ヤマダのコーヒーその2 コーヒーは生鮮食品なのだ。

世界一コーヒーを淹れるのが上手なパーカッショニスト、
山田智之さん編の第2回です。
なかなか「アンチエイジング」の話にならないんですけど、
山田少年の「コーヒー成長ものがたり」が面白いので
まずそれを完結させたいと思います。

前回は、小学生にして山田少年がコーヒーにめざめ、
なんだかよくわからないながら
いきなり「焙煎」をスタートした中学生時代まででした。
焙煎って何? というところから
「初めチョロチョロ、
 中パッパなんじゃないの?」
とお母さんに言われてやってみるうちに
なんとかうまくできるようになった、と。

けれども借りたロースター(焙煎器具)を返したあとは
フライパンでやってみたところ、また失敗。
「コーヒー豆って片っぽが平らなんで、
 片っぽばっかり焼けちゃって」。
ああ、そうか! たしかに豆って、そういう形ですよね。
だからロースターって
くるくる回すしかけになっているんですね。

やがてフライパンでの焙煎のコツをつかんだ山田少年、
中1にして
「自分の部屋にポットを置いて、
 自分の部屋で淹れられる環境にして、
 友達が来たら、『コーヒー飲む?』って感じでした」。
うーん、やっぱりそんな13歳って、
ちょっといませんよね。すごいなあ。
そして高校生になった頃には、
豆が入った瓶を部屋に並べ、
自分で混ぜて「なんとかブレンド」として
淹れていたのだそう。
その頃は「メニュー」もあって(喫茶店か!)、
ロマンチストだった山田少年は、
「ほんとうに覚えてないけど、
 思い出したらきっと恥ずかしくなるような
 ブレンド名をつけてました」。

ええと、それは
『星のしずくの山田ドリップ』とかそういうことですね。
(ちなみにその頃、そのドリップを飲んでくれた幼なじみは
 本気でコーヒーの道にすすみ、
 昨年自家焙煎のコーヒー屋さんを開店したそうです。)

そのうち、ドリップだけじゃなく
サイフォンに手を出してみたり、
デミタスカップをそろえてみたりと、
高校時代はますます「コーヒーをめぐる世界」に陶酔。
喫茶店通いにも拍車がかかります。

「地元で面白い喫茶店を見つけたんですよ。
 自家焙煎とかじゃないんですけど、
 コーヒーの豆を買ったらボトルでキープしてくれる。
 だから1杯300円とか400円じゃなく、
 100グラム400円ぐらいで買って置いとくと、
 行った時はその豆で淹れてくれるんです」
おお。それは画期的! お小遣いにもやさしい!
今でも、近くにあれば通いたいですよね。

その頃の愛読書は、
料理専門出版社の柴田書店から出ていた
月刊喫茶店経営別冊『blendブレンド』。
コーヒー通たちがこぞって呼んだ名雑誌だそうです。

自家焙煎コーヒーの有名な店の紹介から、
「自分でやってみよう、手網(てあみ)焙煎」
というような特集記事を、
穴が開くほど読みふけります。
そこで知った「手網」も、もちろん入手、
自家焙煎の道もどんどん進んでいきました。
また、地元の石巻にはない自家焙煎コーヒー店が、
仙台にあることを知り(「カフェ・プロコプ」)、
日曜日の朝から自転車で50キロ以上の道を
走って通っていたそうです。
(石巻から片道800円の電車賃がもったいないので!)

●大学受験もコーヒー優先。

ちょっとずつ入ってきた情報で
(なにしろ今とはちがいますから)
だんだん「コーヒーリテラシー」を
高めていった山田少年は、
大学受験のターゲットを「東京」に据えます。
そりゃそうですよね、
東京にはおいしいコーヒー屋さんが
当時からいっぱいありましたから。
とうぜんのことながら、受験で上京したときも、
ずっとコーヒー屋に通い詰め。
青山の「大坊」、
吉祥寺の「カフェ・モカ」、
銀座の「カフェ・ド・ランブル」、
南千住の「カフェ・バッハ」、
外苑前の「ダボス」。
これが当時の山田くんの
「5大トーキョーコーヒー」だったそうです。

店では豆も買って、
宿泊先でコーヒーを淹れる日々。
しかしながら、その年の受験は全滅!
まあ‥‥、そういうこともあります。
コーヒーのせいじゃないと思います。
コーヒー、わるくない。

そして翌年は仙台で一浪。
そのあいだに、
コーヒーとならんで興味をもっていた
音楽の道に進むことを決意します。
東京でプロミュージシャンを目指して音楽の学校に入ると。
ここでコーヒーは「趣味」と確信していたそうです。
(プロになるなんてほんのちょっとも思わなかった、と。)

当時の山田青年(もう少年じゃないですね)は、
コーヒーに関してはとんでもなく生意気。
「初期の『美味しんぼ』の
 山岡みたいなことをよくやってました」
って、どういうことなんですか。

「コーヒー屋に行きますよね。
 『この生の豆を売ってくれませんか?』
 って店の人に言いますよね」

はい、それはふつうですよ。

「『何? きみが焼くの? きみが焼くより、
  僕が焼いた豆、買ってきゃあいいじゃん』
 って言われりするでしょう?」

まあねえ、むこうはプロで、こちらは10代の若者。
そう言いたくなる人もいたでしょうねえ。

「そう言われたら、ぼくは、その豆を、
 ハンドピック(豆を一粒ずつ検査)するんです。

 そしてこう言います。
 『こんなに欠点豆があって、
  煎りムラがあるような豆‥‥
  いらねえんだよっ!』
 そしてバーンとカウンターをたたいて帰ります。
 そんな感じです」

‥‥うわっ! 感じわるい!! そんな19歳いやだ!

いっぽう、気に入った店には入り浸ります。
その店の近くに引っ越し(吉祥寺だったそうです)、
店長の淹れ方をこっそり見て学んで、
どんどん自分のスキルを高めていきます。
バイトはしません。客として行くのです。
そこは徹底していたそうです。

●スタバのバイトでも頭角をあらわす

そんな山田青年でしたから、日本に展開をはじめた
「スターバックス」みたいなお店には、
とうぜん興味がなかったんですよね?

「いえ、バイトしてました」。
え? なぜ? あそこはドリップじゃないですよ。
おおきなマシンで淹れるエスプレッソ系ですよ。

「そこです! あの店には、200万円くらいする、
 しかも200ボルトの電源が必要な、
 でっかい業務用のマシンがあるんです。
 それはお客さんはいじれないでしょ?
 でもバイトすれば使うことができるので、
 『じゃ、バイトしよう』と思ったんです」

ああ、コーヒーのことならなんでも知りたいわけですね。
そして山田バイト青年は、
スタバでは出さない「カプチーノアート」のようなことも
(たぶん時代的にはまだまだ流行ってない頃)、
休憩のときに、マイミルクピッチャーで独学、マスター。
ペーパードリップ、ネルドリップ、
サイフォン、フレンチプレス、そしてエスプレッソ、
カプチーノ‥‥と、
基本的なコーヒーの技術はすべて習得していくわけです。

ちなみにいちばん好きなのはネルドリップだそうで、
「型紙おこして、自分で縫います」というレベル。
生地屋でデッドストックの、
食品用のよいネル布をたくさんみつけて買っておいたので、
いまでもすごい量の「自作ネルドリッパー」が
自宅にあるそうです。
(しつこいようですが、
 山田さんの本業はミュージシャンです。)
そうそう、スターバックスでのバイト時代には、
社内で行われたコンテストに出たら、
とうぜんのように入賞したらしい。
ただ「そういうことにはぜんぜん興味がないんですよ。
賞状も‥‥どこいっちゃったんだろう?」。
ぼくはプロじゃないから‥‥だそうです。
(そうですよね、ミュージシャンですからね!)

●コーヒーってアンチエイジング?

さて、いよいよ本題です。
なぜコーヒーが「アンチエイジング」と関係するのか?
ぼくが山田さんから教わったなかで、
いちばん驚いたのは、じつは、こういう事実でした。

「焙煎したコーヒーって、
 鮮度第一の、生鮮食品なんですよ」

ん?
食品には、ざっくり、乾物と生鮮食品がありますが、
乾燥させたコーヒー豆は乾物なんじゃないですか。
火を入れているし、長持ちするし。
べつに明治時代に焙煎したコーヒーだって
飲めたりしそうじゃないですかー。
ほら、ワインとか古酒みたいに。

「武井さん、その認識がまちがっているんですよ。
 乾燥させた生豆の状態でしたら、
 コーヒー豆はたしかに長期保存可能な乾物です。
 けれども焙煎をしたコーヒー豆って、
 その段階から『酸化』のカウントダウンがはじまる
 生きた食品になるんです。
 お肉やお魚、生野菜とおんなじですよ。」

さ、酸化! それは、このコンテンツで
いちばんといってもいいくらいのキーワードです。
鶴見大学の斎藤先生や梁先生がおっしゃってましたよ、
「酸化した食べ物を、カラダに入れないように」って。
酸化というのは、錆(さび)。
カラダを錆びつかせたくなかったら、
錆を摂っちゃだめですよ、ということです。

古い油なんかは、酸化がすすんでいるからNG。
でも「揚げ物を食べちゃだめ」ってわけじゃなく、
食べるなら揚げたてを。先生はおっしゃいました、
「てんぷら屋さんだったらカウンターに!」と。
そのくらい気にしていなさいね、ということです。

‥‥ということは、もしかしたらコーヒーも?
そういえば、ぼくはコーヒーって深煎りの
フレンチローストが好きなんですが、
深く煎れば煎るほど、
豆は油を出してつやつやになりますよね。
あの油が、酸化していくわけだ‥‥?!

「ぼくは、お医者さんじゃないから、
 カラダにいいかどうかは明確に答えられないけれど、
 はっきり断言できるのは、
 焙煎して時間が経ちすぎたコーヒーは
 おいしくないよ、ってことです。
 『おれは食べて痩せたいのだ。』的に言い換えれば、
 コーヒーって、焙煎してから一定期間内の豆を、
 挽きたてで淹れると、ほんとうにおいしいですよ。
 そのおいしさを、もしかしたらみんな、
 ちゃんと知らないんじゃないかなあって、
 このごろ、思うんです」

山田さん、どうせ飲むならカラダにいいものを。
おいしいコーヒー、興味あります。
ぜひ教えてくださーい!

(つづきます!)

2015-01-23-FRI