「遊ぶ広報」が目指すがんばらない観光地 「遊ぶ広報」が目指すがんばらない観光地
世界遺産:石見いわみ銀山で、
その土地に根ざした暮らしをしている松場忠さんと、
風のように全国を飛び回っている紀陸武史さん。
まちの人も、訪れる人も、これから来る人も、
たのしみになるような
仕組みをつくったふたりに話を伺いました。

まちおこしは誰かががんばりすぎると、
つかれてしまいます。
がんばらない観光地は、日本各地を救う気がします。

担当は「ほぼ日」下尾(しもー)です。
第3回 言葉がなくても伝わるもの
──
まちの中の方で、
ガイドをする方は、どのように選ぶんですか?
紀陸
ぼくらが大事にしているのは、
どれだけ、そのまちが好きかです。
好きという気持ちに心が震えている人。
好きっていう気持ちは伝播するじゃないですか。
そういう方にお願いすると、
とってもいいことが多いです。
写真
──
まちの規模にもよりますが、
ガイドの方は、
何人くらい必要なんでしょうか。
松場
地元の事務的な滞在中のサポートをする人と、
まちの案内役を1日かけてガイドする
地域コーディネーターと、
だいたい2〜3名で副業のようなカタチで、
やっていただいています。
──
もっとたくさんの人員が
必要なのかと思っていました。
松場
50人が2週間で一気に来るわけではなく、
1年かけて穏やかに来るので、
1週間に1回ぐらい
アテンドをお願いするようなカタチにしています。

石見銀山だと、例えば毎週1回空けておいてもらう。
毎週だと大変なこともあるから、ふたり体制にする。
エリアを広げたから、プレイヤーも増やす。
という流れで、いまは4名ぐらい稼働しています。
紀陸
ちなみに「遊ぶ広報」のアテンドは、
2週間ずっとするわけではなく、
訪れた最初の頃にアテンドするだけです。
その日に、まちの人たちと仲良くなってもらって
「何かあったらいつでもご相談ください」
というサポートをしています。
毎日アテンドするわけではないので、
そこまで負担にはならないんです。
──
「遊ぶ広報」をぼくらのまちでも、
やってみたいですというときに、
人員を補強する必要はないということですね。
松場
地元をアテンドする機会が
年間で50回近くもあるというのは、
日本の中では、なかなかないわけです。
50回近くやったら、
かなり地元のことに詳しくなって、再発見して、
その人たちが、より地元を好きになってくるんです。

とかく地方や田舎は
東京のものを欲しがるじゃないですか。
「あんなものが、このまちにもあったら」
ということをよく言うと思うんです。

でも新たに開発しなくても、
今あるものの、
つなぎ合わせでいいんだという
発見や学びが出てくると、
自分たちの地元を見る目も変わってきます。
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紀陸
昔は都会に行かなければできないことが、
たくさんあったけれど、今はインターネットが
時間と空間をぎゅっと詰めたので、都会も田舎も
暮らしぶりは、そんなに変わらなくなっています。

その地域の中に当たり前にある、
地元の人が気づいていない、すばらしい価値を
常に外の人と交流することで気づき続けられるので、
ガイドをしながら、
自分のまちに誇りを持つことができますよね。
松場
その場所で暮らしているということが、
なんか豊かでしあわせだなと感じたら、
それって、いちばんイイことだと思うんですよ。

情報が錯綜するむずかしい時代に、
選択肢も爆発的に増えている中で、
自分の居場所があって、
そこに根ざして生きるっていうことが、
こんなにも豊かなんだということに、
実は社会が気づきはじめていると思うので、
素直にやり続けていくことで、
世界中の人とつながれたら、おもしろいですよね。

ぼくらは人口400人の島根の山奥にいますけど、
海外から訪れた人たちに、
実際に目の前で感動されることで、
世界を相手に仕事をしていると言えることが、
すごくうれしいです。
──
言語の問題はどのように解決しているんですか。
いろんな国の方々がいらっしゃると思うのですが。
松場
多少英語をしゃべれるスタッフもいますが
翻訳アプリを使うこともあります。
そして、実は必ずしも絶対、
説明ばかりをしなければならないわけではないんです。
いい営みがあれば、見てわかるわけです。

見てわかるものに対して、
できるコミュニケーションを取っていく、
ということでも十分な気がします。
──
体験がものを言うというか、
言葉がなくても伝わるものがあるんですね。
松場
そうですね。
生活というのは、見ている風景や景色、
そのものだと思うので、
それが心に残るものであったら、
持ち帰ってもらえるものは、
たくさんあるんだろうなと思います。
紀陸
なんというか、
言葉がないほうがいいこともありますから。
例えば「このお味噌汁おいしい」って
フランスの方がおばあちゃんに言ってたとして、
それぞれの言葉で、もう伝わっているんですよ。
言葉がいらないんですよね。

脚色された体験ではなくて、
直感として同じ目線で、
その暮らしを眺めたくなるから。
手を加えないことが価値になることもあります。
──
すごいですね。
全国各地で、いろんなことが
できていきそうな予感がしますね。
松場
前にある方から聞いて、
なるほどなと思ったのは、
1日いられる場所は、
1日かけて人が来ると言われました。
例えば、飲食店で2時間過ごせる場所は、
片道1時間ずつ2時間かけても
人が来るという話があるらしいんですね。

世界中をターゲットにしようと思ったら、
1週間くらいいられる場所を
つくればいいんだと思っています。

今はそれをひとつの「国」
という単位でやっているけれど、
それが「地域」という単位で
やってもいいと思っていて、
2週間の中長期滞在という地域づくりができれば、
そのターゲットは日本国内に限らず、
世界中の人がターゲットになるし、
そういうカタチで過ごせる場所ができれば、
その地域に住んでいる人たちにとっても、
過ごしやすい場所になるんじゃないかと。

そこにいるみんなが生活者のような状況になるので、
生活者にとって心地よい場所をつくるというのが、
ひとつのゴールなのかなと思っています。
写真
──
いまの「遊ぶ広報」の仕組みは日本のみですが、
今後の夢としては?
松場
「遊ぶ広報」をやっていった結果として、
その地域が中長期滞在が
受け止められる地域になっていく。
その副産物として、結果的には世界中が
ターゲットになると思います。
紀陸
暮らしそのものが価値になるので、
地域の方にとっても無理がないんですよね。
何か新しいことを
特別にやらなきゃいけないのは大変じゃないですか。
松場
自分たちでやってもらうことだから、
朝食や夕食の心配もいらないです。
観光産業は、食事もしかり、
チェックイン・チェックアウト、
掃除、お風呂、寝る場所‥‥
もう24時間、ある種、気を遣わなければならない。
人口も減っていく中で、大変なんですよ。

観光自体は
これから主要な産業になると思いますが、
無理のない設計をしていくことが、
なんかすごく大事になるような気がしています。
紀陸
観光地域づくりに関わって
10年ぐらいになりますが、
いかんせん、どんなところでも
急激な変化に弱いんですよ。
大量に来ていたのに来なくなるとか、
逆に全然来ていなかったところに急に来るとか、
バランスが崩れちゃうので。

順繰り順繰りと変わっていくのが、
いちばんいいし、近道だし、
そこに暮らす人たちの気持ちがついてこない
まちづくりは、すべきではないんです。

住んでよし、訪れてよし、というこの順番が
ぼくはすごく大事だし、そういうまちづくりに
貢献していきたいなと思います。
──
おふたりの話を聞いて、
これからの観光のあり方が、
すごくたのしみだなと思いました。
松場・
紀陸
たのしみにしててください!
写真
(おわります)
2025-09-17-WED