杏さんが考えてきたこと。
第3回:着物をもっと身近なものに。
料理の話に戻るんですけど、
飯島奈美さんの『LIFE』も
読ませていただいてます。
糸井
ああ、ありがとうございます。
作ってみたりしました?
全部はまだまだなんですけど、
そのときあった材料で
さっと作れるのでいいですね。
糸井
何回も作っているものとかあります?
卵とトマトとしらすの‥‥。
糸井
ちゃちゃっとかき混ぜるやつ?
そうです、そうです。
糸井
『LIFE副菜』に入っているやつね。
あれ、結構、役に立つんですよね。
はい。
糸井
ぼく、飯島さんが作るような食事こそが、
本当の観光資源だと思ってるんですよ。
よく、「おもてなし」とか言ってるけど、
外国から人が来たときに、
三つ指ついて「いらっしゃいませ」と言っても、
単にめずらしい風景くらいにしか
見えないと思うんですよ。
普通のおいしいものを食べさせたほうが
喜ばれるんじゃないかな。
いまって、ハリウッドのスターたちが来日すると、
こっそりラーメン屋に
行ったりしてるじゃないですか。
あ、そうですね。
お店に行くとサインがあったり。
糸井
そういう、日本人が
普通に食べているものの品質が
圧倒的に上がっていったら、
外国の、どのご飯と比べても
負けないおいしさだと思うんです。
だから、飯島さんが東京オリンピックのときに
大活躍する、というのがぼくの夢なんですよ。
いいですね。
あの、観光のことでいうと、
私も思っていることがあるんです。
糸井
うん。
それは、もっとみんなが
着物を着るようになったらいいのにな、
ってことなんです。
外国人が日本に来て、
着物を着ている人をたくさん見かけたら、
「へえ」って思うでしょうし、
それもそれで1つの観光資源というか。
糸井
ああ、そうでしょうね。
着物が制服になっている学校とかも、
あったら素敵なのにな、って。
糸井
ブータンはそうですよ。
みんな着物で学校に行ってます。
「ゴ」っていう着物に似た衣装を
着ているんですよね。
それ、いいなと思うんです。
いまは、日本人同士でも
「着物着れるって、すごいね」
みたいになるじゃないですか。
「着物=すごいもの」というようなイメージがあって。
でも、『ごちそうさん』に出ていたとき、
私は大正時代の女学生役だったので
袴を履いていたんですが、
すごくラクだったし、
窮屈だと感じたことが一度もなかったんです。
糸井
へえ。
着物って、
「お太鼓絞めて、帯板入れて」という
本格的な着方だったら大変ですけど、
普段の日だったら、ラクに結べる
半幅帯くらいでいいと思いますし。
もっと気軽に楽しめるように
なったらいいのにな、と思うんですよね。
糸井
着物の話でいうと、
この間、文化勲章をもらった
志村ふくみさんという方がいて、
もう91歳なんですけど、
まだパタパタ、着物を織ってるんですよ。
それも生地を染めるところからやってらして。
それ、すごいですね。
糸井
織っているのは、
もう国宝級のものなんだけど、
着物の文化って、
なんだか、途絶えるほうに向かってるんです。
でも、「教える」ということなら
まだ人が集まるからって、
志村さんが教室をはじめて、
集まった生徒さんたちが、
ちゃんと着物を作れるようになるまで
指導しているんです。
へえ。
糸井
でも、作ったものを
持って行く先がないのが現状で。
織れるようになった人がいても、
結局、自分が着るか、
誰かにプレゼントするしかなかったんです。
喜んで買ってくれる人がいたら、
着物って、もっと広がるはずなんですよ。
そこが問題なんじゃないかと思って、
ぼくがお手伝いをしたんです。
皆川明さんのブランド
「ミナ・ペルホネン」の帯と
組み合わせて展示会をやったら、
着物も帯も、どっちも売れたんですよ。
あ、すごい。いいですね。
糸井
需要があったら、
いま途絶えかけている絹糸を作るという文化も、
染めの原料になる植物を育てる人も増えて、
いい循環ができるはずなんです。
「ただ、ないのは、
 着物を着ていく場所なんですよね」
っていう話が出てきていて。
着物を着て行ける場所というと、
「観劇とお茶」ってコースに
なっちゃうんですよ。
普通にレストランに着て行っても
本当はいいと思うんですけどね。
私も、もっといろいろ着てみたいし。
糸井
一回、志村さんのとこに行く?
え?
糸井
本気で幕末に興味がある人が、
「みんながもっと着物を着たらいいのに」
と言ってるのって、いいなぁと思って。
講師として来てほしいくらいです。
あ、でも私は、
教えられるものは何もなくて、
こうなったらいいのにな、くらいしか。
糸井
教えるっていうか、
問題意識をポッと出して、
先生と話す、ということはできますよね。
公開ディスカッション的な。
糸井
そうそうそう。
そういうことでしたら、
もう、疑問はいっぱいあるので(笑)。
糸井
ありますよね。
みんなが「織れる人」じゃなくていいと思うし、
着物の文化みたいなものを、
あんまり肩肘張らずに知識として取り入れて、
「それを知るのが楽しい」
っていう人も増えるといいなと思っているんです。
ワインだって、
うんちくを語れる人がいるからこそ
流行ったわけだから。
そうですね。
モデルとして着物を着ると、
いつも何か固定された表現しかできなくて。
もちろん着物を着て足を広げるとか、
そういうのはやっちゃいけないと思うし、
最低限のマナーは守るべきだと思うんですけど、
もっと何か自然体で
おもしろくできないのかなって思うんです。
糸井
要するに「業界の約束事」で
固まっているんですよね。
「ミナ・ペルホネンの帯」なんていうのは、
これまでは、皆川さんの側から提案しても
あり得なかったんですよ。
でも、志村さんから「やりたい」って
言ってくれたからできたんです。
そんなふうにケミストリーが起これば、
着物のショーも、いろいろな形でできそうですね。
生活の佇まいを
芝居仕立てにしたっていいわけだし。
これからできることは、
結構あるんじゃないですかね。
‥‥あ、時代劇の話からはじまったけど、
こういう話は、実は仕事にも役立ちますね(笑)。
そうですね(笑)。


(つづきます)
2016-03-16-WED