肉体言語で考えてごらんよ。安宅和人×糸井重里
安宅和人さんをお迎えして、
糸井重里と10年ぶりに対談をしました。

ヤフーやLINEといった会社をグループ化した
Zホールディングスで働き、
新人を積極的にチームに入れている安宅さんは、
同時に慶應義塾大学で学生に指導することも。
デジタルネイティブないまの若者を
よーく見てきた安宅さんと、
これからの時代の若い人の生き方について
糸井重里とたっぷり語り合いました。

ITの世界でデータを扱う安宅さんですが、
ご本人の育ち方は正反対な、自称「野生児」。
全身を使って体験してきたことが、
いまでも役に立っているそうですよ。
※この対談を動画で編集したバージョンは

 後日「ほぼ日の學校」でも公開します。
(8)引いたクジが当たり。
糸井
いま、ここに来ているのはみんな、
ほぼ日のインターン生たちです。
義務だっていう風にはしないから、
安宅さんやぼくへの質問、なんでもいいよ。
インター
ン生A
ぼくは東大を卒業してからフラフラしていて、
将来の目標はなんだろうって考えたとき、
目標の立て方が違ったというか、
考えることが違ったんだなって思ったんです。
じゃあ何を考えればいいんだろうと思って‥‥。
安宅
どうやって食っていけるかをまず考えましょう。
立派なことを言えるようになるのは、全部その後。
ぼくとして言えることとしては
「まずは自立しよう」という感じです。
写真
糸井
お父さんから薪割りをするように
育てられた安宅さんですからねえ。
たとえばさ、「ほぼ日の學校」を見ていると
羨ましいなって思える生き方の人がいますよね。
安宅さんみたいな人もいれば、
ネパールで学校を作るシャラド・ライ君、
あるいはボランティアの神様って言われている、
ねじり鉢巻の尾畠春夫さんの授業もあって。
違う道にいるぼくらから見ても、
羨ましいなって思う人の授業がいっぱいあるけれど、
「おれはダメだ」って感じる必要はなくて、
あっちの方がカッコいいなって思えばいいんです。
安宅
カッコいい大人の、
素敵なところを見られる機会って
そうないでしょうからね。
インター
ン生A
東大に入ったことで、
そこに行けばなにかあるのかなって
思っていた部分もあって。
安宅
ないよーっ、そんなもん。
あるわけないでしょう。
与えられるものじゃないんです、人生は。
糸井
東大に行けばなんとかなると思ったけれど、
それで「ありゃ?」と思ったんだよね。
ジャングルに迷い込むのと似たようなもんだから。
あとは、単純に遊びだっていいんですよ。
安宅さんとの話でも釣りの話が出ましたけれど、
釣りっていろんなことを含んでますから。
安宅
子どもの頃は死ぬほど釣りをやって、
たくさん学んだと思います。
暇な時間がいっぱいあっただけに、
とりあえず試行錯誤をしていましたから。
インター
ン生B
わたしは中国からきた留学生です。
7年間の社会人経験があって、
もう一度学校に戻って日本に留学していますが、
大学を卒業した8年前に、
よくこういう質問を訊かれたんです。
「10年後のあなたはどんな人間になりたいか?」
人生の方向性や輪郭線は常に変わっているので、
どう答えていいのかよくわからなくて。
安宅
その質問、じつはぼくもよく大学生にします。
というのも、その人の心の中に
ベクトルがあるのかを訊きたいんですよね。
向かっているものがある人とない人とで、
そもそも対処の仕方が全然違うんですよ。
ベクトルがある人だったらそこに向けて、
どうやって実現するか作戦を考えます。
ベクトルがない人だったら全然違う話になって、
「まずは食えるようにしなさい」となるんです。



ちゃんと食えるようになったら、
やりたいことを仕事にすることができます。
ぼく自身、大志を抱かずに生きてきて、
自分の出会い中でできる意味のあることを
ちょっとでもやろうと思って生きてきました。
そうしたら、勝手にどうにかなるんですよ。
お金儲けを優先しなくても、
どこかの段階から貯蓄されていきます。
お金を目的に仕事を選ぶよりも、
世の中にとって意味があることを
やっていくことのほうが、
リターンが大きいと思うんですよ。
写真
糸井
いまの若い人たちを見ていると、
ちゃんとギャラをとらなきゃダメだっていう話を
すごく真剣にしていますけど、
自分でやりたいからやるような
タダの仕事ってあると思うんです。
ぼくはおもしろそうだったらなんでもしたし、
お金と関係なく仕事していた時代があって、
全部その後のトレーニングになったんですよね。



安宅さんのおかげで話しやすくなりましたが、
ぼくは社長の仕事をしているんで、
タダで人を使おうとしているように
思われたら困るんですよね。
でも、お金儲けのことを先に考えちゃうと、
自分の首を絞めるんですよ。
何をやりたいのか、どんな友達と
どんな遊びをしたいのかっていう方が大事。
買ってでもしたい仕事っていうのをするのが、
価値としてはいちばんいいんですよ。
そのためにお金を稼ぐわけだから、
最初からそんな仕事があるんだったら
タダでもしちゃえばいいんですよね。
安宅
ああ、それは同感ですよ。
糸井
自分からやらせてほしいような仕事を、
いまでも喜んでやる人たちがいっぱいいますから。
仕事について専門的なことを
どう学んだらいいとかじゃなくて、
どういう状況になっても
めげずに頭が動くことだと思うんですよ。
あとは病気にならない健康な体があるとか、
そっちの方が大事な気がしますね。
インター
ン生B
会社を辞めたときにも、
他の友達からお金や年齢の心配はされました。
でも、やりたいならやってみようと思って。
努力すればするほど運は味方するっていう
ことばを信じています。
糸井
中国には秀才が多くて、競争が激しいんだよね。
日本はいま頭打ちになっているから、
全然違うことをちゃんと考えられる人が
やっぱり欲しいんですよ。
そのためにも基礎体力っていうのかな、
どこに置かれてもなんとか生きていける人のほうが
強いと思うんですよね。ほかに質問ありませんか。
インター
ン生C
安宅さんがおっしゃっていたように、
何で食べていくかを考えなきゃいけないっていう
現実的な問題はあると思うんです。
ただ、人生の選択をしていく上で、
「たのしいからやりたい」っていう気持ちを持つのか、
それとも「これをやらないと食べていけないから
やらなきゃいけない」っていう気持ちもあって、
どちらを優先していけばいいのでしょうか。
安宅
食うこと、絶対に食うことが最優先です。
食えないと、誰かにたかるしかないじゃないですか。
食えない限りは自立できないんで、絶対に食うこと。
食えることは、たのしさよりも優先されます。
食うための仕事と、世の中に貢献する仕事は、
分離しても構わないと思います。
最初はとりあえず食えないと自立もできません。
自立もできなかったら物も言えないんで、
誇り高く生きていけないじゃないですか。
だから、とにかく食うことだと思います。
安定的に食べられないことには大人になれません。
食うことを考えましょう。
糸井
これだけ強く言われると、
なんだか勇気が出るでしょ?
写真
インター
ン生C
やりたいことを探すこと、答えのないことを探すよりも
食っていく方法を探すっていうことが、
わたしの中でもどこかで求めていた答えでした。
でも、そういう話は誰も言ってくれなかったので。
安宅
それは周りの大人が無責任すぎますよ。
インター
ン生C
どちらかというと「夢を追いかけろ」と。
自分がやりたいことを探すために、
就職活動をしているような気がしていたんです。
だから、安宅さんの回答が
欲しかった答えだなって思ったんです。
「食うこと」って突き放した言い方で、
夢がなくて暗い感じにも聞こえますけど、
ちゃんと食えるようになってから、
その後にやりたいことを探したらいい、
とプラスで言ってくださったことで、
優しさを感じられました。
糸井
安宅さんは優しいのよ。
安宅
いやいや、とんでもない。
糸井
ぼくはいまだに、やりたいことってないからね。
ニッコニコしながら言うけど、別になにもない。
安宅
ええっ、この世に幸せを
生み出しているじゃないですか。
糸井
結果的にそうなれば嬉しいですよね。
ありがとうとか、たのしかったとか、
そう言ってもらえたら嬉しいけど、
やりたいからやっている仕事はありません。
行きがかり上、そうなっていることばかり。
たのしいのはいまだと、
娘の娘に慕われていることなんだけど、
それすらも最初は望んでいませんでした。
あの、ぼくが人生でいちばん嬉しかったのは
娘の結婚が決まったときなんですよ。
安宅
娘さんの結婚って、寂しくありませんでしたか。
糸井
逆ですよ。
この日が人生の中でいちばん幸せな日だって
はっきりわかりましたもん。
だいじにしている子どもが「さあ、幸せになるぞ」って
誰かに約束されたわけだから、それは嬉しいですよ。
そこに子どもができようができまいが、
もうどっちでもよかったんですよね。
その結果、子どもができて嬉しかったわけで。
全部、結果が喜びなんで楽ですよ。
極端な話、縁起でもないって言われるだろうけど
死んでも嬉しいです、ぼく。
安宅
んんっ?
糸井
おれ死んじゃったーって残念な気持ちはあるけど、
それはそれでいいかってなるんですよ。
わかんないだろうね、若い大学生の君たちには。
安宅
ぼくも40歳ぐらいから
いつ死んでもいいやと思っています。
糸井
あっ、ただ死にたくはないんですよ。
ぼくには、希望がないから。
安宅
希望がないって、すごい言い方ですけど。
糸井
願望か望みかはわからないけど、
なった結果は、よかったって思うんです。
この考え方はねえ、ラクだよ~?
安宅
それでいきましょう、みなさん。
糸井
思えば、順番を変えているだけなんですよ。
引いたクジが当たり。
いま出てきたことばだけど、
これはもう書いておきたいですよ。
安宅
はあーっ、引いたクジが当たり。
名言過ぎますねこれは。
写真
糸井
その都度、悔しがったりはするんですよ。
引いたクジが当たりかあ。
そんなことで、安宅さんとのセッションは
おしまいにしましょうか。
どうもありがとうございました。
安宅
本当にありがとうございました!
(おわります)
2023-05-26-FRI