第7回 東京。

荒井 ぼくは山形県山形市っていうところで、
高校生まで育ったんですけど、
どんな職業につきたいとか、
なにがやりたいとかってとくになくて、
とりあえず東京の大学行って、
っていう感じだったんです。
まわりのみんなもそういう感じで。
糸井 はい、はい。
荒井 とにかく、
ここにいるわけにはいかないなぁ
っていう感じでした。
まあ、口だけは、
オレは東京を踏み台にして行くんだぁ、
とかなんとか言ってましたけど。
糸井 ああ(笑)。
荒井 口だけですよ。
糸井 実際には、イメージないもんね。
荒井 そうなんです(笑)。
世界に飛び出すって言っても
その世界って、どこ? みたいな。
一同 (笑)
糸井 わかんない、わかんない。
荒井 でも、なんかね、
東京で終わりたくないっていうのも、
いちおう、本気で思ってました。
糸井 それは、逆に
田舎で育ったおかげかもしれませんね。
荒井 あ、そうかもしれないです。
糸井 東京の人って、東京が地元だから、
すっごく落ち着いてるんです。
荒井 そうそうそうそう。
糸井 つまりね、こーんな、
(自分のポケットを見せながら)
ポケットが裏返った服なんかね
東京の人は着ないんです。
荒井 (笑)
糸井 いや、ほんとに。
おもしろ過ぎるんですよ、こんなのは。
東京の人はね、やっぱり
ふつうのちゃんとした格好してるんですよ。
質のいい平凡なものを平気で選べるんです。
ぼくも田舎の子だから、
それはいまでも、うらやましいなぁ。
荒井 うん、うん。
糸井 田舎の子ってね、やっぱり、
ポケットひっくり返したりしたいんですよ。
荒井 そういうので覚えているのは、
大学の入学式のガイダンスなんですけど、
60人くらいで車座になって、
ひとりひとり自己紹介させられるんです。
糸井 ああ、恥ずかしいなぁ。
荒井 そうなんです。
とにかく自由にやりなさいって言われて。
立ってその場でやりたい人は
その場でふつうにやっていいんですけど。
で、そのときに「東京出身です」って言って
ラジカセ持ってきてね、踊りながらね、
自己紹介した女の子がいて。
糸井 ひゃあ。
荒井 いまこういうと笑い話っぽく思えますけど、
そのときは、かっこいいなぁと思って。
すごく田舎もんだと思いました、自分が(笑)。
糸井 どうしていいかわかんないんだよね。
ほっんとに、どうしていいかわかんないんだ。
もしもラジカセ持ってる子ばっかりだったらね、
ここはひとつオレもラジカセかな?
って思っちゃうんだよ。
荒井 もう、ほんとに(笑)
糸井 実際には、ラジカセはいるわ、
こう、「ラディゲが‥‥」みたいなことを
言い出すやつはいるわ、
いろいろで困っちゃうんだよ。
で、気のよさそうなだけの人は
やっぱり、魅力ないんですよね。
荒井 うん。
糸井 友がみな我より偉く‥‥なんですよね。
でも、そいつらもきっと、
精一杯、ふかしてたんですよね、きっと。
その自己紹介のとき、
荒井さんはなにを言ったか覚えてますか。
荒井 いや、だからもう、ふつうにやりました。
策は尽きたと思ってね。
糸井 ラジカセを見たその瞬間に。
荒井 その瞬間に(笑)。
たぶん、いろいろ考えてたと思いますけど、
これ以上はないだろうと思って
ふつうにしゃべりました。
糸井 そのラジカセの子は、
のちに、どういう学生になったんでしょう。
荒井 あ、それがね、絵を描かせたりすると
意外とおとなしかったりして。
一同 (笑)
糸井 でしょうね(笑)。
荒井 あ、なんだと思って安心しましたけどね。
糸井 ふふふふ。


(つづきます)


「あたまのなかにある公園。」とミニバッグが、
先週の金曜日に届きました。
前作の3冊同様に糸井さんの言葉もとても心に沁みますね。
この本をミニバッグに入れて、
近くの公園のベンチでゆっくり読みたい気分です。
(翠)

今日のダーリンをチェックするのは習慣になっているんだけど、
忙しい時期に読めなかったこともあったので、
『あたまのなかにある公園。』を読みながら、
「あ、初めて読む文章や単語がある」って思いながら読んでます。
そして、「その日にちゃんとその文章に目を通してたら
違った1日になっただろうな』と。
なので、今日はいつもとは違った1日になりそうです。
(カワハシ)

これから、美味しいものを食べるようにちびちび読みたいと思います。
いや、読み終わるのが名残惜しいからちょっと寝かせようかな…笑
(@札幌)



2010-06-21-MON