同じじゃないから、愛がある。

糸井重里と古賀史健の「手で書くこと」についての対談

ほぼ日刊イトイ新聞

糸井重里は、昨年の夏から
ある万年筆を使い始めました。
ふつうの万年筆とはちょっと違う、
ノック式の「キャップレス万年筆」です。
すると、使い始めて間もなく、
「書くおもしろさみたいなものを
急に思い出した」といいます。

糸井がキャップレス万年筆を使う
きっかけをつくったのは、
『嫌われる勇気』などの著書で知られる
ライターの古賀史健さんです。
古賀さんも、この万年筆と出合ったことで
「手で書くこと」の大切さについて
あらためて考えたのだそうです。

パソコンを使って文章を「書く」ことを
仕事にしているふたりが
万年筆を使いながら感じている
「手で書くおもしろさ」って、
どんなものなのでしょう。
万年筆を入り口に、
メモ、漢字、マンガ、書、文章、手帳‥‥と
さまざまな角度から語られた
「手で書くこと」についての対談をお届けします。
古賀史健さんプロフィール

古賀史健(こが・ふみたけ)

ライター、株式会社バトンズ代表。
1973年、福岡県生まれ。
出版社勤務を経て、1998年フリーランスに。
著書に『嫌われる勇気』
『幸せになる勇気』(共著・岸見一郎)、
『20歳の自分に受けさせたい文章講義』、
インタビュー集に『16歳の教科書』シリーズ
などがある。

第8回
同じじゃないから、
愛がある。

古賀
最近、5年手帳を書くようになって、
将来、読み返すときが来るのが
すごくたのしみなんですけど。
糸井
たのしみですね。
古賀
あれはたぶん、パソコンでやってしまったら、
ぜんぜんおもしろくないんですよね。
糸井
おもしろくないですよ。
古賀
自分で書くいろんな文章って、
第一の読者は自分だと思ってるんですよ、ぼくは。
糸井
そうだと思う。
古賀
手書きで書いた字のほうが、
あとで読んだときの自分が、うれしいんですよね。
それはぼくにとって、
ほぼ日手帳が続く理由でもあります。
5年手帳がおもしろいのは、
読み返したときに
未来の自分が絶対にうれしいだろうなって
想像できるからなんですよね。
糸井
このあいだ書いた
「雪と桜とブイヨンと」っていう文章のタイトルも、
これを見たときに、ぜんぶ思い出せるように
と思ってつけたんです。
古賀
ああ、そうだったんですね。
糸井
だからこれは、
5年手帳をつけていたせいで、
うまれたフレーズです。
「この景色、いいでしょう」というものを
見せたかったんじゃなくて、
あとで、自分が見たときのことを
考えながら書いた。
それは、未来の自分への手紙とも言えるね。
古賀
そう思います。
糸井
5年手帳はね、ぼくをまた変えましたよ。
なにを食べたかだけでも、
あとで見ると、絶対おもしろいと思う。
古賀
おもしろいですね。
糸井
「俺は4種類のものしか食べてない」って
気づいたりとかね。
いると思うよ、そういう人。
古賀
(笑)
ーー
それこそ、タイピングで
4種類の食べ物を書いていっても、
ただの単語の羅列にしか見えないでしょうけど、
一冊の手帳の中に
手書きで文字を書いていくと、
その「積み重なっていってる感じ」が表す
「まるごと感」みたいなものが、出てきますね。
糸井
そうだね。
たとえば概念として
「2」という数字はゆるぎないですよね。
だから「2ってなあに?」というとき、
みんなが共通の認識を持っているし、
「2」っていうもの自体がここになくても
存在はゆるぎないんですよ。
古賀
はい。
糸井
それから、たとえば
「いまから、10ケタの数字を渡しますよ」
っていうときは、
誰もが、それをもらうことができるし、
何度でも、同じ数字を再現できます。
つまり、それは
「同じものがある」ということです。
古賀
ええ。
糸井
じゃあ「手書きの2」はどうか。
もう、違うんですよね。
古賀
そうか。ひとつひとつ、違いますね。
糸井
「りんごの2」と「みかんの2」が違うように、
同じ概念にしかすぎないものを
違って見せちゃう、ブレさせちゃう
という効果が、手書きにはあるんですよ。
古賀
うん、うん。
糸井
「タイピングの2」だったら、
共通のフォントを使って、
みんなに配ることができる。
ポケモンの新しいキャラもみんなに配れるし、
「わぁ、もらった」ってみんなも言う。
でも、もし
「おじさんがポケモンを描いて渡すからね」
って言ったら、
「これは違うよ」って言われるでしょう。
古賀
「こんなのピカチュウじゃないよ」って(笑)。
糸井
うん、なるかもね(笑)。
つまり、手書きでは、
ひとつずつが違うんだよ。
「ぜんぶが違う」というところに
現実があって、
それが愛の理由なんだよ。
古賀
ああ。
糸井
お、いまのところは
エコーをかけて言いたいね。
愛の理由なんだよ、理由なんだよ、なんだよ‥‥
古賀
(笑)
糸井
つまり、歳も背丈も服装も
同じような男の子がいたら
概念としては「同じ4歳児の男の子」なんだけど、
うちの子と隣の子は違う。
双子だって、そっくりでも違う。
ぜんぶ違うというところに
愛情の原因があるんだよ。
それは、とんでもなく大事なことなんだよね。
古賀
はぁー、そのとおりですね。
糸井
でも、人はね、
同じものがあるということを信じて、
デジタル社会を生きてるんですよ。
同じだったら、愛はないですよ。
「また買えばいいじゃない」になっちゃう。
もちろん、
「また買えばいいじゃない」というものが
いっぱいあることも、
人の豊かさを満たしてくれるから、
いいんですけどね。
古賀
うん。
糸井
そうやって考えると、
「ほぼ日」は案外
「同じがない」というところに、
息をしている会社なのかもしれないよ。
古賀
ああ、そうかもしれない。
「同じものがない」ということが、
価値になるというのは、いいですね。
糸井
昨日のわたしと
5年後のわたしが違うっていうのもさ、
なんか、いいじゃない?
記号としては同じ「糸井重里」なんだけど、
「この5年で、ぼくはずいぶん変わったんだ」
「もうむかしのぼくじゃないよ」って
言えるからね。
古賀
いいですね。
糸井
複製してしまえば、見た目はそっくりだし、
情報としても同じなんだけど、
「ぼくの手書きのが1枚あるよ」って言ったら、
「コピーより、手書きのほうがほしい」
という人は、いるよね。
古賀
それは、ひとつの価値になりますもんね。
糸井
同じものに満たされてるという幻想に、
ぼくらは生きている。
それは、頭の中につくった概念でしかない。
そのことを忘れずにいようよ、
ということかな。
古賀
うん、そうですね。

(つづきます)

2018-06-04-MON

ほぼ日の
キャップレス万年筆を
作りました!

ほぼ日のキャップレス万年筆 ¥21,600(税込)

ほぼ日20周年を記念し、
パイロットのノック式万年筆
「キャップレス」をベースにした
「ほぼ日のキャップレス万年筆」を
300本限定で作りました。

キャップレス、つまり
キャップのない万年筆。
ワンタッチで使える気軽さと
なめらかな書き味を兼ね備えた
ノック式の万年筆です。

マットブラックの落ち着いたボディに、
シルバーのクリップを組み合わせた
オリジナル仕様。
重さは30gで、安定感のある使い心地です。
ペン先には18金を使用しており、
字幅は手帳や手紙を書くときに使いやすい
「細字」を採用しています。
ブラックのカートリッジインキが
1本ついています。

この対談で語られたキーワードでもある、
「同じじゃないから、愛がある」
ということを大切にしたい、という思いから、
万年筆の軸部分に、
あることばを入れることにしました。
それは同時に、ほぼ日の創刊当初からある
スローガンでもあります。

「Only is not lonely」

ひとりであるということは、
孤独を意味しない。

この万年筆から生み出されるものは、
あなたにしか書けない、
あなただけのことばであり、文字である。

「書く」ことがうれしくなることばとともに、
長く、大切に、使っていただけますように。

この万年筆の販売は終了いたしました。