The last piece.  ギー・ラリベルテ  シルク・ドゥ・ソレイユという パズルを埋める最後のピース
7 バランス
糸井 ラスベガスでのショーを成功させたあと、
シルク・ドゥ・ソレイユはフロリダの
ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートの中に
常設シアターを持つことになります。
あなたは、当時ディズニーにいた
マイケル・アイズナーと交渉し、
結果的に、そこでも自分たちの
インディペンデントな状況をキープしました。
ギー はい。
糸井 自分たちの世界観を徹底的に
管理することで有名なディズニーを相手に、
干渉されないままの状態で
決裂するわけでもなく、
きちんと契約を結んだというのは
ものすごいことだと思うんです。
というのは、ラスベガスのときのように
「とにかくお客さんが入ればいいんだ」
というふうに考える人たちじゃ
なかったはずですから。
ギー そのとおりです。
じつは、ディズニーとの交渉は、
MGMミラージュとの交渉とは
まったく性質の違うものでした。
わかりやすくいうと、
ディズニーとの交渉は
9年もかかったんですよ。
糸井 あ、そうなんだ。
ギー 非常に難しかったのは、
まさにいまおっしゃったとおり、
ディズニー側の要求のなかに、
シルク・ドゥ・ソレイユの
クリエイティブの内容について干渉する
という項目が含まれていたからです。
ですが、私たちもそこはどうしても譲れない。
それであんなに長引いてしまったんです。
糸井 だからといってケンカ別れに
終わったわけでもなかったんですね。
ギー シルク・ドゥ・ソレイユに来てほしいという
ディズニーの姿勢は変わりませんでした。
しかし、あまりにも交渉は長引いてしまい、
私はこの関係をずっと続けていくことは
難しいだろうと思いました。
それで、ある日、私はディズニーに、
「マイケル・アイズナーを呼んでくれ。
 私は、直接、話がしたい」と伝えました。
そして、1時間のミーティングを持ち、
彼にこう告げたのです。
「クリエイティブの面で干渉を受ける
 という条件に関しては飲めない。
 それを条件から外すなら契約する。
 契約するかしないか、決めてくれ」と。
すると、アイズナーがそこでOKしたのです。
糸井 はーーー。
あなたは、すごく、
ケンカの強いひとなんでしょうか(笑)。
ギー いえいえ(笑)。
糸井 交渉や決断にあたって、
なにか気をつけていることってありますか?
ギー そうですね‥‥プロジェクトを行ううえで
私は4つの要素を重視しています。
1つ目は、やはり「クリエイティブ」。
いかにいいものがつくれるか、というところ。
2つ目は、「人」です。
ショーをつくるうえで人は欠かせない要素ですから、
ビジネスパートナーやスタッフを含めて、
きちんと「人」に焦点を当てて
考えられているかということ。
3つ目は、やはり、たくさんのお金が動きますから、
「財政面」で問題がないかということです。
そして、4つ目は、このショーをつくることで、
「社会的によい影響があるか」ということです。
極端にいえば、これがすべて満たされなければ、
私はそのプロジェクトをやる意味はないと思います。
ですから、つねに問題定義として
この4つの要素に戻って考え、
いいプロジェクトかどうか判断し、
ビジネスを進めているように思います。
糸井 なるほど‥‥そんなふうな考えを、
火を噴く練習をしてるときにも
持ってたんでしょうか?
ギー いいえ、いいえ(笑)。
私がストリートで火を噴いていたころ、
人生は、もう少しシンプルでした。
糸井 (笑)
ギー 街角に立ってパフォーマンスしているときは、
果たして、置いた帽子の中に、
今日、食べるだけのお金が
入っているかどうか‥‥。
私は、そんなところからスタートしてますので、
その時代とシルク・ドゥ・ソレイユに
入ってからの私はまったく違います。
‥‥ですが、変わってないこともあります。
それは、私の持つ、価値観ですね。
ストリートに立ってたときも、
シルク・ドゥ・ソレイユを創立したときも、
私の価値観は変わっていません。
糸井 おそらく、あなたは、
アーティストであることと、
ビジネスマンであることの両方を
バランスよくやっていく才能があるんですね。
きっと、どちらも大事だと感じて、
どちらかを捨てたり人に任せたりすることなく、
両方を磨いていったんじゃないかと思うんです。
ギー たしかにそうですね。
私は、自分の脳の中に、
クリエイティブな右脳と、
ビジネスを考える左脳の両方を
ともに持っているように感じています。
それは、神からの授かりものとして、
非常にありがたく思ってます。
‥‥1984年に、この組織を創立したとき、
シルク・ドゥ・ソレイユのアーティスト全員に
こう伝えたことを私は覚えています。
「われわれは絶対に成功する。
 その条件として、
 クリエイティブの面と、ビジネスの面、
 両方のバランスを保たなくてはならない」と。
そこからチャンスが生まれてくるということを、
常にシルク・ドゥ・ソレイユの信念として
覚えていようと、みんなに伝えたのです。
糸井 それは、いまの
シルク・ドゥ・ソレイユを見ていると、
とても納得がいきますね。
ギー ありがとうございます。
つけ加えると、シルク・ドゥ・ソレイユの
創立から25年経ったいま、
ビジネスの構造はある程度できあがり、
しっかりと軌道に乗った感がありますので、
どちらかというと私の関わり方としては、
クリエイティブなほうに
ウエイトが寄ってきたかな
という感じがしています。


(つづく)

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2010-01-25-MON

HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN
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