マルディ・グラの和知さんの
「ていねいでおいしい野菜」
その5 エスニックのサラダなのだ。

“山梨のスガワラブンタさん”、
わたくしどもの『料理通信』10月号に載っております!
お送りいたしますので、お時間のある時にでも。

            (『料理通信』編集部の千葉さんより)

先週、和知さんが使っていた
超でっかいにんにくのつくり手が、
“山梨のスガワラブンタさん”であると聞き、
ぼくら、勝手な想像の似顔絵を描いて載せました。

イラスト にんにく農家の菅原文太の勝手なイメージ。が巨大にんにくをがしっと掴んでこっちに見せてるみたいな

それが、まさか、まさか。
届いた『料理通信』10月号をめくってみたら、
どっひゃー!

“山梨のスガワラブンタさん”とは、
あの俳優の菅原文太さんなのでした!

和知さんは、
「山梨のスガワラブンタさんという人が
 つくっているんですよ、ふふふ」
って、含みのある言い方をしてたから、
てっきり同姓同名かと思ってたましたよ~!

記事によると菅原文太さんは俳優業を辞め、
山梨の北杜市に6反ほどの農地を借りて、
化学肥料や農薬を使わない農法での
野菜づくりをはじめたんだそうです。
知らないうちに、菅原文太さんのつくるにんにくを
食べていたのか‥‥。
それにしてもおいしいにんにくでしたよ。
文太さん、すごいなー。

さてさて、今回で和知さんのシリーズは最終回です。
いままでつくってきた「自家製ケチャップ」や
「ハーブビネガー」「カレーコーヒーオイル」を
使いますから、おさらいしておいてねー。

まずは旅する料理人和知さんならではの、
こんなサラダです。


【焼き茄子の中東風サラダ】

[材料]
・茄子‥‥2本
・カッテージチーズ(ヨーグルトやサワークリームでも)
 ‥‥大さじ2
・クミンパウダー‥‥少々
・レモン‥‥(ワックスのかかっていないもの)
 皮をすこし
・塩‥‥ひとさし指にのる程度
・シナモン‥‥ほんのすこし
・スパイスふりかけ‥‥適量

[つくりかた]
1)焼き茄子をつくります。
  焼き網で皮全体がこんがり焦げるまで加熱するか、
  アルミ箔に包んで魚焼きグリルに
  入れるなどして焼き、
  熱いうちに丁寧に皮をむきます。
2)ボウルに移し、カッテージチーズ、クミンパウダー、
  塩、シナモン、そしておろし金でレモンの皮をすり、
  全体を混ぜます。
3)スパイスふりかけをかけてどうぞ。

▲こんがり~。(工程1)

▲皮をむきました(工程1)

▲調味料を入れてよく和えます。(工程2)

茄子のサラダっていうと、
生をシャクシャク食べるのかなって思いきや、
見た目、とろとろ! 食感も、とろとろ!
焼き茄子をさらにねっとり和えちゃう
というのがすごい。
そもそも焼き茄子って、
「かたち」をめでる部分があるというか、
茄子だってわかるかたちでだしますよね。
なのにこうだもんなあ。

▲んま~~~! 魔法のじゅうたんで異国に連れていかれるみたいなおいしさなんですよ。

レモンの皮だけをちょっと使うっていうのも面白い。

「ぼく、レモン汁を絞って食べるっていうのが、
 あまり個人的には好きではなくって。
 でも、レモンの清涼感を出したいときに、
 こんなふうに皮をちょっとだけっていうのは、
 よくやります」

と和知さん。
和食でも、柚子とか、こういうふうに使いますよね。

「そう、香りが立ちますよね」

そうだ、柑橘を使うのも塩分カットにつながります。
日本の焼き茄子は、しょうが醤油とかで、
日本酒のアテになりそうなイメージで、
たぶん、じっさい、塩分が強いと思いますが、
和知さんのこのサラダは、
いろんなスパイスの香りもあって、
そのぶん、塩分が要らないんだなあ。
だって、カッテージチーズと、
ひとさし指にのる程度の塩だけだもの!

「そう、人差し指は計量スプーン!」

ひとさし指は計量スプーンでキラリーンな和知さん

さて続いては、どこの国?
ズッキーニを塩ゆでして、
その塩気だけで食べる温サラダです。


【茹でズッキーニのナムル風】

[材料]
・ズッキーニ‥‥1本
・塩‥‥水1リットルに対し大さじ2
・にんにく‥‥少々
ハーブビネガー‥‥少々
カレーコーヒーオイル‥‥少々
・ミント‥‥少々

[つくりかた]
1)ズッキーニを厚めの輪切りにします。
2)鍋に湯を沸かし、塩を入れて、
  ズッキーニをさっと茹でます。
3)湯からあげ、四つ切り(いちょう切り)にして
  ボウルに入れます。
4)にんにくを生のまますり下ろし、
  ボウルに加えます。
5)ハーブビネガーをほんのすこし垂らします。
6)オイルを少しだけ入れます。
7)刻んだミントを和えてできあがりです。

▲ズッキーニを厚めの輪切りに。(工程1)

▲さっと茹でます。(工程2)

▲いちょう切りに。(工程3)

▲にんにくちょびっと。(工程4)

▲カレーコーヒーオイルとハーブビネガーを使うよ。(工程5,6)

▲ミントはこんな感じで。(工程7)

ふしぎ、ふしぎ!
前につくった「カレーコーヒーオイル」を使うんですが、
生にんにくを使うからかなあ、
仕上がりはなぜか韓国風のような気がしないでもないし、
でもミントやハーブも入るから中東風な気もします。
ていうかおいしい!
いくらでも食べられちゃいそうです。
ちなみに茹で塩は、パスタを茹でるようなつもりで
どさっと入れちゃって大丈夫です。
多い? いえ、じつはそんなに吸いません。
パスタもそうだけど、ほんのり味がつく程度。
パスタはさらにソースで和えるけど、
このズッキーニは、それ以上の塩分を使いません。
だからそんなにしょっぱくならないのですね。

「できたて熱々でもいいですし、
 ちょっと時間が経って、馴染んだところでも
 おいしく食べられますよ」

これは冷蔵庫で冷やしてもいいかもですねー。
さあどんどん行きましょう。
こんどは‥‥揚げ!


【芽キャベツの揚げサラダ】

[材料]
・芽キャベツ‥‥適量
・塩‥‥大粒のもの少々
・サラダ油‥‥適量

[つくりかた]
1)芽キャベツの根元に十字に切り込みを入れます。
2)サラダ油を熱します。160度くらいになったら
  芽キャベツを入れ、170度まで熱します。
3)花を開くような感じでかりっと揚げます。
  まわりがすこし焦げた感じになります。
4)油を切り、皿に並べ、大粒の塩を、
  芽キャベツ1コに4粒(のつもりで)かけます。
5)楊枝を差すとピンチョス風になります。

▲十字に切り込みを入れるのだ。(工程1)

▲160度から揚げるのだ!(工程2)

▲だんだん開いてきたよ!(工程3)

▲こんがり~。(工程3)

▲塩を4粒ずつ。(工程4)

芽キャベツ! おいしいしビタミンもミネラルもあるけど、
茹でただけのものって、
けっこう苦味があるから、敬遠する人も多いですよね。
ぼくは好きなんだけど‥‥。

「そうなんです。
 ホワイトシチューに入っている芽キャベツって、
 皆さん、好き嫌いが非常に分かれるんです。
 あんがい嫌う人が多いという印象かな。
 だから素揚げしちゃいました。
 揚げると、その苦味が、香ばしさっていうほうに
 意識が行くような味になるんですよ。
 衣も付けないで大丈夫なので、
 思い立ったら、もうサッとできる。
 『芽キャベツがちょっと苦手で』って言う人に
 あえて食べさせたいって思って揚げてます」

へえ、苦味が、香ばしさに!

「苦味が消えるわけじゃないんだと思います。
 けれども、揚げることで、
 水分が抜けて甘味がぐっと感じられるようになる。
 苦甘い感じですね、フライにすると」

しょうじき「揚げるんかい!」って思いましたよ。
でも、そうでした。揚げものがダメじゃないっていうのは、
以前、アンチエイジング学会・
鶴見大学教授の斎藤一郎先生からも言われていたこと。
古い油をとるのがいけない、
カロリーオーバーにならなければ、
新鮮な揚げもの(つまり、揚げたて)はOKであると。
そうなったらすぐに食べねば、揚げたてを頬張らねば!

あぢ、あぢぢぢぢ! でも、おいしー!

☆イラスト 熱がる武井

そして、この塩も、いいですね。4粒って。

「4は目安だけど(笑)、
 粗い粒を、置くように、ってことです。
 粗いほうが食感があるし、
 舌に感じる塩も強いんです」

そうか、塩が表面にあるから、
ちゃんとしょっぱいって感じる。
そのわりに、じつは塩分は少ない。
揚げ物とかって、下味に塩を使うと、
けっこうな塩分になっちゃうんですよね。
でもこうして仕上げに使うぶんにはよさそうです。

と、ここで、なぜか和知さんが「ニヤリ」。

☆イラスト また別の感じのワルい和知さん

「さあ、これまで野菜をたっぷり
 調理してきましたから、
 最後にちょっとワルいものをつくりましょう。
 お肉‥‥食べたいでしょう?」

食べたーい!

「では、ヘルシーなハンバーグ、つくります」


【蒸しハンバーグ】

[材料]
・牛ひき肉‥‥500グラム
・塩‥‥6グラム
・たまねぎ‥‥1/2コ
・にんにく‥‥1/2~1片
・オールスパイス‥‥少々
・こしょう‥‥少々
・バター‥‥少々
・(オプション)水で戻した乾燥ポルチーニ‥‥適量
・いんげん‥‥適量
・イタリアンパセリ‥‥適量
・自家製ケチャップ‥‥たっぷり

[つくりかた]
1)材料全体を、粘り気が出るまで、手でよくこねます。
2)ハンバーグ1コぶんを手に取ってまるめ、
  よく空気を抜いてから、お皿にひろげます。
3)ポルチーニを肉のまわりにならべ、
  肉の上にバターをのせます。
4)蒸し器を沸騰させ、皿を置き、
  開いたスペースにいんげんを入れます。
5)火が通るまで加熱します。
6)皿に盛り、いんげんとパセリをならべ、
  ハンバーグに自家製ケチャップを
  たっぷりのせてどうぞ。

▲ハンバーグ1コ分です。(工程2)

▲お皿にぺたぺた。(工程2)

▲ポルチーニとバターをのせて、いんげんといっしょに蒸し器へ。(工程4)

▲蒸し揚がりました!(工程5)

▲試食! マンガか?! マンガだな。

この「蒸しハンバーグ」、
ふっくらふわふわしていて、
でもお肉の歯ごたえもあって、
ポルチーニの出汁やバターの風味もあって、
さらに「野菜のソース」である
自家製ケチャップがいい仕事をしてくれて、
えもいえぬ、うまさに。
「油で焼く」のと比べると、
あきらかに、口がべとべと・ぎとぎとしません。
あとから調べてみたところ、
「蒸す」と、食材の脂が抜け、
反面、栄養素はとじこめられるのがいいみたい。
となると、うつわに残った肉汁は、
飲み干さないほうがいいわけですね‥‥。
香り付けのバターの、「ワルい部分」が
肉汁に残ってるしね‥‥ごくり。

☆イラスト 残った肉汁によだれをたらす武井

いやはや、おいしかった。
そうそう、和知さんから、
あらためてメッセージをいただきましたよ。


この回の原稿を、
いっときのブーム(2000年初頭)以来、
2度目の訪韓のときに読みました。

韓国では、改めてバランスの良い食生活の現場を
見ることができました。

様々な野菜と(ナムルや漬け物)、
調味料で揉まないで頂く焼き肉。
豊富な発酵食品、
漢方(まさにスパイス)、
それらは後から、
塩を加えなくても旨味と風味で、
料理の楽しみが広がり豊かなものになります。

滞在中、考えていたのは、こんなことです。
病(体調の変化)は先ず、
「心」を整えて、
「きちんとこしらえた食事」をして、
薬は最後だなと。

今回、このコンテンツでは、
塩分や油脂を減らし、
代わりに煮詰めて旨味を引き出し、
スパイスやハーブで香り豊かな
風味を楽しんだり、
味付けしないサラダの様に
組み合わせの妙に驚いたり。

楽しむ心の余裕と好奇心、
食べられる楽しみがある食事。
少しでもお手伝いできて、
嬉しかったです。
(本当に名残り惜しいです。)

生で、焼き、蒸し、茹で、
旬の野菜はもちろん、
いつもの常備野菜も、
香りやテクスチャーを変えると、
お菓子の様にファンタジーが生まれ、
可能性は無限に広がります。
作る事の楽しさや、
身体の調子の変化をじわじわ感じて、
内面から湧き上がる力となり、
アンチエイジングになるのだと思います。

楽しくやらせて頂きました。
今後ともよろしくお願いします!
アイデアの泉は、まだまだ枯れません!!
 
マルディ・グラ 
和知徹


ああ、ぼくらも名残惜しいです。
今回で和知さんシリーズは終わりですが、
ぜひまた、和知さんには
登場いただきたいと思っております。
どうぞよろしくおねがいします!

さて次のテーマですが、「コーヒー」の話になる予定です。
「世界でいちばん
 コーヒーを淹れるのが上手なパーカッショニスト」
あるいは
「世界でいちばんパーカッションが上手なコーヒー好き」
という、おもしろい人に出会ったのです。
コーヒーには諸説、諸派ありますけれど、
このかたの言う通りにすると、たしかにおいしい。
ちょっと時間をいただいてから更新予定です。
どうぞおたのしみにー!

取材中、和知さんが繰り出す
さまざまな趣向の凝らしたサラダ。
次々とおいしさにノックアウトされた我々でしたが、
「和知さんのところに行くんだからね」
と、朝ごはんを控えめに。
そして、昼ごはんを抜いた武井さん。
「うまい。うまいんだけど、腹減った‥‥」
と、武井さんの生気がどんどん失われていくのを
ぼくは見逃しませんでした。
今回、ご紹介する映像はようやく肉が出て
わかりやすいくらいテンションがあがった瞬間の武井さん。
ぼくは見逃しませんでした‥‥。

2014-10-16-THU