The last piece.  ギー・ラリベルテ  シルク・ドゥ・ソレイユという パズルを埋める最後のピース
8 サークル・オブ・ライフ
糸井 あなたにアドバイスをしてくれる
先生のような人はいますか?
あるいは、影響を受けた人物、
なにかを教えてくれた本などがありますか?
ギー とくにこれというものはありませんが、
人からの影響は常に受けていると思います。
カナダのケベック州には、
おもしろい人たちが
ほんとうにたくさんいるんです。
糸井 (笑)
ギー アーティストはもちろん、
ビジネスマンだったり、政治家だったり‥‥。
ほんとうにさまざまな業界に
おもしろい人たちがいて、
私はそういう人たちとお茶を飲んだり
食事をしたりしながら話をすることを
とってもたのしみにしているんです。
そういった場で自分のアイデアを話すと、
さまざまな反応が返ってきます。
その反応を受けて、自分が進むべき方向を
判断したりということはありますから、
特定の誰かというわけではなく、
いろんな人からの影響というのは、
かなりあるように思います。
糸井 なるほど。
ギー そうそう、
いまも継続して行っている集まりがあるんです。
年に4回、4人の友人たちと食事をするんですが、
その4人というのはシルク・ドゥ・ソレイユと
まったく関係のない人たちなんです。
私は、その集まりを
「ファントム・アドバイザリー・コミッティ
(Phantom advisory committee
=まぼろしのアドバイス委員会)」
というふうに呼んでるんですけど。
糸井 ははははは、いい名前ですね。
ギー 彼らは、私に、アドバイスをくれる仲間です。
そういう関係を私は非常に大切にしています。
糸井 いや、いまの話で、またひとつ、
シルク・ドゥ・ソレイユのことが
わかったような気がします(笑)。
ギー ああ、そうですか(笑)。
私もいま、糸井さんから
ほんとうにいい質問をしていただいたと思います。
やはり、私にとっては
人との関係というのが非常に重要で、
また、シルク・ドゥ・ソレイユを
こころから信じているというのは、
人との関係からくるものでもあると思います。
糸井 シルク・ドゥ・ソレイユに、
ぼくが「すばらしいサーカス」以上の
興味を持っているのは、
そういったバックボーンが
感じられるからかもしれません。
サーカス以外のところで
新しいことをつぎつぎに考えて
実現させていくというのは、
いまおっしゃったような
「まぼろしのアドバイス委員会」のような関係を
シルク・ドゥ・ソレイユ全体が
大切にしているからかもしれません。
ギー ええ、そうですね。
糸井 たとえば、本部を、モントリオールの
ゴミ捨て場のある地域に建てて、
周辺に住む人を雇用する、みたいなアイデアは、
サーカスのことだけを考えている人たちには
思いつかないと思うんですよ。
ギー そうかもしれません。
成功をおさめている企業の本部として考えるなら、
一等地に建てるのがふつうだと思います。
実際、そういった選択肢もあったんですが、
シルク・ドゥ・ソレイユとしては、
社会とのつながりや、大きな集合体の一部として
果たすべき役割を非常に重要視しますので、
私たちは、カナダでは2番目に貧しい地域に
本部を設けることにしました。
おっしゃったように、職を得る人も増えますし、
緑地を増やすこともできます。
企業としては少しチャレンジングな選択でしたが、
それだけやりがいも感じましたので、
あの地域に本部を設けたのです。
糸井 もちろん責任者としての
きちんとした判断もあるんだと思いますが、
ギーさんは個人として、
ひとつの場所に安住するよりも
変化することが好きなんでしょうね。
ギー ああ、そうかもしれません。
やはり、パフォーマーとして、
つねに変化を与えるということを
とても重視しているように思います。
変化すること、革命的なこと、
そういったことを常に意識しています。
糸井 つまり、自分たちの一部分を否定しながら
つぎの新しいことをはじめていく。
その連続なんですね。
だからこそ、たのしくもあり、難しくもあり。
ギー そうです、そうです、
おっしゃる通りです。
糸井 その、ギーさんの性質に、
組織も似ていくんでしょうね。
シルク・ドゥ・ソレイユが
サーカスだけでなく、
社会的な影響をすごく大事にしているのも、
ギーさん個人の思いが溶けているというか。
ギー そうですね。
シルク・ドゥ・ソレイユと私は、
25年の間に、ほんとうにもう、
一体になっているように感じます。
いま、私は、ひとつのショーが
成功するかどうかというだけはなく、
シルク・ドゥ・ソレイユという組織が
いかにうまく前進していくかということを
たいへん重視しています。
社会的な影響を考えることは、
シルク・ドゥ・ソレイユが前進するうえで
欠かしてはならないことだと考えています。
現在、シルク・ドゥ・ソレイユは、
ストリートチルドレン用の基金と、
水に関する基金を設立して、
慈善活動にも積極的に取り組んでいます。
こういった活動は、
成功している企業の義務だと思っています。
私たちが運よく成功する一方で、
チャンスを得られない人々もいる‥‥。
私は、社会を取り巻く大きなめぐり合わせを
「サークル・オブ・ライフ」という
ことばで表現しているんですが。
糸井 サークル・オブ・ライフ。
ギー はい。たとえば私が
何かをやることが相手のためになり、
ほかの誰かのやったことが私に巡ってくる。
人間の関係というのは、
つねにそういった大きな円を
描いてるんじゃないかと思っているんです。
ですから、シルク・ドゥ・ソレイユは
そういった活動に対して積極的なんです。


(つづく)

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2010-01-26-TUE

HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN
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