです。
というか、そう錯覚してしまう。
──
あぁ、なるほど。
それまでずっと抜かれてるから‥‥。
岡部
そもそも相手は、
なんで自分が抜かれたかわかっていません。
抜かれた理由を客観的に理解しないかぎり、
相手ディフェンダーは
「実力の差で抜かれた」と思うわけです。

つまり、「間合いがあるとき」に
「99%理論」で確実に勝っておくと、
オフェンスが不利なときでも、
心理的には優位な立場で攻撃ができます。
──
そうなると、
相手にとってはかなりイヤな存在ですね。
岡部
メッシはそういうプレッシャーのかけ方を、
1試合の中だけじゃなくて、
1年間のレギュラーシーズンを通して、
トータルで実践してますよね。

それはドリブルだけの話じゃなくて、
味方へのスルーパスだったり、
ドリブルからのシュートだったり、
いろんな攻撃の幅をみせながら、
相手に苦手意識をうえつけています。
そうやって10年以上、
これまでのキャリアや実績を積み重ねながら、
対戦相手に心理的なプレッシャーを
かけつづけているんだと思います。