地球と月と、宇宙のふしぎ。
ほぼ日のアースボール、
こんどはアプリで「月」に大変身! 
月の表も裏もまるっと見られて、
アポロ船の着陸ポイントも
写真付きでたのしめる新コンテンツです。
監修は天文学者の渡部潤一先生。

そもそも月ってどうやってできたの? 
なんで月には表と裏があるの? 
太陽系って最後どうなっちゃうの? 
月のきほんから宇宙のふしぎまで、
いろいろ先生に教えていただきます。

聞き手は「ほぼ日」稲崎です。
05 天文学に進んだきっかけは?
──
先生は、子どものときから
ずっと天体に興味があったんですか?
渡部
うん、理科少年でしたからね。
もちろん星にも興味があって、
天体望遠鏡を買って観察してたんだけど、
当時は天文学者になりたいとは
思ってなかったですね。
写真
──
それがなぜ天文学に進もうと。
渡部
1972年10月8日の夜。
ぼくが小学校6年生のとき、
「ジャコビニ流星群」が
大出現するという予測があったんです。
──
ジャコビニ流星群? 
渡部
ジャコビニ流星群というのは、
歴史をさかのぼると1時間に何千、何万という
流れ星を降らせたことがあって、
当時は大きなニュースにもなったんです。



その頃のぼくは
天体にも興味がありましたから、
学校の先生にお願いして、
夜中に視界の広い校庭で
みんなで観測しようってなったんです。
あなた北の空とか、ぼくは南の空とか、
雑誌に書いてある配置をとってね。
──
観測する方向をみんなで決めて。
渡部
1時間に1万個も出たら、
ぜんぶひとりで数えるわけいかないからね。
そうやって準備して、ワクワクしながら
みんなで待っていたんだけど、
いくら待てど暮らせど、
結局ひとつも流れ星は出なかったんです。
──
ひとつも、ですか?
渡部
見事なくらいひとつも出なかった。
──
雲がかかっていたとか?
渡部
いえ、空は晴れていたんです。
──
なのに流れ星は出ず‥‥。
渡部
それでみんなガッカリしたんだけど、
そのときぼくは不思議だなって思ったんです。
──
不思議に思った?
渡部
天文現象というのは
計算でなんでもわかる世界なんです。
月の出、月の入り、日の出、日の入り、
なんでも計算でわかります。
なのに流星群の出現は、
まったく当たらなかったわけです。
偉い先生たちが予測したというのに。
──
たしかに‥‥。
渡部
そのことがすごく不思議だったし、
そのときぼくは
「この世界にはまだわかんないことがあるんだ」
ってことがわかったんですよね。
──
おぉ。
渡部
そもそも流れ星って、
星がよく見えるところなら、
一晩で10個くらいはふつうに出ます。
それなのに、
たくさん出ると予測された日に
ひとつも出なかったわけです。
それは別の言い方をすれば、
誰も注目してない日でも、
たくさん出るかもしれないってことなんです。
──
あー、なるほど。
そもそも予測できないものだから。
渡部
それで小学生だったぼくは、
だったら毎晩空を観測して、
誰も予測してない流星群の出現を
捕まえてやろうと思ったわけです。
──
そこで火がついたわけですね。
渡部
それから毎晩のように外に出て、
流れ星を追いかけるようになりました。
といっても、ほとんど出ないんですよ。
一時間かけても5個、多くて10個くらい。
──
それでもずっと観測して。
渡部
もう毎晩毎晩、
楽しくてしょうがなかったんです。
じぶんは小学生なのに
科学の前線に立っているような、
そういう喜びがずっとあったんですよね。
夜空を眺めているかぎり、
いつか誰も見つけられていない
未知の流星群の出現を発見する可能性がある。
それはもうワクワクしましたね。
──
流れ星が出なくてもワクワクするって、
よっぽど好きだったんですね。
渡部
そのワクワクをもっと追求したくて、
天文学の道に進んだところはあります。
写真
──
それにしても、
ジャコビニ流星群の予測は
なぜ外れてしまったんですか?
渡部
2001年に「しし座流星群」が
大出現したことがあったじゃないですか。
──
あっ、ありました。
ぼくも夜、外に見に行きました。
渡部
当時、あの大出現を正確に予測していた人がいて、
その研究者たちが使っていた手法が
非常に有効ということがわかりました。
それで、その手法を使って
72年のジャコビニ流星群を
計算し直してみたことがあったんです。
そしたら見事に「出ない」という結果になった(笑)。
──
当時の計算式が違ったってことですか?
渡部
考え方が違っていたんです。
流星群というのは、
かならず母親になる天体がいます。
いわゆる「ほうき星」ですね。
そのほうき星の通り道を流れている
ちっちゃな砂粒たちが流星群です。
──
はい。
渡部
ほうき星というのは、
太陽に向かって近づいたり、遠ざかったりする
楕円軌道を巡っているんですけど、
じつは毎回、同じルートではなくて、
ほんのすこし軌道がずれています。
なぜずれるかというと、
木星とか土星がどこにいるかで、
太陽系の重心が違ってきちゃうから。
──
毎回、ルートが微妙にずれる。
渡部
毎回ルートがずれることで、
ほうき星から放出された
砂粒のルートもわずかに変化します。
その細い川の流れのような砂粒たちが
地球にぶつかるかどうかで、
流れ星の出現が決まるわけですが、
72年のときは、砂粒がつくった
細い川と細い川のあいだを
地球がすり抜けてしまったんです。
──
あー、なるほど。
たまたまスキマを通ってしまった。
渡部
流星群を予測するには、
細い川ひとつひとつを緻密に計算しないと、
ちゃんとした結果は出ないのですが、
当時はそこまで計算できてなかったんです。



ほんとうはいくつもの小さな川が集まって
大きな川をつくっているんだけど、
当時はモザイクがかかっているように、
1本の大きな川にしか
見えてなかったってことですね。
──
予想が外れたというより、
まだそこまで科学が追いついてなかった。
渡部
学問の進歩ってそういうもので、
行きつ戻りつしながら
理解が進んでいくものなんですよね。
写真
──
ジャコビニ流星群とは正反対に、
2001年のしし座流星群は、
ものすごい数の流れ星が出ましたよね。
渡部
あれはほんとにすごかった。
ぼくはこの時代に生きていて
よかったと思う理由のひとつは、
2001年のしし座流星群の大出現に出会えたことです。
あんなの100年にいっぺんじゃないかな。
──
そんなにすごい出来事でしたか!
渡部
天文界では皆既日食、オーロラ、大彗星、
いろんなイベントがあるけど、
やっぱり流星群の大出現は特別ですよね。
とくに2001年のときは、
かなり明るい流星が多かったんです。
あんなのに遭遇できるなんて、
一生に一回あるかないかでしょうね。
──
もっとしっかり見ればよかった(笑)。
渡部
しし座流星群は33年周期ですが、
あのとき当たった砂粒の川はほんとうに特別。
ぼくは福島まで行って見たのですが、
1時間で2000個くらい確認できました。
もうビュンビュン飛んでましたから。
──
ひゃーー、2000個! 
もう今後ないんですか、ああいうのは?
渡部
うーん、次はどうだろうなぁ‥‥。
あれだけの明るい流星が出るとしたら、
次回はたぶん‥‥2099年かな。78年後。
──
78年後!
渡部
ワッハッハッハ!
(つづきます)
2021-09-20-MON
ほぼ日のアースボール 

新コンテンツ「月」登場! 
写真
ほぼ日のアースボール、
こんどは「月」になります! 
月の表も裏もばっちりのぞけて、
アポロの着陸ポイントもわかって、
月の地名や地形なんかも調べられます。

2021年9月16日(木)より配信開始。

アースボールの専用アプリを
最新バージョンにするとお使いいただけます。
秋のお月見のおともに、ぜひ!