もくじ
第1回人間は太るようにできている 2010-10-07-Thu
第2回日本人も、どんどん太る? 2010-10-08-Fri
第3回飢餓と飽食。 2010-10-12-Tue
第4回肥満が家庭を崩壊させる? 2010-10-13-Wed
第5回太りやすい人、太りにくい人。 2010-10-14-Thu
第6回1日20キロカロリーの積み重ねが‥‥。 2010-10-15-Fri
第7回食事抜きダイエットが失敗する理由。 2010-10-18-Mon
第8回辛くないトウガラシ。 2010-10-19-Tue
第9回脅迫型より報酬系 2010-10-20-Wed

高橋
そもそものお話をいたしますとね。
糸井
お願いします。
高橋
われわれ人間は、
ずっと「飢餓状態」に生きてきたんです。
糸井
そうですよね、
近年になるまで、ながーいあいだ。
高橋
まだ狩猟採取民だった時代には
獲物が捕れないかぎり、食べられなかった。
つまり、非常に短い「飽食」の期間と、
非常に長い「飢餓」の期間とを、
繰り返してきたんです。
基本的には、ごく最近になるまで。
糸井
ええ、ええ。
高橋
そのとき、われわれは
「エサのある飽食の期間」に太っておいて
「エサのない飢餓の期間」を乗り切ることで
生き延びてきたわけです。
糸井
つまり、その繰り返しだから‥‥。
高橋
そう、現代人のように
「持続的に体重が増加する」ということは
まったくなかったと言っていい。
糸井
痩せたり太ったりしてたんだ、大むかしは。
高橋
そう。
糸井
今みたいに、際限なく太れるような環境では
なかったということですね。
高橋
そうなんです。
つまり、言いかたはむずかしいんですけど
結論的に言うと、
近年になるまで「太る」環境的要因というのは、
ほとんどなかったんですよ。
糸井
ははー‥‥おもしろい。
高橋
ところが、現代の先進国では、どうでしょう。
お金を出しさえすれば、
近所のスーパーやコンビニで
いつでも好きな食べ物が手に入りますよね。
糸井
そうですね。
高橋
狩猟採取民だったころは、
環境的な条件で
手に入るエサの種類も限られていましたけど、
いまは
われわれ味の素なども頑張っておりますので(笑)、
お店に行けば、何でも並んでるわけです。
糸井
ええ、ええ。
高橋
そうすると、確固たる根拠もないのに
好きなものを、
いつでも、いくらでも食べられちゃう。
糸井
「エサが取れたぞー! 食おう!」じゃなくて。
高橋
長い間、「飢餓と飽食」を生き延びてきた
われわれ人類の歴史を考えますとね、
いつでも、何でも、いくらでも
ものを食べられる、
そういう現代のような環境に置かれたら‥‥
「太らざるを得ない」わけです。

糸井
なるほどなぁ‥‥。
高橋
狩猟採取民にとって
狩りの失敗、
つまり「エサが捕れない期間」というのは、
意図せざるダイエットだったんですね。
糸井
うん、うん。
高橋
まとめますと‥‥。
糸井
はい。
高橋
なぜ、最近になって
「肥満」や「メタボ」が問題化してきたか。
糸井
ええ。
高橋
第二次大戦のころまでは、
ほとんどの国で「飢餓」が深刻な問題であり、
われわれの食生活が飽食化したのは、
ごく最近のことである。
このことが、まず前提となります。
糸井
はい。
高橋
そして、
過去には太れる環境になかったわれわれも、
いつでも、何でも、
いくらでも食べ物が手に入るようになって
どんどん、太ってしまったんです。
糸井
‥‥この話、リアルな実感がありますね。
高橋
そうですか。
糸井
自分自身のことを振り返ってみると
よくわかるんですけど、
ぼくが、いちばん「空腹」と戦ってたのは、
高校時代だったんです。
高橋
みんな早弁で(笑)。
糸井
そうそう、あのころの「空腹」って
耐えられないほど辛かった気がするんです。
その記憶があるからなのかどうなのか、
「空腹」という状態に、
「強迫観念的な何か」を持ってると思うんです、
ぼくたちって。
高橋
そうかもしれませんね。
糸井
つまり、食べないと死んじゃう、倒れちゃう、
あるいは
腹が減っては戦ができぬ‥‥とか、いろいろ。
高橋
ええ、ええ。
糸井
そして「食べる」という行為に対しては
基本的に、否定的な意見は、出ない。
高橋
出ません。
糸井
つまり、そういう飢餓的な記憶があるから、
おなかが空いてなくても
「3食、食べておかなきゃ」と思っちゃうのって
すごくわかりますよね。

高橋
ええ、そうですね。
でも、1日2食しか食べてない時代だって
実際にあったわけです。
糸井
つまり、その当時の人たちは、
現代のぼくらが「空腹」と感じるような状態で
ある時間を、すごしてたわけだ。
高橋
それこそ、狩猟採取生活における「男」は、
日中ずっと活動して
エサを探しているわけですけど
獲物ってのは
そんなにしょっちゅう見つからないんです。
だから、母も子も、基本的には飢えている。
糸井
ええ、はい。
高橋
われわれは、そういう状態に適応して
これまで生き延びてきたわけで、
現代のように
非常に消化のいい食料を
恒常的に食べ続けられるという経験は、
まったくなかったと言っていい。
糸井
人類史の文脈で語られる「肥満論」ですね。
高橋
ようするに、現代のわれわれは
たとえば
「砂糖が何十グラムも入っている炭酸水」を
とつぜん与えられて、
それを、カポカポ飲んじゃってるわけ。
糸井
‥‥ええ。
高橋
そんなことやってれば、
そりゃあ、どうしたって太っちゃいますよ。
糸井
‥‥そうですよねぇ。
第4回 肥満が家庭を崩壊させる?