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December
十二月のテーマは ベークライト

日本に住んでいたころ、ドイツへよく行く知人から、
現地の蚤の市で見つけたというヴィンテージの可愛い
スキーヤーモチーフのブローチを2〜3点見せてもらったことがある。

木を削って作ったような質感と軽さに、
当時は知人も私も木製だと信じて疑わなかった。
それがベークライトというプラスチックの一種であると知ったのは、
私がイギリスへ越してきてから。
運良く何度か、同じあるいは似たスキーヤーのブローチを
ドイツやイギリスの蚤の市へ行ったときに見つけ、
ヴィンテージディーラーに素材の話を聞く機会があったのだ。

ベークライトは、アメリカ人化学者のベークランド博士によって
1907年に発明された、世界初の合成プラスチック。
熱に強く電気を通さないことから、1960年代に廃れてしまうまで
主にラジオや電話をはじめとする家電製品に盛んに使われたが、
ジュエリーの素材としても1920年ごろから欧米でブームになった。
今では古いベークライトのジュエリーを専門とするコレクターや
ディーラーがおり、宝石レベルの値がついている品も存在する。

そんなベークライトだが、削りやすく色の自由もきくため
木製であるかのような風合いを出すのは難しくなかったのだろう。
さらに上から手作業でペイントをほどこし、
写真のようなブローチが完成したというわけだ。

モチーフについていうと、
私がこの13年間で見つけることができた
約10個の同シリーズのスキーヤーブローチは、
うさぎ、おにいさん、おばさん、といった謎の顔ぶれで、
彼らの多くは数字が書かれたゼッケンをつけ
赤または青に白の水玉模様のスカーフを巻いていた。

さらに、見つかる割合は圧倒的にうさぎが多い。
このブローチの発祥地と考えられるドイツあたりには、
うさぎが人間とスキーをする有名な童話でもあるのだろうか。
デザインのもとになった何かがきっとあるはずで、
これまで私は何人ものヴィンテージディーラーに尋ねたが、
素材や年代のこと以外は誰も知らない。
私のなかで長年、「はっきりした出どころは分からないが、
ごくたまにヨーロッパの蚤の市で見つかる、大好きなジュエリー」
という、ややこしいカテゴリーに分類されているブローチなのである。

スキー板の上に乗ってお尻を突き出した前傾ポーズに
シリアスな表情。愛嬌がありながら、帽子のリブや
腰にまわすゼッケンのリボンなど、
細部までちゃんと作ってあるところは
いかにもドイツっぽいのだが、果たして私の先入観だろうか。
情報を求む。

(つづきます)

 
2013-12-24-TUE


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