『明日の記憶』とつきあう。糸井重里、樋口可南子さんへのインタビュー。




第1回 なにしろはじめてのことなので。
糸井 うーん‥‥。
自分がどの位置でしゃべるのか、
見当がつかないな。
樋口 そうだよね。
糸井 生まれてはじめてだからな、こんなの。
複雑だよ。
樋口 仕事の話って、家では
あまりしたことがないし。
糸井 いやぁ、思ったより、嫌なもんだな。
樋口 これは、やりにくいでしょうね。
ほぼ日 はい。いま、我々は
見たことのない画が目の前にあるなぁと、
全員がボーッと思っています。
樋口 だって、こんなこと、ないですからね。
この『明日の記憶』のことじゃなかったら、
やっぱりやらないよ。
糸井 こんなふうに、
この人がフォローすることじたいが、
ちょっと、やさしくなっちゃってんだよ。
やっりにくいなぁ!
ほぼ日 (話がすすまない!!)
糸井 あああああ、ほんと、だめだ!
だいだいね!
お化粧をしている樋口さんと、
話すことが、ないんだよ!
樋口 だって、化粧をして家に帰ると
「怖い」って言うから。
糸井 「そういう人」として家にいないでほしい、
という気持ちがあるんです。
樋口 家ではほんとに仕事の話をしないし、
仕事場にも、糸井には来てほしくないですね。
仕事場では戦闘態勢の顔になるから、
見せたくないんですよ。
糸井 そういうことはお互いに反則だ、という気がする。
たまに俺が仕事の話をしたときには、
「売れるといいねぇ」
くらいしか、この人は言わない。
内容のことについてはいっさい言わない。
逆に、俺は樋口さんの映画について、
何も言わないし、そもそも、観てないよ。
樋口 そうだね。
私もあんまり観なくていいよ、
と言うことが多い。
糸井 いつもはそんなかんじなのに、
今回の『明日の記憶』のことは、
ちらっと話をしたりしたんだよ。
撮影しているときも、
たのしそうだったんです。
樋口 自分ではあんまり意識してないんだけど、
撮影に入ると、いつもは「疲れた」とか、
家で言うらしいんですよ。
糸井 この人は、だいいち、仕事がきらいですからね。
いや、きらい、というのとは
ちょっとちがうんだけど。
樋口 きらい、というよりもね、うーん、
こんなに過剰に一生懸命になれるものって
ほかにないんですよ。
ないの、ほんとに、この仕事しか。
だから、というのもヘンだけど
「仕事が楽しくて楽しくてしょうがないわ、
 ひとつ終わったら、よし、次の仕事!」
というタイプではない。
休みたい。
早く休みたい(笑)。
ギューってやって、休みたい!
糸井 ひとつの仕事がはじまる前には、
「あ、そろそろこの女は
 めんどくさい時期になったな」
というオーラが出はじめるわけです。
樋口 うん、うん。
糸井 「ああ、台本とか、読みはじめたのかな」
なんていうのがわかるから、
そこんところから、もう俺は
あきらめるんです。
そして、撮影がはじまっちゃったら、
そのあいだはくたびれるに決まってるでしょ。
撮影が終わっても、
「回復しなきゃと思ってる」ような、
産褥みたいな時期があって、
「とりあえず私は終わったから、
 目の前にある、
 わけのわからない散らかっている状況とやらを
 ま、いずれはなんとかするけれども、
 はぁぁぁぁ〜!」
って言ってる時間がけっこうある。
それくらい仕事が「きらい」だから。
ほぼ日 いや、一生懸命になっていらっしゃるから。
糸井 そうね、一生懸命になっているから。
それを、俺は理解しない人間ではないんです。
だって、俺も仕事は嫌だから。
ほぼ日 それも、一生懸命になっていらっしゃるから。
糸井 うん。だから
「わかる、その気持ち」
というところがあるんだよ。
だから、さわらないようにさわらないように、
静かに、いないような顔をして
いつもは暮らしてる。
樋口 そこが、今回は、ちがったんです。
ちがったんですって、すごく。

(つづきます)

2006-04-21-FRI



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