カレーと、将棋と、熱いトークの夕べ。【報告編】[対談]森内俊之九段(プロ棋士)×水野仁輔
七、負けるときは実力。
水野
さて、みなさんからの質問タイムを終えまして、
またぼくが森内さんに聞いてみたいことを
質問できたらと思いますが
‥‥将棋に運は関係しますか?
森内
将棋というのは基本的に、
実力がすべてというゲームなんです。

ただ、ほぼ互角の実力の人同士で戦うと
「運がよかったな」と思うことはありますね。
水野
ああ、互角の実力なら。
森内
とはいえ負けたときに
「今回は運が悪かったな」と思うことはないので、
勝ったときにだけ
「運がよかった」と思うぐらいですかね。
水野
そうか、負けたときに
「運が悪い」とは考えないんですね。
森内
そうですね、負けるときは実力ですので。

相手がたまたま間違えて勝ったら
「今回は運がよかった」と思いますけど。
水野
基本的に将棋って、
麻雀みたいに運が介在するようなポイントって、
まったくないわけですもんね。
森内
そうなんです。

たまたま良い駒が手に入ることもないし、
ツモることもないですし。
水野
カレーの場合はけっこう運があって、
「どうしてこんなにおいしくできたんだろう?」
みたいなことがあるんです。

何がよかったのか全然わかんなかったりして、
それはやっぱり運がよかったんだと
思うしかないんですよね。
森内
振り返っても同じものはできないんですか。
水野
ダメなんです。

振り返っても、レシピをメモしてたとしても、
同じ味にならないんですよ。
森内
それ、不思議ですね。

ものすごくおいしくできたときは、
もう一度食べたいですよね。
水野
そうなんです。なのに作れないから、
ちょっと悔しくて。

だからぼくはできるだけそのあたりを
運に頼らない感じにしたくて、
少しずつ研究を進めて、運だと思っていた部分を
解き明かしていきたいんですけど。
森内
その感覚はわかる気がします。
水野
あとぼくが今日、森内さんに聞いてみたいのが
「棋風」のことなんですけど。
森内
はい、棋風。
水野
それぞれの棋士が持つ、指し方の個性や癖というか。

聞いてみたかったのが
「この手を指したら勝てるはずだけど、
自分の棋風や性格が許さないから指したくない」
といったことはあるんでしょうか? 
森内
うーん‥‥まあ、突き詰めて考えて
「これが正しい」という確信があったら、
相当高い確率でその手を選びますよね。
水野
それは、自分の美学とか美意識に反する手でも?
森内
美学というか、将棋を指していくうえで
わざわざ悪い手を指すのって、
つじつまが合わないですから。

やっぱり正しい手がわかれば、それを指すと思いますね。
水野
そこは勝ち負けのために指すというか。
森内
そうですね。勝ち負けもありますし、
正しい手を見つけていくというのが
将棋の一つのプロセスですので。

ただ、どうしても正解がわからない場面には、
好みで選択することはありますね。

だけど、それは答えがわからないから
仕方なくそうしてるのであって、
わかっていればもちろん、その正しい答えを選択します。
水野
はぁー。
森内
将棋の一つの局面で有力な手の数って
決まってますけれども、
プロ同士の対局だと、まったくどう指していいのか
わからない状況も頻繁に現れるんです。

だから、そのときには好みとか棋風とかが
出てくると思いますね。
水野
なるほど、そういう感覚なんですね。
(つづきます)
2017-08-04-FRI
カレースター計画