カレーと、将棋と、熱いトークの夕べ。【報告編】[対談]森内俊之九段(プロ棋士)×水野仁輔
八、森内九段、思い出の一手。
水野
棋風の話の流れから、
ここにある盤面の話をしたいんですが。
森内
はい、よろしくおねがいします。
水野
今回、会場のみなさんといっしょに
森内さんの棋風について感じられたらと思って、
事前にぼくから森内さんに、
「今まででとくに自分らしさが出てるなと思った
一手を選んでください」
とお願いしたんです。

それで教えていただいたのが、この盤面ですね。
森内
実は4つ図面をお送りしたんです。

カッコいい手を3つ入れたんですけど、
「好きなものを選んでください」とお伝えしたら、
一番地味な手を選ばれてしまって(笑)。
水野
そう、もともと4案いただきまして、
自分がこんなことしていいんだろうかと思いながら、
1つ選ばせていただきました。
森内
だけど、これを選ぶのは
相当マニアックだと思いますよ。
水野
いや、そうですか?
これを見て「あの一局だ、知ってる」という
人はいますか?
会場
(パラパラと手が挙がる)
水野
おっ、すごいなあ。

これは第69期名人戦七番勝負ですね。

相手は羽生さんで、このときは森内さんが勝っています。

何勝何敗でしたっけ?
森内
これはわたしが挑戦者で迎えたシリーズで、
1局目、2局目と勝って、
2連勝で迎えた第3局の終盤戦がこの盤面です。
水野
先手が森内さん、後手が羽生さんですね。

今日はせっかくなので、
森内さんにちょっとだけ解説していただけたらと
思うんですけれども‥‥。

将棋のルールがわからない人もいますから、簡単に。
森内
わかりました。できるだけわかりやすく
お伝えできるように頑張ります。


で、いまこれは、お互いに「飛車」が
敵陣に入り込んでいる状態です。
水野
「飛」と「竜」が飛車の駒ですね。

この右下にある「竜」は
飛車がパワーアップしたものです。
森内
それで、「飛車」は一番強い駒なんですが、
相手の陣地に入ると特に強いんですね。

いまはお互いそれが入り込んで、
攻め合いの状態になっています。

将棋というのは、相手の「玉」を捕まえたほうが
勝ちというゲームなんですが、
これはもう、どちらが早く「玉」を捕まえるかの
スピード争いという状況です。

もう終盤と言っていいでしょうね。
水野
で、このひとつ前の手が‥‥なんでしたっけ。
会場
6一桂。
(ここからしばらく盤面についての解説が続きます。

将棋の戦略についての話が続くので、
こちらの動画、または
「解説部分を文字で読む」から文章でどうぞ)
▶︎解説部分を文字で読む
(説明が終わって)
水野
‥‥ぼくはこれ、魔法のような手だなと思って。
森内
いや、このわかりにくいのを選ばれるのは、
水野さん、すごくマニアックだなと思います(笑)。
水野
なんだかすごく森内さんっぽい気がしたんです。
森内
わたしもそう思うんですが、
お客様にはちょっとわかりにくいかなと。

対局を見てたかたにも
「あれ?」と思われたかたはわりといるでしょうし。
水野
このときの観戦記者のかたも、
こんなふうに書いているんです。

「打ち込んでいた飛車を引き上げ、
4六の地点に成り返った森内。

はじめはその意図はわからなかったが、
森内の表情や確信めいた手つき、
あるいは羽生の厳しい視線から、
なんとなく妙手であろうと想像はついた」
森内
なんて適当な(笑)。 
水野
あと、プロ棋士の木村さんが
このときの解説をされていたんですが、
この4六飛成の森内さんの一手に対して
「友達をなくす手ですね」と言ってるんです。
森内
ああ、そういう言い方も
できるかもしれませんね(笑)。
水野
これが森内さんの棋風だとするならば、
将棋をあまり知らない方には
どう説明すればいいんでしょうか。

一般的には森内さんは
「鉄板流」と言われてますけれども、
攻めるよりも守る「鉄板流」の感じはありますね。

人によっては、これだけ優勢だったら
もっとガンガン攻めようとか思いそうですけど。
森内
そうですね。よく言えば、
「より広い視野をもって指した」感じでしょうか。
水野
なるほど。ここでは広い視野を持って、
相手の羽生さんをいじめたといいますか(笑)。
森内
わりと気づかれにくいですけども(笑)。

ただ、これはたまたま好手だったかと思いますが、
アマチュアの方はあまり
真似をしないほうがいい手なんで。
水野
さきほど解説でおっしゃられてましたけど、
コンピュータも別の手をとりますし。
森内
そうですね、さっき解析して、
ちょっとショックを受けました(笑)。
会場
(笑)
水野
でも、そういう意味でいうと、
コンピュータも発見できないような妙手を、
森内さんをはじめ、人間の棋士が指す可能性は
まだまだあるということですよね。
森内
お褒めいただきましてありがとうございます。
水野
いやいや(笑)。そう、だから、そんな手でした。

‥‥みなさん、森内さんの棋風、
すこし伝わりましたでしょうか。
(つづきます)
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