#05 日欧200人以上の高校生の論文が<br />英国専門誌に掲載される

ツイッターで影響力のある世界の科学者トップ100

この連載は全10回の予定です。
5回まで書いてきたので折り返し地点として、
早野龍五さんに話を伺います。
早野さんは東京大学大学院理学系研究学科の教授であり、
スイスのジュネーブにある
CERN(欧州合同原子核研究機関)の研究者です。
糸井重里さんとの共著『知ろうとすること。』は
半年で10万部を超えるベストセラーになりました。

講演で
「世の中に役に立たないことを
研究しているアーティスト」であると

ユーモアを交えて早野さんは自己紹介しながら、
なぜ福島のことに関わるようになったかを
ツイッターのエピソードを交えて話しました。

聴衆は一斉に身を乗り出します。

福島原発事故以前、
早野さんのツイッターのフォロワーは3千人周辺でした。
事故後、放射線量などさまざまなデータをグラフ化して
投稿しはじめると、数日間で15万人に急増します。

翌年の2012年、東北大学の研究者たちが
リツィートの数を調べたところ、
アカウントとして7位でした。
NHKや朝日新聞に次いで、
原発事故関係で早野さんの投稿が注目された証です。
昨年、米国科学雑誌が発表した
「ツイッターで影響力のある
世界の科学者トップ100」によれば22位です。

高校生の論文が英国の放射線保護の専門誌に掲載される

──
『知ろうとすること。』を出版されてから
1年を経たわけですが、
伝えたいと思った人に伝えたい内容が、
どのくらい伝わった感がありますか?
早野
「『知ろうとすること。』が出た頃から空気が変わった」
という声が多数寄せられたことを、嬉しく思っています。
女性誌などにも取り上げられたこともあって、
福島の現状をあまりご存知ない方々に、
状況の一端を知っていただけたと思います。
また、同書中の「138億歳の水素」の部分に
多くの方々が(期待通りに)反応して下さったのは、
科学者として嬉しく思います。
──
2015年11月現在、誰に何を一番伝えたいですか?
早野
『知ろうとすること。』の表紙に
写っている福島高校の生徒さんたちと、
ほぼ一年かけてやった研究
──世界の高校生の個人線量比較──が、
本年12月に英国の放射線防護の専門誌に
掲載されることになりました。
日本、フランス、ポーランド、ベラルーシの
高校生200人以上が共著者となったこの論文によって、
高校生たちが日常生活で受けている外部被ばく線量は、
福島も、日本の他の地域も、
(ベラルーシを含む)ヨーロッパも、
ほとんど変わらないことがはっきりと示されました。
この結果と、福島高校の生徒さんの姿に、
多くの方が勇気付けられた。
そのことを、多くの方に知っていただきたいと思います。
(この論文はインタビュー時点での掲載予定は
12月でしたが、11月27日に公開されました。)

外国での福島のイメージは事故直後のまま

──
早野さんが、外国人にプレゼンする必要があると
痛感する内容は何ですか?
それは4年半でどう変わってきましたか?
早野
外国で、福島のことは、
もう日常的には話題になっておらず、
たまに話題になるとすれば、
それは汚染水や甲状腺に関するニュースが
センセーショナルに発信される時ではないでしょうか。
多くの方にとって、
福島はチェルノブイリと並ぶ大事故として記憶され、
2011年3月のイメージが固定されているように感じます。
「福島に人が住んでいるのか!」
と言って驚かれるという状況は、あまり変わっていない。
多くの方が避難生活を強いられているという
重い現実がある一方、
平常を取り戻しつつある方も多いということを、
データにもとづいて伝えることが
必要だというスタンスは変わっていません。
あと、外国でプレゼンする際、
現地に住んでおられる日本人
──事故後に日本から避難された方も含む──
との交流も大事だと思っています。
──
ミラノで行われた講演に関し、
過去の欧州での講演の反応から見る
共通点と差異点をあげていただけますか?
早野
共通することとしては、欧州各地で、
福島の子供達を保養に招こうという方々が
大勢おられるんだなぁ、ということです。
お気持ちはありがたいけれど、
もうそれが必要な状況ではない、
ということを理解していただくのは容易ではありません。
それを除けば、
今回は7月にミラノ大学の学生さんたちが
福島を訪問されたという実績もあり、
これまでの講演よりも淡々としていたと感じます。

(4回目に紹介したミラノ大学博士課程に
留学している高雲さんは、
早野さんがプログラムオフィサーをされている
東京工業大学の
原子力セキュリティーエージェント養成コースの
生徒さんでした。会場で偶然に出会った2人は
びっくりというシーンがありました)

早野さんは、日本国内について
まだまだ多くの問題を抱えながらも前進がみられるも、
外国においては福島の情報がほとんど更新されていない、
と実感されています。

この大きな乖離を
そのままほっておくわけにはいきません。
そのために外国に向けた発信を精力的に行う重要性を
ぼくは感じています。

(つづきます)

2015-12-02-WED