卓さんのプレゼンテーション(後編)
佐藤

まずデザインを考えるにあたって
表紙にカラーで漫画の世界が
そのまま出てくるものは
要素がすごく多くなるので
やめようと考えました。
つまり、ブタフィーヌさんが好きな人にとって
「これはブタフィーヌさんの本だ」
いうことがわかりさえすれば
ブタフィーヌさんの世界とつながるはず。
だからデザインも最低限のものが
入ってればいいんじゃないかと考えたのです。
だからどの案をとっても
要素は少ないです。
最終的には絵が全く入っていない
という案も作りました。

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これは、ちょっと大胆ですね(笑)。
みなさんには
怒られるかなと思いながらも
こういった案が入っているのは
まずは考え方の違いを
見ていただこうと。
思いつくだけ考えたものを
まず見ていただいて、
みなさんから
どんなご意見をいただけるか?
どの案でも、詰めていけば
絶対にあるクオリティのものになるとは
思ってましたが
基本的な方向性は多くの人の
ご意見を取り入れたほうがいい
と思ってます。
だから、最終的に決まったものを
「これがどうしてもお勧めです」
というプレゼンテーションではないんです。

糸井

これはプレゼンテーションの勉強になるよね。

佐藤

いやいやいや(笑)。

糸井

卓さんが明らかにやってくれてるなと思うのは、
違う方向のものを見せないと
提案してる意味がないということですね。

佐藤

ええ、そうですね。

糸井

ぼくは
「違うトライを1回ずつしないと、
 失敗するにしてもダメだよ」
という言い方をよくするんですが
物事を失敗しても成功しても
テストするのなら
「このテストをしてよかった」
と思うテストであるべきで
前にやったテストをまたして
「今度はうまくいきました」というのは
材料にならない。

佐藤

そうですね。
こういう案を出すことも
感覚でやってしまうと
次が見えなくなってしまうんです。
AからHまでさらに
今日は見ていただかなかったものまで
形を出していって
皆さんのご意見をうかがって
最終的な形が決まっていったわけですが
逆に糸井さん、どのように
案を見て選んでいったかを
教えてもらえますか?

糸井

最初に
「なぜ卓さんに
 この仕事をお願いしたのか」
という意図と
卓さんが生きて
たかしまさんも生きる。
この2つを頭にいれて
まずAからHまでの案を
WEBでチェックしました。
決まったもの以外にも
もちろん良かったものはあるんですが
ブタフィーヌさんが主役なんです。
みたいなことで考えていくと
ここに行ったんです。
楽しみが一番これがありますし。

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佐藤

ここまで強い色を全面に置いてる案は
全部の中でこれしかなかったんですね。

糸井

そうですね。
書店の棚にこの本が
置かれることを想定すると
続いて2巻、3巻が並ぶ。
あるいは1巻だけで
長いこと本屋に置かれる可能性もある。
どちらであっても
OKにならないと困るんです。
こういう時、
つい網羅的になって失敗することが
技術を持ってる人たちの失敗でよくあります。
例えば巻数が増えていくから
虹の色にしようという案が出たとしても
「虹の色でみんなが必ず好きとは限らないぞ。
 並んでから虹の色になるんだったら、
 その途中で虹の色になってないときって、
 虹じゃないじゃん」
と、ぼくは思うんです。
こっちの頭の中ではすっかり整ってるけど、
お客さんにはその準備ができてないことを
よく押し付けるんですよ、
コミュニケーションって。
それは非常に防ぎますね。
虹の場合だと
「最初から虹の色にしようよ」と言って、
1冊に虹の色を入れちゃうようなことを
ぼくなんかは好みますね。

この表紙の中には、
「この子……この子そんなにスター?」
「第1巻なのにこの感じ?」
という謎があるんです。
ブタフィーヌさんに関して
うちの会社で
よくミーティングのとき言ってたのは
「例えば、うちが
 芸能プロダクションだとしよう。
 ブタフィーヌさんという子が
 道を歩いてたのをスカウトしたんです。
 この子をスターにするための仕事が
 僕らの仕事です」
という言い方をするんです。
だから、売れないかもしれないと思って
作っちゃいけないというのが、
とにかくうちの約束事なんです。
卓さんにデザインをお願いしたのも
「卓先生をお呼びして
 衣装を作ったんですよ」
みたいな気持ちもあるんです(笑)。
こういう説明すると
ちょっと分かりやすいかな。

佐藤

それは仕事をしてても感じました。
ネット上で配信している
ブタフィーヌさんが
本という形で初めてのプロダクトになる。
これはすごく大事な踏みだしの
お手伝いなんだぞ。と。

糸井

最初の1歩を
卓さんにお願いした理由は
「そもそも、何だっけ」
ということを
卓さんのデザインは
いつも思わせてくれるからなんです。

おいしい牛乳やキシリトールガムといった
商品は有名ですけど、
それらをみると
「人はなんでガムを持ってるんだろう」とか
「ポケットから出てきたときイヤじゃない」とか
商品が使われてる場面や
置かれてる場面。
捨てられた後のことまで
ずーっと卓さんが追跡したあげくに
デザインをしてくれるって感じがあるんですよ。

佐藤

今、糸井さんが
おっしゃってくださったのは
受け手にどう届くのかという
客観性だと思うんです。
勝手に送り手が組み立てたものを
強引に、受け取る側もそうだろうと思って
押し込むことを
比較的、気がつかずに
やっちゃうことが多いんです。
だけど、それをいったん、
全部忘れて向こう側から
もう一回客観的に見たときに、
「あ、全然これは届かないよ」
というようなことは
当然シミュレーションします。

糸井

そこはかなり厳しくやってますよね。

佐藤

厳しいかどうかは
わかんないですけど(笑)。

<つづきます>
2007-03-14-WED
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