吉本ばなな&糸井重里 対談
ほんとうの
おとなになるために。
第2回
子どもはもっと苦しいだろう。
糸井
お父さんから自分に遺伝しちゃったというか、
「渡されちゃった」と感じること、ないですか?
吉本
そうですねぇ‥‥、「好み」に関しては
あるような気がします。
糸井
「好み」にあるんだったら、それは
全部にあるようなもんでしょう(笑)。
吉本
「この人のことを、ここまでは好きだけど、
 これ以上好きになれない」
とか、そういう「好み」は
生前からお父さんとすごく一致してました。
だからたぶん、死後も一致してるのかなと思う。
糸井
ふたりとも、一見
広くウェルカムなんだけど、細かいところで
「そこはだめだよ」
というところがあるよね。
あと、人と「切れたり」「つながったり」するのが、
わりと平気ですね。
吉本
そうですね。
糸井
吉本さんも、絶交してる人がけっこういたけど、
その後、また会ったりとかしてて。
吉本
ええ、会ったりしてました。
でもたぶん、対応を変えただけで、
「好み」は変わってないんだろうな。
そういうのって、なんとなく
わかる気がしていました。
糸井
生きることについての話って、
やっぱりそれは「好み」の話だと思う。
「どういう生き方が好きか」ということだから。
吉本
あぁ、そうですね。
そういう意味ではたぶん、
「ほかの人の好みも認める」
というところに、大切さがあるのかなぁ。
糸井
そうか、そうか。
吉本
「自分はこうだから、みんなもこうなってね」
というんじゃなくて、
「自分はこうで、みんなは違うけど、
 まぁ、それもあるんじゃない?」
というふうに思えるかどうかが
すごく大きい違いなのかなと思います。
いまの時代、それが足りない気がして。
糸井
それは、おおざっぱに言うと、
「寛容」みたいなことなんだけど、
そんな道徳的なことじゃないですよね?
吉本
うん。それは、言うなれば
「隙間」です。
ちょっとした隙間がないと、
何も生まれてこないと思う。

「自分はこういう生き方です」と
はっきり打ち出したとしても、
「あの人とはぜんぜん違う」ということになると、
そこに隙間が生まれます。

すると、その隙間から
急に別の、違うものが出てくるんです。
隙間がないと、
人類が進化しないんじゃないかな、と思って。
糸井
人と人とが英知をぶつけ合って
大討論しても、見つかることなんて
じつはほとんどありませんよね。
ただ、例えば100万年の時間が流れたとしたら、
「この間にいろいろ見つかったね」
ということになると思う。

「今日わかる必要がないんだったら、
 宿題だらけにしておいていいんじゃない?」
「問題をつぶさなくていいんじゃない?」
ということなんじゃないかな。
吉本
うん、そうですね。
隙間のない苦しさがあって、いまは
「子ども、たいへんだなぁ」と思います。
私は自分の子どもを
「立派なおばあさん」になってから産んだから(笑)、
子どもの幼稚園に行ったら、
お母さんがみんな若くてね、すごく苦しんでた。
「こんなに苦しまなくても」と思う。

「こんなにお母さんが苦しんでたら、
 たぶん、子どもはもっと苦しいだろう」
と思った。
糸井
苦しいのが、常態だと思っちゃうよね。
吉本
うん。
「そこまでじゃなくても」という気持ちが、
『おとなになるってどんなこと?』を
私に書かせたところがあります。
子どもには、
「実はそうじゃないんだよ、隙間あるよ」って
言ってあげたいような気持ちもある。
糸井
なるほど。
ぼくの場合、じっさい自分の子どもには
「面倒くさいから、こうしてれば?」
というようなことを「技術」として
ところどころ教えたかもしれない。
つまり、人は、
ネクタイしているだけで信用する、
みたいなところがあって。
吉本
うん、うんうん。
糸井
あいさつなんかもそうで、
運動部の人たちは、みんなそれをやるよね。
だから、運動部の人は好かれます。
そういうことを省いちゃって
作りあげるのは大変なんですよ。

「声が小さいのはだめ」とか、
うちのスタッフにも言うよ。
だから、新入社員で小さい声だった人が
いつのまにか大きくなってるもの。
吉本
すばらしいですね。
そういうことはとても大切。
糸井
ぼくに関しては、だから、
おそらく技術の話を
してるんだと思うんですけども‥‥。
吉本
あ、いまちょっと思い出したことがあります。

毎年夏に、糸井さんもうちの家族も、
みんなでいっしょに伊豆の海に出かけましたよね。

食事の席で、みんながダラっとなって
食べたり呑んだりしている部屋に
糸井さんが入ってくると、
みんながちょっとシャキッとなってました。
それを私はちいちゃいときから覚えてた。
糸井
え、そうなの?
シャキッと(笑)?
吉本
「あ、この人は、人を
 こういうふうにさせるんだ」
ということを、昔から、
すごいなって思ってました。
(つづきます)

2015-12-11-FRI